仕事のプロ

2013.12.04

親子2人きりの生活で得たものは大きい

Vol.8 試行錯誤しながら世界を拡げる

東京急行電鉄株式会社
都市開発事業本部 都市戦略事業部 
企画開発部
坂井田麻子さん
クリエイティブ・シティ・コンソーシアム(東急電鉄など複数企業によって構成される、二子玉川をモデル地区に新しい働き方や暮らし方を発信する団体)の活動拠点「カタリストBA」の運営や、女性・こどもを対象とするイベントの企画に携わる。2011年4月に産休・育休から復職。4歳男児を持つワーキングマザー。

インタビューアー/WorMo’編集長 河内律子(3歳児のワーキングマザー)

コミュニケーションの流れを工夫して効率化を実現
――坂井田さんは、育休明けから2年間、親子2人きりの生活を経験されたそうですね。
私が復職するタイミングで、たまたま主人の単身赴任が決まったんです。お互いの両親も近くにいないので、基本的になんでも1人でやらなければならなくなって。ほとんどの人から当然のように「仕事を続けるのは無理じゃない?」と言われましたね。

――それでも復職に踏み切ったのはどうしてですか?
「このまま辞めてしまうのは悔しいなと思う反面、みんなが言うように無理かも...」と悩んでいた時に、仲のいい友達が「無理かどうかはやってみなきゃわからないでしょ。とりあえず始めてみれば?」と背中を押してくれたんです。「何もしないうちから心配ばかりしてもしかたないな」と気持ちを前向きに切り替えられましたね。

――でも...働き始めてみるとやっぱり大変ですよね。
それはもう! 1歳から3歳にかけての2年間で、イヤイヤ期はあるし、夜泣きはするし、毎日ドタバタでした。息子が話したい時や遊びたい時は手を止めて向き合おう、と決めていたんですが、そうすると家事がどんどんたまって...。
――我が家は単身赴任ではないですが、同じ状態です(苦笑)。
私は、手を抜けるところは抜いていました。「洗濯はするけど畳むのは省略」とか。食事を最優先にして「掃除をしなくても死なないから大丈夫」って考えていましたね(笑)。

――割り切って考える方が気持ちが安定しますよね。ただ、朝の出勤前に息子がぐずったりして予定外のことがあると、イライラしてしまいませんか?私はついキーッとなってしまうんですが...。
私もすぐパニックを起こします。でも、そんな時、「息子がこれから80年生きるとしたら、今の1秒なんて何億分の一に過ぎないんだからたいしたことない」と考えるようにしています。数値化すると、なぜか安心できるんですよね(笑)。この考えって仕事にも応用できて、イヤなこととかで、ちょっと落ち込むことがあっても、「自分の人生のうちの数時間、数日のこと。この後、きっといいことがある」って思えるようになりました。

――確かにそう考えると安心しますね。実際に復職なさってみていかがでしたか?
復職する時に異動があって、仕事の内容も周りの顔ぶれもガラっと変わりました。気負うことなく正直に「主人が単身赴任で、息子と2人の生活でテンパってます」と自己紹介したら、女性が多い職場ということもあり、本当にいろいろフォローしていただきました。

――腹を割ってお話されたのがよかったんですね。お仕事は忙しかったですか?
その頃、私がいたセクションではWEBサイトの改修を手がけていて、毎日残業で作業するメンバーも数人いました。私は取りまとめを担当していたのですが、夕方5時には帰宅しなければならないので、残業してくれるメンバーとのコミュニケーションには工夫していましたね。



――私も時短勤務で、仕事をメンバーにお願いして退社することが多いので、そこはとても興味があります。
作業をしてもらうにあたって、帰る前に頼みたい内容はリストにして渡していました。また、作業中に気になったことがあれば共有フォルダにメモを残してもらい、翌朝、私がそのメモも見ながら進捗状況をまとめて取引先に報告するようにしていました。このやり方だと、私がいない間の作業状況を把握できるし、朝のうちにメンバーにフィードバックするべき内容を整理できるので効率的でした。 やりとりを重ねるうちに、メンバーたちのメモを見れば「この対応は少し後でもよさそうだな」などと優先順位をつけられるようになりました。私もメンバーも、「どんな文章なら相手に的確に伝わるか」を考えるようになり、伝えるスキルを高めることができました。それに、コミュニケーションの流れを決めておくことで、家にいる時に「あの作業はどうなってるかな?」と心配することも減りました。

――直接話のできる時間が限られていても、工夫次第で質の高いコミュニケーションが実現できるんですね。
「ワーキングマザー」をフックに仕事の幅が拡がった
――2013年の4月から、また新しいセクションでのお仕事が始まったそうですが...。
はい。キッズを対象にしたワークショップや、女性に向けたセミナーを企画する仕事も担当させてもらっています。たくさんの人と会う機会を自分からつくるなど自発的な行動が求められますが、その分とても刺激的な毎日です。子育て関連のイベントなどでステキな人に会えた時は、ワクワクしました。

――ワーキングマザーであることをフックに新しい世界が開けたんですね。
それは強く感じます。「働くお母さんだから」ということで、やらせていただく仕事の幅も拡がりました。これからは息子に少しずつ仕事の話をしたりして、いろいろな世界を見せてあげられればいいな、と思います。

カタリストBAに関わる多様な人の知見を活かしたシェアライブラリ。
最近のブームは折り紙。オリジナルの飛行機や、剣などをつくっています。

――ご主人の単身赴任も終わって、今は親子3人での生活に戻ったそうですね。体力的には少し楽になりましたか?
そうですね。特に朝は、保育園の送りなどを主人がやってくれるので助かっています。こどもも大きくなって、夜は絵本を読み聞かせればスッと寝てくれるようになったし。ただ、やはり分担は私の方が多いので、体力を温存するためにも睡眠はしっかり取るよう心がけています。やることが山積みでも、とりあえず寝よう、と。

――それは大事ですね。お母さんって自分のことを後回しにしがちだけれど、体を壊したら周りへの影響も大きいですから。
私はまさに、息子と2人暮らしの時に体調を崩してしまったんです。両親や主人の協力でなんとか乗り切れましたが、「こどものためにも自分が健康でいなければ」と痛感しました。それまでは自分の食事は適当に済ませがちでしたが、今は忙しくてもランチできちんと栄養を取るようにしています。本当は運動も必要なのかもしれませんが、とりあえずは睡眠と栄養ですね(笑)。

坂井田さんの1日


6:00 起床、朝食の用意、簡単な夕食の下ごしらえ
6:15 息子を起こす、朝食、身じたくなど
(洗濯物を干すのはご主人が担当)
7:30 出勤
(保育園への送りはご主人が担当)
8:30~
17:00
仕事
18:00 保育園にお迎え
18:30 帰宅、夕食、お風呂
21:00 息子を寝かしつける
(寝る前に本を読み聞かせるのが習慣)
22:00 就寝

取材を終えて

パートナー不在の中、初めての子育てだけでも大変なのに、ワーキングマザーとして働くなんて私にはイメージできませんが、そんな大変だったときのことも笑って話してくれた坂井田さん。忙しい仕事中でもみんなを和ませるステキな笑顔の持ち主でした。メールが主流になった今、文書の書き方は高めるべきコミュニケーションスキルです。相手を考慮して、また端的に誤解なく伝える方法を学ぶことが大切と痛感しました。(河内)

文/横堀夏代 撮影/野村一磨