
人事業務に携わる中で、現場のリーダーからこんな切実な悩みを聞くことはないでしょうか。
「トラブルへの対応は早くなった。メンバーも機敏に動いてくれている。でも、いつまで経っても現場が楽にならないんだ」
目の前の問題に素早く対処する機動力は欠かせませんが、ただ業務をこなすだけでは持続的に高い成果を出し続けることができず、チームは進化していきません。貴重な経験が個人の頭の中だけで消費され、その場限りとなってしまう状態を、私たちは組織の「自転車操業」と呼んでいます。必死にペダルを漕ぎ続け、足を止めれば倒れてしまう余裕のない状態です。
この状態から抜け出すにはどうすればいいのでしょうか。
今回は組織の「自転車操業状態」から脱却し、チームの力を継続的な推進力につなげていく方法をご紹介します。
この状態から抜け出し、動けば動くほどチームが強く楽になっていく鍵は、現場の「個人の気づき(経験・知恵)」を、「チームの進化」へとつなげていく形成のプロセスにあります。
ここで形成すべき「進化」とは、単なる業務手順やタスク処理のレベルアップではありません。それらは環境が変わればすぐに通用しなくなるからです。本当に形成すべきは、「トラブルが起きた時、犯人探しではなく、どうやって解決できるかを考えることに集中する」「意見が対立した時、どう着地点を見つけるかを議論する」といった、チームで壁を乗り越えるための『磨かれたチームの力「協働の質」』です。
どんなに優れた業務スキルがあっても、それを活かし合う土台がなければ「個人商店の集まり」にしかすぎません。この目に見えない『協働の質』を言葉にし、進化につなげていくことこそが、メンバーの自律を促し、自転車操業から抜け出す第一歩となります。
ここで、改めて考えてみていただきたい問いがあります。
「あなたのチームは、1年前と比べて何ができるようになりましたか?」
多くの企業で調査されている「エンゲージメント」は重要な指標のひとつですが、愛着や熱意と言った「気持ちのありよう、その時の状態」だけで、持続的な高い成果を生み出し続けられる、チームとして進化していけるとは限りません。
例えば、エース社員個人の頑張りや、その場その場の「やる気」だけでトラブルを乗り切っているチームを想像してみてください。こうしたチームは、エースが異動したり、未知の課題に直面したりすると、途端に立ち行かなくなります。日々の貴重な経験が「個人の頭の中」にだけ留まっているため、人が入れ替わるたびにチームの進化がリセットされてしまうからです。
変化に強いチームは、日々の経験を個人の中に留めません。リーダーとメンバーが経験や知恵を重ね合い、チーム独自の「協働の質」として磨き上げ、全員が自信をもってその力を発揮し、新たな成果を生みだしていきます。
これからの組織開発の主眼は、個人の能力開発以上に、日々の経験や知恵を泥臭く「進化」につなげていく、チームを成長させていくプロセスに置かれなければなりません。持続的に成果を出していくためにも、そんな「チームならではの力強さや逞しさ」を生む仕組み・仕掛けが必要ではないでしょうか。
「経験を進化につなぐ重要性はわかる。でも現場には、それを話し合う時間がない」
これは多くの現場が抱えるリアルな壁です。多忙な中で言語化を持ちかけても後回しにされがちです。
そこで、F1レースの「ピットイン」を想像してください。 走り続けながらタイヤは替えられません。勝つためには、一時的にコースを外れ、強制的に足を止める時間が不可欠です。現場も同じです。「週1回、15分でも強制的に足を止めて『経験や知恵を言葉にするピットインの時間』を持つことが、最速でゴールに到達する方法だ」というマインドチェンジを促すことが、人事の重要な役割になります。
この15分という短い時間で、大掛かりな議論をゼロから始める必要はありません。ここで最も重要なのは、「何をテーマに対話するか」という質の設定です。表面的な業務の不満や、細かなルールの量産に終始してしまっては本当の進化は形成されません。目線を一段引き上げ、その出来事の背景にある「自分たちの関係性や思考のクセ」に焦点を当てる必要があります。
具体的には、次のような「3つのステップ(プロセス)」を意識して、経験を進化へと昇華させる対話を回していきます。
「今週のトラブル対応で、本当はどう感じていた?」など、顕在化した問題の裏側を問いかけ、「実は、進捗の遅れをギリギリまで言い出せなかった。怒られるのが怖くて…」といった、個人の感情や関係性の課題(本音)を場に出してもらいます。
