その出来事は、チームの財産かもしれない

  • 公開日2026/7/6(月)
  • 株式会社キャリアクラフトコンサルティング 代表取締役 曽根原 士郎

〜偶然を"拾い合う"強いチームの育て方〜

「年度初めに緻密に立てた計画が、数か月後にはもう現場と噛み合わない」
「先が読めず、次の一手になかなか踏み出せない」

人事や現場リーダーの皆さんから、こうした声を聞くことが増えています。こうした声に、現場リーダーとして、そして人事として、どう向き合えばよいのでしょうか。

前回は、AIの普及で効率が上がるほど、チームが慣れた正解に閉じこもる「現状肯定の谷」にとどまりやすくなる、というお話をしました。
では、正解が読めない時代に、私たちは何を支えに動けばよいのでしょうか。今回は「計画」との付き合い方を、少し違う角度から考えてみます。鍵になるのは、「偶然」をチームでどう扱うか、という視点です。

計画通りに進まないのは、あなたのせいではない

密に立てた計画ほど、早く現場と噛み合わなくなる。半年前のデータに基づく計画が、今の課題には合っていない。そんな場面に、心当たりはないでしょうか。

 

真面目な方ほど「自分の計画が甘かった」と感じてしまいがちです。それは能力の問題ではありません。変化の速さが、当初の想定を大きく超えているだけなのです。

 

VUCA、近年はBANIとも呼ばれる先の読みにくい今、以前OODAの回でも触れたように、計画が要らない、というお話ではありません。計画を立て、観察によって変化に柔軟に適応していく時、計画にはなかった偶然の出来事もチームの財産としていける視点がある、というお話をします。

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キャリアの8割は「偶然」でできている

その視点が、スタンフォード大学の心理学者クランボルツが提唱した「計画的偶発性理論」です。個人のキャリアの約8割は、予期せぬ偶然の出来事によって形づくられる、という理論です。もともとは個人のキャリア開発の領域で育まれた考え方で、人事の皆さんには馴染みのある視点かもしれません。

 

この理論の解釈として大切なのは、その偶然を「待つ」ということではありません。意図的に引き寄せ、活かせる状態でいることです。計画通りに進むキャリアが誰にも約束されないなら、「正しい計画を立てること」よりも「偶然を味方にできる状態でいること」のほうが本質的であり、良い結果に結びつきやすいと感じられる点と言えるでしょう。

 

少し振り返ってみてください。今の職場との出会い、今の仕事で身についた強み。その多くは、かつて描いた設計図の通りだったでしょうか。想定外の異動、たまたまの担当替え。後から振り返ると、偶然に見えた出来事が、今のみなさんの力の土台になっていると感じられないでしょうか。

 

過去の偶然を「その時だけの出来事」ではなく、「新たな力を得るきっかけ、貴重な財産」として読み直してみる。これが出発点です。では、これは個人だけのお話でしょうか。

偶然は、「個人の出来事」から「私たちの出来事」へ

一人で歩み、そこで遭遇した偶然は「自分だけの出来事」にとどまります。

しかし、チームとして歩みながら、一人ひとりが遭遇した偶然は「私たちの出来事」になります。


誰かが拾った小さなきっかけを、別の誰かが「それ、こう活かせるかもしれません」と受け取る。その受け取りが、また次のきっかけを呼んでいきます。


たとえば、ある営業チームの、なにげない会話を覗いてみます。


【現場のワンシーン】

メンバーA:「先週たまたま行った展示会で、競合が保守を内製化し始めたらしい、と耳にしました」

メンバーB:「その話、うちのお客様も似た悩みを口にしていた気がします」

メンバーC:「だったら、保守込みの提案を、まず一社だけで試してみませんか」

リーダー:(うなずきながら)「いいですね。小さく試して、様子を見てみましょう」

 

いつもなら「へえ」で流れていく雑談です。その小さなきっかけを、誰かが受け取り、別の誰かが形にしていく。誰も計画していなかった一手が、こうして生まれていきます。特別な準備も、大きな決断も要りません。あなたのチームでも、きっと似た場面が起きているはずです。

 

このワンシーンには、クランボルツが挙げた偶然を活かす5つの行動特性(好奇心・持続性・楽観性・柔軟性・冒険心)が、すでに表れています。もともと個人の特性として語られてきたものです。これをチームの行動様式として読み替えると、2つのまとまりで捉えられます。

 

一つは、偶然を受け取る素地——好奇心と柔軟性です。

偶然は、いつも「これは使える」という顔をして現れるわけではありません。雑談のひと言、他部署の小さな工夫。好奇心と柔軟性のあるチームは、それを「単なる出来事」ではなく「共有し合う出来事」として受け取れます。先ほどの展示会の話を聞き流さなかったのも、この素地があったからだと言えます。

 

