「前例通りで進めてしまう」のは、怠けているからではない 〜AI時代のチームを「思考停止」から救う、組織開発の新作法〜

  • 公開日2026/5/25(月)
  • 株式会社キャリアクラフトコンサルティング 代表取締役 曽根原 士郎

 
「効率化は進んでいるはずなのに、なぜかチームに活気がない……」

昨今、生成AIの普及により、私たちの業務スピードは飛躍的に向上しました。膨大なデータの集計や資料のたたき台作成など、かつて時間を要した「技術的な問題」の多くが、瞬時に解決できるようになっています。

しかし、その一方で「会議で新しいアイデアが出ない」「メンバー間のつながりが希薄になった」といった、数値化しにくい「組織の停滞感」に悩むマネージャーや人事担当者が増えているのも事実です。

なぜ、便利になればなるほど、私たちは「思考停止」に陥り、前例踏襲を選んでしまうのでしょうか。

実はそこには、人間の脳が持つ「省エネメカニズム」と、AI時代特有の「静かな分断」という大きな罠が隠されています。


今回は、最新の調査データや脳科学の視点から、現代のチームが直面している「成長を阻む壁」の正体を解き明かします。AIを真のパートナーとし、人間にしか解けない課題に向き合うための「組織開発の新作法」について考えていきましょう。

1日35,000回の決断と、脳の「省エネ」メカニズム

2.脳の機能.jpg



今日、皆さんは、いくつの決断をしましたか? 朝起きる時間、ランチのメニュー選びから、会議での何気ない発言の言葉尻まで。ある研究によると、ヒトは1日に最大で35,000回もの判断を下しているそうです。私たちは日々、無意識のうちに膨大な選択肢を仕分けし続けています。

これほど天文学的な情報処理を行っている私たちの脳ですが、実はその消費電力はわずか「20W(ワット)」ほどだと言われています。家庭用の小さな電球ひとつ分ほどのエネルギーで、860億個ものニューロンを稼働させているのですから、とんでもなく精巧で合理的な仕組みです。

しかし、この極小エネルギーで働き続けるために、脳は一つの「ワザ」を持っています。それが、パターンや直感で素早く処理する「システム1(速い思考)」への依存です。同時に、エネルギー消費の激しい「システム2(高負荷な熟考)」をできるだけ使わないようにする、自動的な回避システムも備わっています。

システム1とは、言うなれば車の「自動操縦(オートパイロット)モード」です。いつもの道を、何も考えずにスイスイ進む状態ですね。対してシステム2は、見知らぬ山道を、ハンドルを握りしめて慎重に進む「マニュアル操縦モード」に近いかもしれません。

私たちが職場で「前例通りで進めよう」「誰かが意見を出してくれるだろう」と、波風を立てない無難な選択を好むのは、決して怠慢なわけではありません。脳のデフォルト機能が「システム1」であり、少しでもエネルギーを節約しようとする生存本能なのです。現場がなかなか変わらないと感じたとき、まずは「怠慢ではなく、脳の防衛本能が働いているのかもしれない」と捉え直してみましょう。

そして、この「効率の良い心地よさ」にとどまることこそが、現代のチームが直面している「成長を阻む壁」の正体でもあるのです。

効率は上がる、つながりは薄れる──AI時代の静かな分断

3.AIが生む分断.jpg


AIの活用で、私たちの仕事は確かに速く、明確に、効率的になっています。ただ、その成果が、もう一つの変化を覆い隠してはいないでしょうか。職場のエンゲージメント、つまり「仕事や仲間への熱意」が、世界的に静かな後退局面に入っているようです。

ギャラップの2024年調査では、世界の従業員エンゲージメント率は23%にとどまります。日本はさらに低く、わずか6%です。「やる気をもって働けている人」は、日本の職場ではほぼ15人に1人という水準にあります。

しかも、AIが本格的に普及してから、エンゲージメントには独特の「ねじれ」が現れ始めました。ADPリサーチの2025年調査によれば、AIを日常的に使う人は、仕事に完全に没頭する確率が非利用者の約3倍に上ります。一方で、職場とのつながりを感じている人の割合は、AI日常利用者で21%、非利用者では30〜33%です。AIを使うほど自分の仕事は捗るのに、組織や仲間との結びつきは薄れていく。そんな現象が起きているようです。

ここに、現代のチームが直面しているもう一つの真実が見えてきます。AIによって、過去のデータから答えが導ける「技術的問題」は、確かに効率化されました。しかしその陰で、人と人のつながりや働きがいといった、もっと深い部分が静かに損なわれつつあるのかもしれません。

実際、最近、現場のマネージャーからこんなご相談を受けることが増えています。「AIツールのおかげで、データ集計の時間は劇的に減りました。でも、浮いた時間で新しい企画のアイデアを出そうとしても、会議は静まり返るばかりで……」。

効率は上がったのに、チームの熱量はむしろ下がっている──このモヤモヤは、データが示す世界的な傾向と地続きの現場感覚なのではないでしょうか。

タイパや生成AIの恩恵を最大化しようとするほど、私たちは「わからないもの、面倒なものと向き合う根気」を少しずつ手放しているのかもしれません。「AIに聞けばいい」と答えを求めるうち、慣れ親しんだ正解の中に閉じこもる「エコーチェンバー(共鳴室)」現象も起きやすくなります。これが以前コラムでご紹介した、「現状肯定の谷(サクセストラップ)」をAI時代にさらに分厚くしている要因とも考えられるのです。

