仕事のプロ

2014.01.29

「地域×女性」という働き方

ワークスタイル情報/“暮らす”と“働く”をつなぐ

もっと自分らしく、自信を持って働きたいワーキングマザーに向けて、様々な働き方を紹介するワークスタイル情報編。
今回は、地域の女性に新しい働き方を提案する非営利型株式会社「ポラリス」のみなさんに、「“暮らす”と“働く”をつなげる」というテーマでお話を聞きました。

インタビューアー/WorMo'編集長 河内律子(3歳児のワーキングマザー)

その人なりの「心地よい働き方」を
実現してもらいたい
――ポラリスさんでは、コワーキングスペース(*)の『cococi』や『セタガヤ庶務部』など、様々な事業を展開なさっているんですね。「"暮らす"と"働く"をつなげる」というコンセプトで取り組んでいらっしゃいますが、『cococi』と『セタガヤ庶務部』はそもそもどんなきっかけから誕生したんですか?
市川:ポラリスは、私の他、山本と大槻の3人で立ち上げていますが、私たち3人は、調布市の子育て支援のコミュニティーで知り合いました。お互いこどもの年齢が近く、出産をきっかけに離職したところも共通していました。本音でいろいろ話をするうちに、「この地域に、子育て中の女性が心地よく働ける場をつくりたいね」という話になって、2011年にコワーキングスペース『cococi』という形で実現しました。

*「コワーキング(co-working)」とは『co(いっしょに)』+『working(はたらく)』という意味を持ち、各個人が独立して働きながら、相互にアイデアや情報、技術などを共有することにより、各々の相乗効果を生み出そうとする新しい働き方です。

市川望美さん(代表取締役/CEO)
出産後に地域子育て支援グループでの活動を経て、2011年にポラリスをスタート。小5の男児、小4の女児の母。
大槻昌美さん(庶務部マネージャー)
出産後に子連れボランティアなどを経て現職。小3と小1の女児の母。

――「心地よい働き方」というのは?
大槻:ひと口にワーキングマザーといっても、その人の志向や生活環境、こどもの年齢などによって、心地よい働き方は違うと思います。cocociでは「その人にとって心地よい働き方が実現できる場」であればと考えて、クラウドとコワーキングスペースの両方を活用して、働く時間・場所もライフスタイルに合わせて選択できるようにしています。具体的には「こどもを連れて仕事場に来られる」「こどもと一緒でも働ける」「自分の住む地域で働ける」という働き方を提案しています。

――「こども×仕事×地域=自分に合った心地よい働き方」というのが、他のコワーキングとは違う『cococi』らしさですね。 企業で働くワーキングマザーも、「こどもがいるから時短でしか働けない」ではなく、「時短勤務=今の自分にとって心地よい働き方」と思えれば、もっと楽に働けそうですね。
市川:その通りだと思います。ポラリスを設立するにあたって、3人で議論をしながら「未来のために今大事なこと」として11のキーワードを考えたのですが、その1つが「心地よく暮らし、はたらく」なんです。「○○しなければ」ではなく「自分が心地よいかどうか」を基準にすると、ストンと腑に落ちるところってたくさんあると思うんです。

――他にも「旭山動物園」「0.8と1.2」...など面白いキーワードがたくさん並びますね。この「仲間」というキーワードは?
大槻:基本的には「自分が心地よいか」を基準にして働くことが大切だと思うのですが、「一緒に頑張る仲間がいるから」という安心感もいい仕事を後押しすると考えて、入れ込んでみました。

――自分の住む地域だからこそ、コミュニティー感も強く感じられますよね。他に地域で働くメリットはありますか?
山本:やはり時間に融通が利きやすいし、仕事を通して地域の人と関わりを持てるのが大きなメリットですね。
市川:私たちはよく「グラデーションのある働き方」という言い方をするんですが、1人ひとりが心地よいものを1つずつ選んで働くことで、その人にぴったりのカラーで働けると思います。そんなグラデーションを実現する選択肢の1つが、子育て中の女性がチームとして仕事を請け負う組織『セタガヤ庶務部』なんです。

責任を持ちつつも
安心して働ける仕組みを構築
――『セタガヤ庶務部』って、ちょっとレトロなネーミングですよね。どんな内容のお仕事を請け負っているんですか?
山本:経理サポートやリスト作成、リサーチ...など様々です。現在は、約130人の女性が登録しています。クライアント様から案件をいただいたら、私たちがfacebookで募集をかけて、登録している女性に応募していただきます。子供連れでcocociにいらっしゃって、セタガヤ庶務部のお仕事をされている方もたくさんいますよ。
市川:子育て中で仕事をしていない人でも意欲やスキルの高い人は多いし、一方で地域の中小企業や個人事業主で「専任スタッフを雇うほどではないけれど事務系の仕事を誰かに任せたい」と考える方はたくさんいらっしゃいます。そんな需要と供給をうまく組み合わせられれば、と考えてスタートしました。

