仕事のプロ
チームの創造性を高める「ソース原理」とは?〈後編〉
リーダーからソースにシフトし「グリーンの罠」を脱する
組織の規模や形態に関わらず、起業や新規プロジェクトなどアイデアやビジョンの実現に向けた一連のプロセスにおいて必ず働いているとされる「ソース原理」。前編では、必ず1人に絞れる「ソース(=アイデアやビジョンの実現のために一歩踏み出した人)」の存在など、ソース原理の枠組みについて嘉村賢州氏に伺った。 では、ワーカーが抱える課題や置かれた状況において、ソース原理をいかに役立たせることができるのか。引き続き、嘉村氏に伺った。
多様性や平等を尊重するがあまりに 陥る「グリーンの罠」とは?
人がビジョンを実現しようとするプロセスを捉える「ソース原理」が注目を集めるようになった背景の一つに、いわゆる「グリーンの罠」があると嘉村氏は説明する。「グリーン(組織)」とは、「ティール組織」の提唱者であるフレデリック・ラルー氏によって紹介された組織モデルの一つだ。 〈フレデリック・ラルー氏が提唱する5つの組織モデル〉
- レッド(衝動型)組織:狼の群れのような力や恐怖による支配で、短期的な思考。マフィアやギャング組織など。
- アンバー(順応型)組織:規則、規律による階層構造。長期的展望を持つことが可能に。軍隊、教会、行政機関など。
- オレンジ(達成型)組織:階層構造を持ちつつ実力主義も取り入れる。グローバル企業など現在の企業の大半がこれに当たる。
- グリーン(多元型)組織:多様性と平等と文化を重視し、ボトムアップで意思決定を行う。NPO法人などが近いと言われる。
- ティール(進化型)組織:変化の激しい時代における「生命体型組織」。自律的に進化し続ける次世代型の組織形態で、上司からの指示や管理なしに、社員一人ひとりが主体的に意思決定、行動する組織。
トップダウン・ボトムアップ両方の利点を 活かすソース原理は、組織づくりにも有効
こうした組織論に一石を投じたのが、「ソース原理」だ。組織の形態にこだわるのではなく、その創造プロセスにおいて「ソース」という1人の個人に焦点を当てることで、どのような組織であっても当てはめることができる原理として注目されている。 「ソース原理は組織論ではありませんから、オレンジ、グリーン、ティールなどさまざまな形態の組織においてもその視座を活用することができます。同時に、組織に属する人の多様性もプロジェクトを立ち上げた人の直感やリーダーシップも大事にするというトップダウンとボトムアップが統合されたティール組織のあり方とも親和性が高く、ティール組織の提唱者であるフレデリック・ラルー氏も言及しています。 仕事のプロジェクトであれ学生時代の活動であれ、誰かがビジョンの実現に向けて一歩踏み出したときに創造が始まり、そこに共鳴した人々がプロジェクトに参画し、ビジョンの実現に向けて高い熱量をもって創造的・協働的に活動する...というプロセスを実際に経験したことのある人には、ソース原理は強く響くはずです」
ソース原理は創造のプロセスを辿るための言語。 実際の状況に当てはめると、問題の本質が見えてくる
そして、「ソース原理を知っておくことで、プロジェクトやチームがうまく回っていないときに、その原因を探り対処することができるようになる」と嘉村氏は言う。 「ソース原理を学ぶことは言語を学ぶようなものだと彼らは言います。例えば、なんだかフワフワしていて全然進まない...というプロジェクトがあったとします。今までは手探りでその課題解決をしていたと思いますが、これからは、このプロジェクトのグローバルソースって誰なんだっけ、そもそも実現したいビジョンやイニシアチブは何だっけ、この領域のサブソースは誰だっけ...とソース原理に当てはめて分解してみてください。すると、ソースが不在だった(当初のソースがプロジェクトを去っていた)、ソースの熱量が下がっていた、サブソースの引き受けが足りずエンプロイー状態だった、ソースが暴君化していた(もしくは怠け者だった)...などの問題の本質が見えてくるはずです 昨今、誰も心からオーナーシップをもっていないプロジェクト、つまりソース不在のプロジェクトは世の中に山積しています。立ち上げたソース役が心の準備ができていな社員に押し付けフィールドから去ってしまった。あるいは、ワークショップの中での投票でアイデアは選ばれたものの、実はそこに情熱を持っている人は一人もいなかったなど。誰も責任をとろうとしないから可もなく不可もないプロジェクトになる。 また、今の世の中は同じ組織の中でもオレンジ・グリーン・ティールの要素が混ざっているような組織が多くあります。完全にティール組織の場合、実は自然にプロジェクトは生成・消滅していきますが、オレンジやグリーンの要素を残す場合、始めたものには強い結果責任や説明責任が伴うため、やめるのが難しいケースが多い。プロジェクトばかり増えてみんなが忙しくなってしまい新規事業に取り組む余白がない...ということが現実として起こっています」