だからこそ、AIには解けない、人間だからこそ取り組める領域に、改めて目を向けてみませんか。

人間にしか解けない「適応課題」と、対話の価値

4.AI時代の繋がり.jpg


「AIで業務が効率化されたなら、浮いた時間はさらに多くのタスクをこなす時間に充てるべきだ。対話やワークショップに時間を使うのは、投資対効果に合わない」。もし経営陣や現場のリーダーからそう尋ねられたら、人事としてどう答えますか。

ここで鍵になるのが、「適応課題という考え方です。「変化を恐れるベテラン社員に、どうやって新しい方針に納得してもらうか」「私たちのチームならではの強みを、どう新しいサービスに活かすか」──こうした問いは、AIには解けません。チームの歴史やメンバーの感情、暗黙のルールが複雑に絡み合っているからです。適応課題を解くための、血の通った「納得感」や「共感」を生み出すのは、人間の泥臭い対話にしかできない役割です。

AIという極めて優秀なパートナーがチームに加わった今、人間側にも改めて軸が問われています。「私たちはなぜこれをやるのか(WHY)」「誰とどう協力するのか(HOW)」を、自分たちの言葉で語れているでしょうか。この軸が揺らげば、AIが導き出した手順をただこなすだけの、受け身の状態になりかねません。

AI時代において、自分たちの前提(組織文化のLevel 3)を疑えない組織は、チーム本来の目的とは違う方向へ、気づかないうちに速いスピードで進んでしまう可能性があります。

だからこそ、AI(システム1)によって浮いた時間とエネルギーを、人間同士の高負荷な熟考と対話(システム2)に投資することこそが、中長期的に成果を出し続けるチームの実力を育む、大切な一歩になるのです。

対話は、立ち止まることではありません。正しい方向へ着実に進むための「戦略的ピットイン」なのです。

脳の防衛本能を和らげる「鏡」とスモールステップ

では、どうすればチームの「システム2」をスムーズに起動できるのでしょうか。私たちの脳は、自分たちだけで話し合おうとすると、無意識に「波風を立てない(システム1でやり過ごす)」方向へ落ち着こうとします。だからこそ、TEAMUSが提供するデータという「客観的な鏡」が役に立ちます。

たとえば、TEAMUSの診断によって「耳の痛いことも忖度なく言う」という伸び代が示されたとしましょう。これを自分たちの主観だけで見つけ出すのは至難の業です。「うちは仲が良いから問題ない」という現状肯定の意識が働きやすいからです。

しかし、客観的なデータとして「ここが皆さんの伸び代です」と示されると、対話の入口が変わります。「実はあの時の会議、本当は少し違和感があったんだけど、意見を飲み込んでしまったんだよね」──そんな本音が、自然にこぼれ出る瞬間があるのです。これが、本音の対話(システム2)の扉を開く、大切なきっかけになります。

共通言語があるからこそ、安心して対話のテーブルにつくことができるのです。

ただし、ここで私たち人事として大切にしたいスタンスがあります。現場に結果を渡し、「すべての伸び代について、今すぐしっかり対話しましょう」と急かしてしまうと、日々の業務で精一杯な現場のメンバーは、疲弊して立ち止まってしまうかもしれません。だからこそ、「全部できなくても大丈夫です。まずはTEAMUSが示した『最大の伸び代』という一つのテーマから、週に1回、15分だけ話し合ってみませんか」と、無理なく実行できる「スモールステップ」を一緒に見つけていきましょう。

「図星を突かれたけれど、これなら今の私たちにもできそうだ」。そう感じてもらえるような伴走と交通整理こそが、これからの時代の人事の役割ではないでしょうか。

AIを「最強のパートナー」として迎え入れるために

もし今、皆さんのチームが「対話が難しい」「変革のビジョンを描くのは骨が折れる」と立ち止まっているとしたら。それは、チームが過去の心地よいルーチンを超えて、新しい価値を生むための「システム2」の扉の前に立っている、素晴らしいサインです。

その難しさや面倒くささを遠ざけるのではなく、チーム全員で共通言語を持ち、少しずつ、共に考え抜いてみる。そんな人間ならではの強さと温かさを持ったチームにこそ、AIは最強のパートナーとして貢献してくれるはずです。

組織のあり方が大きく変わろうとしている今、皆さんのチームの「システム2」のスイッチに手を伸ばす準備はできているでしょうか。共に、新しい時代の組織開発を一歩ずつ進めていきましょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 


 

【参考文献】

  • Forbes JAPAN「生産性は上がっても『つながり』は薄れる──AI時代のエンゲージメント危機」(2026年)

  • ギャラップ『世界の職場の現状:2024年版レポート』(State of the Global Workplace: 2024 Report)

  • ADPリサーチ『People at Work 2025』

組織成長ソリューション
TEAMUS
もっと知りたい方へ

ご不明な点はお気軽にお問い合わせください。
専門スタッフがさらに詳しく
機能についてご説明いたします。