――自分で手を挙げるスタイルなら無理がないし、在宅でもcocociでも仕事ができる点もいいですね。ただ、こどもが急に熱を出したりして、できるはずだった仕事ができなくなってしまう場合もあると思いますが...。
大槻:不測の事態に備えて、1つの仕事を分割して3人の人にお願いしたり、その3人の方どうしで引き継ぎをしっかりしてもらったりして、フォロー体制をつくっています。私たちもそうですが、メンバーたちも配慮し合って仕事をしています。仕事でいい成果を上げるには安心感や信頼関係も大切なので、その意味でもサポート体制はしっかりつくっています。お互いに「頑張ってるよね」と声を掛け合ったり。

山本弥和さん(企画部マネージャー)
出産後、子育てをしながら活動する女性のためのイベント主催などを経て現職。小5の男児と小3の女児の母。
和室やキッチンがあるので、子供連れでも仕事がしやすい。お母さんが交代でこどもたちの面倒をみたり、こども同士であそんだり。
――その体制づくりは、企業でも応用できますね。ワーキングマザーのいるチームで、スタッフがお互いに配慮し合って仕事をすれば、安心して楽しく働けると思います。
ところで、働く女性と日々接しているみなさんから見て、女性ならではの強みってなんだと思いますか?
市川:cocociで働く女性は出産と子育てを経験しているせいか、環境にすんなりなじむ人が多いですね。「これもアリね」と考える力があるというか...。
山本:そうですね。働き方はゆるやかになるかもしれないけど、それを「シフトダウン」と考えずに前向きに「シフトチェンジ」ととらえる人が多いかも。
大槻:時間的な制約があるからこそ、新しいものを生み出す力もある気がします。

――最後に、ポラリスの今後の展望をお願いします。
市川:実は2012年に「cococi2000PROJECT」というプロジェクトを発表しました。全国にcocociのような場所を2000か所つくろうという計画です。

――壮大なプロジェクトですね。
山本:ですね(笑)。ただ、私たちがすべて運営するわけではなく、たくさんの仲間を見つけて2000種類のcocociをつくるイメージを考えています。企業内や学校内などにあっても自然だと思いますし、子育て中の女性だけでなく男性中心のcocociなど多様なスタイルのコワーキングスペースができるといいな、と思います。とりあえず、5年後には1000カ所と考えています(笑)。

――素敵ですね。ぜひうちの近所にもつくってもらいたいです!


【イベントのお知らせ】
2014年2月1日(土)~7日(金)まで、二子玉川ライズで「TWDW SETAGAYA 働くと暮らすをつなぐ7日間」が開催。ポラリスは「地域」×「組織」×「働き方」や、「ママ×IT」~ITが苦手なママたちへ、cocociのつくりかたなどのイベントを開催。

非営利型株式会社ポラリス

ポラリスは「誰もが暮らしやすく、はたらきやすい社会の実現」を目指し、特に「潜在的な可能性を秘めた地域の女性たちが身近な地域の中で多様なはたらきかたを実現するための事業」に取り組む会社です。
『cococi』ここちよくはたらき、ここちよく暮らすためのコワーキングスペース。
『セタガヤ庶務部』"緩やかだけど本気"をコンセプトに、子育て中の女性がチームとして仕事を請け負う新しいカタチの組織。

取材を終えて

取材中には小さな女の子たちの楽しげな声が響き、夕方には小学生もcocociに合流し、まるで大家族のような光景。そんな中で大人たちは会議や業務を行っていました。普段家では"育児"だけでなく"家事"という誘惑で仕事に集中できないかも、とテレワークの難しさを感じていた私も、家以外の場所なら、こどもと一緒に仕事をすることが可能かもしれないと思いました。またそれが近隣であれば、通勤のストレスも大きく軽減され、仕事の効率が上がることが大いに期待できるのではないでしょうか。 一つの仕事を複数のメンバーで行うコラボワークは、これからの働き方を考えるうえで重要ですが、cocociというリアルなコミュニケーションの場があることで、信頼感や責任感も生まれ、コミュニティが強化されるからこそ実現できる働き方なのかもしれません。これから、こういう場所が増えていくことをとても楽しみにしています。(河内)

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