チームに生じる問題の根底にあるもの、それは「組織文化」

  • 公開日2025/12/10(水)
  • TEAMUSコラム編集部

~働き方が多様化した時代の、「組織文化」形成の方程式とは~

前回のコラムで、チームやメンバーの問題に向き合う際は、目に見える「技術的問題」ではなく、その裏にある「適応課題」として捉えることが重要だとお伝えしました。

今回は、その適応課題の根底には「組織文化」が大きく影響しているというお話です。働き方が多様化した現在、人事施策を進める上でこの視点は欠かせないものとなっています。

 

人事施策がうまくいかない、本当の理由

「新しい評価制度を導入したのに、なかなか浸透しない」 「在宅勤務制度を整えたのに、従来通りの働き方から脱却できない」 「管理職研修を実施したのに、現場での行動変容が見られない」。

こうした壁にぶつかった経験はないでしょうか。多くの人事担当者が直面するこの問題の背景には、「組織文化」という目に見えない重力が強く影響しています。

エドガー・シャインの「3つのレベル」

組織心理学者のエドガー・シャインは、組織文化を3つのレベルに分解して定義しました。このモデルを使うと、なぜ施策が空回りするのか、その本質が見えてきます。

Level 1. 目に見える部分(人工物) オフィスのレイアウト、服装、会議の進め方、社内イベントなど、外部から観察できる要素です。「フリーアドレスのオフィス」「1on1ミーティングの実施」などが該当します。

Level 2. 言葉で表現される部分(価値観) 企業が掲げるミッション、行動指針、戦略として明文化されているものです。「お客様第一」「チャレンジ精神」「イノベーションの創出」といった理念がここに当たります。

Level 3. 無意識に共有される部分(前提認識) ここが最も重要です。メンバーが無意識に共有している思考や感覚。「失敗は許されない」「上司の指示は絶対」「残業していることが頑張っている証拠」といった、誰も明言しないけれど暗黙に理解され、感じている前提を指します。

Level 3を見落とした施策の限界

多くの組織変革は、Level 1(制度や仕組み)やLevel 2(理念や指針)を変えることから始まります。しかし、土台にあるLevel 3(無意識の前提認識)がそのままであれば、上に乗る施策はうまく機能しません。

ケーススタディ:製造業A社の事例



A社は「イノベーションの創出」を掲げ、新規事業提案制度や、クリエイティブな思考を促すための「雑談エリア」を設置し、「週3日の出社」をルールとしました(Level 1・2)。しかし1年経っても、期待したような提案は生まれませんでした。

原因を探るべく深層心理の確認アンケートを実施したところ、現場には強固なLevel 3が横たわっていました。

  • 「生半可なアイデアは否定されるし、失敗すれば評価に響く」
  • 「上司が求めているのは、結局は安定した数字の達成だ」

つまり、どれだけ「制度」や「物理的な場」を整えても、社員の心にある「失敗への恐れ」という前提認識が変わらない限り、行動は変わらなかったのです。

人の意識はどう形成されるのか? ~社会的認知理論の視点~

では、どうすればこの深く根付いたLevel 3を変えることができるのでしょうか。ここで、バンデューラの「社会的認知理論」を補助線として引くと、解決の糸口が見えてきます。

この理論では、人の学習や行動は、以下の3つの相互作用によって決まるとされています。

  1. 環境(Environment) 自分を取り巻く場、身近な他者との関係性

  2. 個人(Person) 1人ひとりの物事の捉え方、思考、感情

  3. 行動(Behavior) 自他の振る舞い、そこから得た経験・体感

かつて、私たちが毎日オフィスに出社していた頃は、「物理的な環境」が強力なメッセージを発信していました。 活気あるオフィス、目の前で議論する先輩の姿、真剣な空気感。これら物理的な「環境」が、社員に「ここではこう振る舞うべきだ」という「個人」の認知と自他の「行動」を、無意識の前提意識(Level3)として形成してきました。

リモート時代における「環境」の再定義

しかし、リモートワークやハイブリッドワークが定着した今、物理的なオフィスの強制力は限定的になりました。オフィスは依然として重要ですが、かつてのように「そこにいれば文化が伝染する」という唯一絶対の装置ではなくなったのです。

ここで多くの企業が、「環境(Level 1)の効果の足りずを、言葉(Level 2)でカバーしよう」とします。パーパスやMVVの再定義・発信です。しかし、A社の事例のように、日々の業務体験から乖離した「綺麗な言葉」だけでは、長年の体験で培われた無意識の前提意識(Level 3)を書き換えるには不十分です。

では、物理的な場に依存せず、言葉だけでもない、今の時代に機能する新しい「環境」とは何でしょうか。 私はそれを、「チーム(半径3mの世界)」だと確信しています。

「半径3mの世界」のLevel 3を書き換える方程式




日々、1人ひとりが活動の中心とする「チーム」において、そのLevel 3を変容させていくもっとも適切な方程式が、ダニエル・キムの「成功の循環」だと考えています。「社会的認知理論」に「成功の循環(GOODサイクル)」を重ねることで、具体的に注視すべき点とアプローチの解像度が格段に上がります。

  • 環境 ≒ 関係の質 (チーム・メンバー同士の関係性、相互理解、心理的安全性)

  • 個人 ≒ 思考の質 (当事者意識、自己効力感、そしてLevel 3の前提認識)

  • 行動 ≒ 行動の質 (自発的な振る舞い、助け合いと挑戦、Level 3の体現・伝播)

結論はシンプルです。 社員の「Level 3:前提認識」を変えるためには、物理的なオフィス改装や全社的なパーパス・MVV構築と同時に、最小単位であるチームのGOODサイクルのありように着目し、「関係の質」→「思考の質」→「行動の質」の順でアプローチすることが最善の策だと言えます。

次回:『成長循環モデル』が描き出す世界

最初にアプローチすべき「関係の質」とは、単なる「心理的安全性が高い、仲良しクラブ」を作ることではありません。「結果を出すために、私たちは何を目指し、どうあるべきか」という共通認知を持った、強いチーム環境を作ることです。

次回は、この「成功の循環」をコクヨ独自にアップデートし、具体的な介入・打ち手の精度を更に高めていく『成長循環モデル』についてお話しします。 物理層に依存せず、「チームVISION・ISM」を言語化・共有し、メンバーのLevel 3を書き換えていく実践的なアプローチです。ぜひご期待ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


参照理論・ソース

  • シャインの組織文化の3レベル エドガー・シャインによる、組織文化を人工物・価値観・基本的仮定の3層で捉える枠組み。 (Source: Schein, E. H. (2010). Organizational Culture and Leadership. Jossey-Bass.)

  • 社会的認知理論(Social Cognitive Theory) A.バンデューラ提唱。環境・行動・個人の3要素が相互に影響し合い学習が成立するとする理論。 (Source: Bandura, A. (1986). Social Foundations of Thought and Action. Prentice-Hall.)

  • 成功の循環(Core Theory of Success) ダニエル・キム提唱。関係の質を高めることで思考・行動・結果の質が好転するサイクル。 (Source: Kim, D. H. (2002). Levels of Perspective. The Systems Thinker.)

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