組織の力

2017.09.19

企業戦略としてのテレワーク〈前編〉

準備不足のテレワーク導入は必ず行き詰まる

2016年に打ち出された働き方改革の中核として、「テレワーク」という働き方が注目されているが、これまでは「福利厚生の一環として企業が社員に提案する働き方」と認識されてきており、導入企業はまだ多くはない。しかし、株式会社テレワークマネジメントの代表取締役であり、テレワーク推進の第一人者として知られる田澤由利氏は「テレワークは福利厚生ではなく、企業が生産性を向上させるための新戦略です」と力説する。テレワークによって働き方や企業の生産性はどのように変わるのか、お話をうかがった。

企業戦略としての
テレワークが注目されている

 テレワーク導入のメリットが本格的に知られてきた2016年あたりからは、「テレワーク=企業が生き残るための戦略」という認識も浸透しつつあるという。テレワークに関する講演依頼を受ける機会が多い田澤氏は、「以前は『テレワークの基本』といったテーマでの講演が求められましたが、近年は『働き方改革を成功させるテレワークとは?』という講演テーマにシフトしてきています」と語る。
 2017年4月に連合の総合生活開発研究所が首都圏と関西圏の民間企業に勤務するビジネスパーソン2000人を対象に行った調査によると、「勤務先に在宅勤務制度がある」と回答した人は約9.7パーセントと約1割に達した。また、2017年7月24日には、総務省などが音頭をとって「テレワーク・デイ」を実施し、東京都内の企業に勤務する約6万人のワーカーが在宅型テレワークを体験した。2020年夏に開催される東京オリンピックの時期には、海外からの旅行者などが増えて公共交通機関の混雑が予想される。そこで、開会式をちょうど3年後に控えたこの日に、混雑緩和などを実現する手段としてテレワークのPR活動が行われたわけだ。テレワーク普及の気運は、確実に高まりつつある。


危機意識の薄いワーカーが
テレワーク推進を妨げる?

ただし、田澤氏やテレワークマネジメントのもとには最近、一部の企業から「在宅勤務制度をつくったものの、利用者がいない」といった相談が寄せられ始めている。多くの社員にとってメリットがあるはずの制度なのに、何が障害になっているのだろうか。導入前には情報の漏洩が不安視されがちだが、田澤氏は「在宅勤務によって漏洩したケースは聞いたことがありません。情報の漏洩は悪意をもって行われることが多いので、むしろオフィスから持ち出されるケースが多いのが現実です」と語る。
 ここで気になるデータを紹介しよう。先述の連合の総合生活開発研究所の調査では、41パーセントのビジネスパーソンが「今の働き方で問題はないため、テレワークは必要ない」と答えている。この結果に対して、田澤氏は次のように警鐘を鳴らす。

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出典/連合総研「第 33 回『勤労者の仕事と暮らしに関するアンケート(勤労者短観)』調査結果」より


「テレワークは必要ないという意見は、裏を返せば『自分が育児や介護、病気を経験することは今後もあり得ない』ということになります。多くの人が近い将来、固定された時間や場所の中では働き続けられなくなると予想されているのに、『自分にとって今後必要になるかもしれない制度』としてテレワークをとらえる人があまりにも少ないのです」

田澤 由利(Tazawa Yuri)

株式会社テレワークマネジメント/株式会社ワイズスタッフ代表取締役。上智大学卒業後、シャープ株式会社での商品企画やフリーランスのライターを経て、在宅型テレワークの可能性に注目する。1998年に北海道北見市で在宅ワーク仲介会社として株式会社ワイズスタッフ、2008年に株式会社テレワークマネジメントを設立。2015年、テレワーク普及推進に貢献したとして総務大臣賞を受賞。著書に『在宅勤務(テレワーク)が会社を救う 社員が元気に働く企業の新戦略』(東洋経済新報社)など。

株式会社テレワークマネジメント
テレワークの普及を目的として2008年に設立。テレワーク導入支援コンサルティングのほか、テレワーク用システム「F-Chair+(エフチェアプラス)」の販売や、テレワークに関する講演・研修、調査・分析などを行っている。2015年に「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」特別奨励賞を受賞。

文/横堀 夏代  撮影/田村 裕未