もう一つは、偶然を活かす推進力——持続性・楽観性・冒険心です。

受け取ったきっかけを形にする“最初の一歩”には、ちょっと勇気が必要です。でも、「このチームなら、やってみてもいいかもしれない」。そう思えたらどうでしょう。その感覚が、一人では踏み出せなかった一歩を後押しします。「まず一社だけで試してみませんか」という提案も、この推進力から生まれています。

 

ここで支えになるのが、チームならではの「集合的効力感」という考え方です。以前ご紹介した社会的認知理論(バンデューラ)の「私はできる」という自己効力感を、チーム全体に広げたものです。「私たちならできる」という確かさ。根拠のない自信ではなく、共に積み上げてきた経験への信頼から生まれる、しなやかな強さです。

こうして偶然を拾い合えるチームは、今の成功に安住し新たな一歩を踏み出せない「現状肯定の谷」を、自然と越えていけることとなるでしょう。外の風に触れ、互いに刺激し合う「相互作用」が働くからです。

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偶然を"拾い合える"場を、意図的に設計する

偶然は、待っているだけでは増えません。起きやすく、拾いやすい場を、意図的に整えていく。これは、リーダーの大切な仕事です。引っ張る管理者としてだけではなく、チームという土壌を耕す人としての役割です。

 

具体的には、三つあります。

 

一つ目は、外の風を入れることです。他チームの事例や社外の知見に触れる機会をつくります。たとえば、月に一度、他チームのうまくいった工夫を一つだけ持ち寄ってみる。それくらいの小ささで十分です。新しい出来事は、たいてい外側からやってきます。

 

二つ目は、拾ったきっかけを言葉にする時間をつくることです。週に一度、15分で十分です。「最近、想定外だったことは?」と問いかける、短い"戦略的ピットイン"の時間です。

 

三つ目は、「計画外」を歓迎する空気を育てることです。予定通りでないことを、責めずに面白がる。たとえば、計画どおりにいかなかった報告に、まず「面白いですね、もう少し聞かせてください」と返してみる。そのひと言から、空気は少しずつ変わっていきます。その空気が、好奇心と冒険心の土壌になります。

 

どれも、大がかりな制度改革ではありません。日々の会話に、小さな問いと余白を足していくだけです。費用もほとんどかかりません。それでいて、これまで聞き流していた想定外が、少しずつチームの財産に変わっていく出来事に変わっていきます。

 

偶然任せ、ということではありません。偶然が起きやすく、拾いやすくなるよう、場を設計していく。ここが「計画的偶発」という言葉の核心です。ただ、自分たちのチームが、この偶然を受け取りやすい状態にあるのか——それは、自分たちだけではなかなか見えにくいものです。

まずは、最近の「計画外」を一つ、話してみる

すべてを一度に変える必要はありません。まずは、先ほどの「週に一度、15分のピットイン」で扱うテーマを、たった一つに絞ってみる。「最近あった想定外の出来事と、そこで気づいたこと」を、一人ひと言ずつ持ち寄る。それだけで、チームのアンテナは少しずつ増えていきます。

 

先ほど、自分たちの状態は内側からは見えにくい、とお伝えしました。その問いに、客観的なデータで答えてくれる「鏡」が、TEAMUSです。今のチームの「相互作用(偶然の起きやすさ)」や「理想共有(拾いやすさ)」といった状態を、データとして映し出します。現場リーダーにとっては自分のチームを見つめ直す入口に、人事にとっては複数のチームを横断的に見渡す手がかりになります。まずは、対話の最初の切り口として使ってみる。それくらいの始め方が、ちょうどよいと思います。

 

そして、一人ひとりが遭遇した出来事を、チャンスとして捉えチームで語り合えるようになると、仕事の見え方が少しずつ変わっていきます。ひとつひとつの出来事が、厄介な計画外ではなく、次につながる手がかりとして見えてくる。その手応えが、また次の一歩を生んでいく。関係・思考から行動へ。そして成長の循環(スパイラルアップ)へ。

 

このように、偶然を「拾い合える」チームこそ、不確実な時代をしなやかに進んでいけるのではないでしょうか。今できることと、これからできそうなこと。その両方について、チームの中で忌憚なく対話していく。そんな日常のシーンが、強いチームとなっていくための大切な営みだと感じています。

 

次回も、不確実な時代をチームで進んでいくためのヒントを、一緒に考えていきます。どうぞお楽しみに。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


 

参照ソース

計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory) : Krumboltz, J. D., Mitchell, K. E., & Levin, A. S. (1999). Planned Happenstance: Constructing Unexpected Career Opportunities. Journal of Counseling & Development.

集合的効力感(Collective Efficacy) : Bandura, A. (1997). Self-Efficacy: The Exercise of Control. W. H. Freeman.

BANI Brittle(脆さ)・Anxious(不安)・Non-linear(非線形)・Incomprehensible(不可解さ)の頭文字。VUCAの中で、ワーカー1人ひとりが向き合っている心理的な状態認識。: Cascio, J. (2020)

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