「なぜ言い出せなかったのだろう?」と背景を話し合い、「失敗を責める空気があった」と共通理解が得られたら、「悪い報告ほど先に行い、全員で『どう解決するか』に集中しよう」といったチームの新たな合言葉(進化の言語化)を創り出します。
この合言葉を意識して繰り返し使っているうちに、やがて「耳の痛いことも忖度なく言い合える状態」へとチームの土台が変わり、考えなくても当たり前に助け合えるようになっていきます。
この3つのステップをピットインの時間で回し続けることが、進化を形成・定着させる確実な一歩となります。
そして、このピットインの効果を最大化し、「協働の質」に直結させるための大前提となるポイントがあります。それは、「今の自分たちには、どんな進化が必要なのか」という的の絞り込みです。チームという土台を強くする本質的なテーマに的を絞ることで、自転車操業から抜け出す確かな推進力が生まれます。
では、その「今、形成すべき本質的な進化(テーマ)」をどのように見極めればよいのでしょうか。行き当たりばったりのピットインで表面的な不満解消に終わらせないためには、組織がどのように進化していくかを示す全体図が必要です。
それが、『成長循環モデル※』です。これは「3つのステイタス」と「2つの谷」、そして「18の要素(スイッチ)」からなる、「組織成長のロードマップ」です。
※詳細はこちらのコラムを参照ください
https://www.kokuyo-furniture.co.jp/wp/special/teamus/column/c0204.html
たとえば、まだ基礎が固まっていない「❶チームづくり」の段階にいるチームが形成すべき進化は、互いの役割を理解し、谷を越えるための「自律行動」や「連帯行動」といった協働のルールです。一方で、「❷連携の促進」まで進み、現状の成功に安住しがちなチームに必要な進化は、過去の成功を疑い、未来から逆算する「未来洞察」や「深化行動(アンラーニング)」の作法となります。
さきほどの「失敗を責める空気」のように、感じたことの背景にある本質的な問題は既存のマニュアルで解ける技術的問題ではなく、自分たちの関係性や前提認識を変えていく「適応課題」です。正解がない適応課題だからこそ、現場の感覚や主観だけで「今、私たちのチームはどのステイタスにあり、次にどの進化を形成すべきか」を正確に見極めることは至難の業です。人間は無意識のうちに、自分たちにとって都合の良い、向き合いやすい課題を選んでしまう傾向があります。
だからこそ現場には、組織成長のロードマップ(全体図)と、自分たちの状態を客観的に把握する「鏡」が不可欠になります。
私たちが提供するTEAMUS(チームアス)は、まさにその役割を担うシステムです。
TEAMUSの最大の特徴は、膨大なデータに基づく組織成長の「標準値」との比較により、今のチームの行動特性・成熟度を明らかにし、次に押すべきスイッチ(今最も形成すべき進化のテーマ)を最大2つに絞り込んで客観的に提示してくれる点にあります。
「今のチームが乗り越えるべき谷はここであり、次に形成すべき進化のテーマは【良い・悪いを言いあえる】と【1年後を考える】です」と、システムが客観的なデータとしてアドバイスをしてくれます。
これにより、リーダーは「今日の15分で何を話すべきか」とテーマ選びに悩むことなく、このデータをそのまま「対話の切り口」として使えます。システムが共通言語となることで、誰もが的を絞った質の高い「戦略的ピットイン」を迷わず実践できるようになるのです。
会社や組織に対する「エンゲージメント」に加え、経験や知恵を「チームの進化」へとつなげ、チームの力として磨き上げていく仕組みをいかに定着させるか。これからの人事は、現場にただ「1on1や対話を増やしてください」と丸投げすることではありません。
現場の貴重な時間を無駄なルール作りに浪費させないよう、「組織成長のロードマップ(成長循環モデル)」と「状態を映す鏡(TEAMUS)」を手渡し、泥臭くも本質的な進化の形成プロセスを支援すること。それこそが人事のみなさまの新しい現場支援策のひとつと言えるでしょう。
チームが自律的に経験や知恵を進化へと結晶化させる。そのプロセスが定着したとき、初めて自転車操業を抜け出し、結果として「チームケイパビリティ(持続的に成果を出し続ける実力)」という確固たる強さを手に入れることができるでしょう。
次回は、最近の現場活動から感じた、ちょっと小道に逸れる「わしたちの脳とAI」についてお話ししようと思います。どうぞお楽しみに。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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