ライフのコツ

2013.10.17

こどもは「理科好き」の素質を持っている

探究心を育てるために親ができることは?

こどもは成長するにしたがって、身近な事象に対して疑問を持ち、「なぜ?」「どうして?」と理科的な興味を募らせるようになります。そのためのきっかけをつくり、こどもの好奇心を伸ばすために、親にはどんなことができるでしょうか。探究心豊かな「理科好き」のベースをつくるヒントを、東京学芸大学准教授吉冨友恭先生に伺いました。

親が「理科好き」でなくても大丈夫!
 ここ数年、「小中学生・高校生の理科離れ」が何かと話題に上るようになりました。要因としては、「学校で生徒に実験をさせる機会が減った」「都市生活においてこどもが自然にふれる機会が減っている」といったことが挙げられています。
 こどもは2歳ぐらいになると、「これはなに?」「どうして太陽はこんな色なの?」と"なぜなに攻撃"が始まります。そんな身近な事象やモノへの興味こそ、「理科好き」の第一歩。その一歩を親が後押ししてあげられる方法はないでしょうか。東京学芸大学准教授で水産学博士でもある吉冨友恭先生にうかがいました。
吉冨先生は、小学生の娘さんと息子さんのお父さん。先生が水産学を専門としているだけに、一家で水族館や動物園へ出かけたり、水遊びや生き物採集をしたりすることも多いといいます。そのほかに、見学可能な工場施設や科学館を訪れることもあるそうです。
 「僕も妻も、展示をゆっくり見たり、生き物をじっくり観察したりする方なので、ちょっと面白そうなものを見つけるとついつい時間をかけてしまいます。こどもたちも親の影響でそのペースになってしまったのかもしれません。家族で水族館や動物園に行くと、開館と同時に入っても全体を見終わる頃には閉館時間になってしまうことがよくあります(笑)。今ではこどもの方が細かなことによく気がつきます」。
「外出先や自然の中で見たモノを、図鑑やテレビなどで再び見つけると、さらに興味が拡がっていくことも多いのでは」と語る吉冨先生。
 理科好きの第一歩として、親の影響は確かにありそう。こどもがいろいろな体験をしながら好奇心を伸ばせるよう、親がほどよくサポートできれば理想的です。とはいえ、学生時代は理科が苦手だったし、知識も限られているから...と悩むお母さんも多いかも。でも吉冨先生は、「一人で悩まなくて大丈夫」と力強いエールを送ってくれました。
 「水族館や動物園に行くとよく『解説板』を目にすると思います。そこに書かれていることをきっかけにいろいろと問いかけてみてもいいし、わからないことがあれば、質問コーナー等へ行ってみてもいいと思います。施設の閉館時間が近づくと、お客さんも減ってきて、飼育員などスタッフの方と話せるチャンスも多くなります。僕もそうですが、専門家は自身の研究分野について聞かれるとうれしくなるもの。ですから、こどもの質問には丁寧に答えてくれると思います。このような力を借りることで、こどもの興味が思いがけない方向に拡がるかもしれませんよ」

 吉冨先生はさらに、普段の生活のなかでも理科好きのベースは養えると訴えます。
 「例えば、お母さんが料理しているところを見せるだけでもいろいろと興味をもつはず。買い物もそう。例えば、スーパーの鮮魚コーナーも好奇心を育む絶好の場です。氷の上に並んでいる魚介類の色や形を見て不思議に思ったり、産地や季節との関係が気になったりして、なぜだろう、もっと知りたいと思えるなら、その子はすでに十分な理科好きといえるのではないでしょうか」


こどもの興味が移り気でも気にすることはない!
 保育園の行き帰りや散歩中、ちょっとした遊びの最中など、こどもはあらゆる場面に「なんで?」「どうして?」といろいろなものに興味をもって質問してくるもの。そんな時、親としては「探究心を伸ばすチャンス!」と張り切って、ネット検索をしたり「いっしょに調べてみる?」と持ちかけたりすることもあるはず。
 でも、親の意気込みとはうらはらに、こどもの興味はなかなか長続きしないケースも。親としては、「もう少し興味を深めてくれればいいのに」とじれったさを感じることもあるかもしれません。しかし吉冨先生によれば、それは当たり前のことだといいます。
 「大人でも、ハマっていたものにふと興味をなくしますよね。こどもも同じで、長続きしないというより、『別のものに興味がわいた』と考えたらいいと思います。それに、後から関心を持ったものと前に興味を持っていたことがつながって、より理解が深まったり、新しい視点が生まれたりする場合もあると思います」。
娘さんの3年生のときの夏休みの自由研究。テーマは「アブラゼミの羽はみんな一緒か?」。
息子さんが3年生のとき、夏休みの自由研究では「強い形、強い物」を調査。
 吉冨先生の娘さんや息子さんの夏休みの自由研究を見せて頂くと、年によって違い、テーマが大きく変わることもあるようです。娘さんは、昆虫、料理、カバンづくり、息子さんは、寒天づくり、ものの形や強さ、生物標本。対象はバラバラですが、その中には共通する科学的なモノの見方があるといいます。それらは時間が経ってからでも、日常生活のどこかで結びつく可能性があり、その結果、再び興味が喚起されることもあるので、興味の対象が移ることについては心配していないとのことでした。
「こどもの理科好き計画」に役立つ"プロが使う道具"を見せてもらいました。手に持っているのは水槽で使うネットと川で魚を捕るときに使うタモ網。
 最後に、「こどもの理科好き計画」に役立つ視点の一つを教えていただきました。それは、"プロが使う道具"とのこと。
「例えば、川で魚を捕まえるにしても、100円ショップの虫取り網と釣具店の網では、使い心地がまるで違うんです。道具を使いこなすにもコツはいりますが、そのコツが重要で、また、プロの道具にはこどもを惹きつけるカッコよさもあるので、事始めの道具選びは大切なポイントかもしれません。扱いがうまくいかなくても、家族や友人のなかには必ずサポートしてくれる人がいるはず。お父さんやおじいちゃんを巻き込むのもいいかもしれません」

 ちょっとしたきっかけさえあれば、こどもは理科への興味をどんどん高めていきます。こどもの影響で、お母さん自身も理科への興味が新たにわくかもしれません。こどもといっしょに、「理科好き」の一歩を踏み出してみませんか。

吉冨 友恭

東京学芸大学環境教育研究センター准教授。博士(水産学)。専門は魚類生理学、環境展示論。河川の生物に焦点を当て、それらと環境との関わりを探るための研究を行う傍ら、 同分野の研究成果や関連知識をわかりやすく表現し、展示や教育メディアを通じて社会に橋渡ししていくための研究や創造活動を進めている。著書に『魚のウロコのはなし』(成山堂書店 )など。

  文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