
年度初めに精一杯作り上げた「年間組織開発計画」が、数ヶ月後には現場の状況と食い違ってしまう。人事業務に携わる中で、こうした経験はないでしょうか。
いざ実行の段階で現場に足を運んでみると、「半年前のデータに基づく計画が、今の課題に合っていない」という現実に直面します。真面目な担当者ほど「自分の計画が甘かった」と自分を責めてしまいがちですが、決してそうではありません。ただ、現代の変化のスピードが、当初の想定を大きく上回っているだけなのです。
今、このように正解が最初から予測できず、試行錯誤しながら答えを見つけていく「適応課題(※1)」が、あらゆる場面で生まれていると感じます。
(※1)適応課題:既存の知識やマニュアルだけでは解決できない、人々の価値観や関係性の変容が必要な課題のこと。
詳しくはこちらの解説(https://www.kokuyo-furniture.co.jp/wp/special/teamus/column/c1105.html)をご覧ください。
今回は、こうした変化の早い現場で、計画を形骸化させずに前へ進めるための「意思決定の作法」をご紹介します。それが「OODA(ウーダ)ループ」と呼ばれる考え方です。
OODAループとは、一言で言うと「変化の激しい状況で、最善の判断を下すための思考プロセス」です。次の4つのステップの頭文字を取っています。
① Observe(観察):現場のありのままを見る
まずは、先入観を持たずに現場をよく見ることです。数字上のデータだけではなく、メンバーの表情や発言、チームの中に流れる空気感をそのまま受け取ります。
人事の場面であれば、研修後のアンケート結果だけでなく、休憩時間のメンバー同士の会話や、職場の活気なども大切な観察対象になります。まずは「何が起きているのか」を、色眼鏡を外して眺めることから始まります。
② Orient(見極め):意味を読み解く
次に、観察したことから「今、何が起きているのか」を見極めます。観察した事実に対して、自分の経験や知識を照らし合わせながら、状況の意味を考えます。
「最近メンバーに疲れが見えるのは、単に業務量が多いからではなく、目標に納得感がないからではないか?」といったように、問題の本質を探るプロセスです。ここでの「見極め」が、後の打ち手の精度を大きく左右します。
③ Decide(選択):打ち手を選ぶ
見極めた内容に基づき、今この瞬間に最も効果的と思われるアクションを選択します。「研修を予定通り進めるよりも、まずはチーム全員で対話をする時間を優先しよう」といった判断です。
多くの選択肢の中から、今のチームの状況に最もフィットするものを一つに絞り込みます。完璧な正解を求めるのではなく、「今のベスト」を素早く選ぶことが大切です。
④ Act(実行):小さく試してみる
決めたことを即座に、まずは小さく実行に移します。大掛かりな施策をいきなり始めるのではなく、まずは数人のミーティングで試してみる、といったスモールスタートを意識してみましょう。
この4つのステップをぐるぐると回し続けることで、状況の変化に遅れることなく、チームをより良い方向へ導くことができるようになります。

ここで、「計画を立てて管理するPDCAはどうなるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。実は、この2つは対立するものではなく、「組み合わせ」て使うことで真価を発揮します。
PDCAは1950年代の製造業を中心に普及しました。一定の品質を保ち、効率を上げる「守りの改善」に優れた手法です。一方のOODAは1970年代の空軍パイロットによって開発されました。一刻を争う変化の中で最善の判断を下すための「攻めの適応」の作法です。
この2つの違いを、料理に例えて考えてみましょう。
中長期の全体計画は「レシピ(PDCA)」です。 どんな料理を作るか決め、分量を量り、手順通りに
作るためのガイドラインです。
変化に合わせた現場の活動は「味見(OODA)」です。 「今日の野菜は少し水分が 多いな」という
観察に基づき、その場で火力を変える。素材の状態に合わせた柔軟な調整です。
全体計画「PDCA」の「D」の精度を上げるために、現場ではありのままを観察し、見極め、素早く打ち手を変更・試行する「OODA」が非常に有効に働きます。レシピを守ることだけに必死になり、料理が焦げてしまっては意味がありませんよね。
「計画PDCAを達成するために、現場でOODAを回して微調整し続ける」。この視点を持つことで、現場の状況に合わせた「生きたマネジメント」が可能になります。

では、現場のリーダーや人事担当者は、具体的に何を観察すれば良いのでしょうか。ただ漠然と眺めるだけでは、重要な変化を見逃してしまうかもしれません。そこで、私たちがおすすめしている「現場で観察すべきポイント」をご紹介します。
一つ目は「本音(良い・悪いを言いあえる)」です。 会議の場で、建前ばかりが並んでいないでしょうか。リスクや違和感が素直に出ているチームは、自分たちの現在地を正しく把握できています。もし本音が消えているなら、まずは心理的安全性を整えるスイッチを押す必要があります。
二つ目は「知見共有(知の提供を惜しまない)」です。 自分の役割の範囲内だけで仕事を完結させていないでしょうか。メンバー同士が自分の持っている知識を惜しみなく教え合っているかどうかが、チームの成長スピードを決めます。
例えば、あるリーダーが「今月の計画ではスキルアップ勉強会をやる予定だったけれど、現場を観察するとメンバー同士の知見共有がうまくいっていないようだ。今は新しい知識を詰め込むよりも、まずはお互いのこれまでの経験を話し合う場を作ろう」と見極める。
このように、計画に固執せず、現場のありのままの状態を見て柔軟に打ち手を変える。この繰り返しが、結果としてチームを最短距離でゴールへ導くことにつながります。
中長期の全体計画はPDCAで着実に進め、変化に合わせた現場の活動はOODAでしなやかに行う。この2つの作法をうまく使いこなすことが、これからの人事担当者やリーダーに求められる大切な技術です。
計画に縛られすぎず、目の前のメンバーやチームの変化を肯定的に捉えてみましょう。「今の状況なら、この打ち手の方が良さそうだ」と柔軟に舵を切るリーダーの姿勢は、メンバーに安心感を与え、チームの中に強い信頼を育んでいくはずです。
そして、このようにしなやかに変化に対応し続けるチームには、ある「力」が生まれます。それは、一過性の業績数字だけではなく、チームの中に資産として蓄積されていく確固たる「知恵」です。
次回は、この「組織知」をいかにしてチームの資産に変えていくか、その具体的なプロセスについてお話しします。どうぞお楽しみに。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
文中に出てきた「本音」や「知見共有」などのキーワードは、私たちが「成長循環モデル(※2)」として
体系化した、現場で観察すべき視点の一部です。これらを共通言語にすることで、誰でも精度の高い
「観察と見極め」ができるようになります。
(※2)成長循環モデル:チームの現在の状態を可視化し、次にどのスイッチを押すべきかを
明らかにするフレームワークです。詳しくはこちらのコラムをご覧ください。

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