「直感・内省・対話」のための時間を確保し、 ソースとしてエネルギーをもち続ける
では、自らソースとなって一歩を踏み出し、イニシアチブに取り組む際には、どのようなことに気をつけるべきなのだろうか。嘉村氏は、ソースの役割として前編で挙げたリスクを取る(不確実な中でも行動していく)、次の一歩を明確に示す、境界線を引く、の源ともなる、軸をブラさずエネルギーをもち続けることの重要性を強調する。
「ソースは、オーナーシップをもって何のためにやるのかを考え続け、エネルギーを切らさないアーティストであり続ける必要があります。しかし、オペレーションや実務に追われすぎると、考えたり感じたりするための時間(ソースタイム)が十分に取れなくなってしまいます。自らのソースを損なわないよう、直感・内省・対話の3つに時間を確保するよう心がけると良いでしょう。
直感は、人によって降りてくるタイミングや状況が異なります。散歩中にアイデアを思いつく人もいれば、お風呂の中という人もいるでしょう。自分に合った時間と場所を確保することが大切です。内省は、自身の内面の振り返りです。自分は今どういう状況にあり、何を感じどうしたいのか...じっくりと自分自身と向き合う時間をとりましょう。そして対話は、いろんな人と話すこと。雑談と相談の間の「壁打ち」が理想です。直感・内省・対話を重ねることで、エネルギーを枯渇させることなく、ソースであり続けられるのです」
ソースタイムが生まれやすいオフィス、 人の流動性・偶発性のあるオフィスに
企業などの組織においては、熱量の高いクリエイティブ・フィールドが数多く存在することが、従業員の働きがいやウェルビーイング、さらには企業としての価値向上や利益にもつながるだろう。クリエイティブな空気を醸成するためのオフィス空間という観点から、嘉村氏に意見をいただいた。 「まず、直感・内省・対話というソースタイムが生まれやすいオフィスがいいのではないかと思います。例えば、瞑想ができるスペースがある、オフィスにいながら自然の揺らぎが感じられる、気軽に壁打ちができるカフェっぽいスペースがたくさんある...といった仕掛けがあるといいと思います。 もう一つは、流動性・偶発性です。従来のオフィスは、アンバー組織、オレンジ組織に合わせたデザイン、つまり、誰が指示を出す人なのかという指示系統がわかるようなレイアウトになっています。これが当たり前になってしまうと、社長をサブソースにする...といった発想が生まれにくくなってしまいます。既存のヒエラルキーをいかに溶かすか、緩めるか。部署や階層を超えたコミュニケーションや偶発的な出会いをいかに生み出すか。 その点では、コーポレートカラーで統一されたオフィスというのは、実は新しい発想が生まれにくいのかもしれませんよね。オフィスが、遊び心や余白のある、そして整然としすぎていない、実験的な場所になるといいのではないかと思います」 最後に、読者に向けて嘉村氏にメッセージをいただいた。 「近代的な海外の経営論や組織論を取り入れる前の日本の企業には、年功序列といった文化はあったにせよ、例えばソニーのように、作りたいものがあるから作る、というプロダクト型、ボトムアップ型の企業も多くあったはずです。その点では、ソース原理は日本の企業文化と相容れないものではないと考えています。 そして、誰もが自分の人生のソースであり、人生を構成するサブイニシアチブとして勤務先や所属先を選んでいるはず。「ソース原理」という新しい視点に照らし合わせて、自分自身、そしてメンバー一人ひとりの役割や存在意義を見直してみると、業務への取り組み方や組織の見え方が変わってくるかもしれません」
【関連記事】チームの創造性を高める「ソース原理」とは?〈前編〉嘉村 賢州(Kamura Kenshu)
1981年生まれ。場づくりの専門集団NPO法人場とつながりラボhome's vi代表理事。元東京科学大学リーダーシップ教育院 特任准教授。「未来の当たり前を今ここに」を合言葉に、個人・集団・組織の可能性をひらく方法の研究開発・実践を行っている。解説書に『ティール組織』、共訳書に『自主経営組織のはじめ方』、『すべては1人から始まる ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』(いずれも英治出版)などがある。





