その振り返り、進捗確認で終わっていませんか 〜出来事を"チームの言葉"に変える対話の実例〜

  • 公開日2026/8/24(月)
  • 株式会社キャリアクラフトコンサルティング 代表取締役 曽根原 士郎

「振り返りの場はあるのに、いつも進捗確認で終わってしまう」「同じ失敗なのに、メンバーごとに受け取り方がばらばらで、学びが積み上がらない」

人事や現場リーダーの皆さんから、こうした声をよく伺います。
不思議に思いませんか。起きている出来事は同じなのに、なぜチームによって"その後"が変わるのでしょうか。

前回は、偶然の出来事をチームで「拾い合う」お話をしました。今回は、その続きです。

拾った出来事を、チームがどう「意味づける」か。鍵になるのは、組織心理学者ワイクの「センス・メイキング」という考え方です。

出来事に、最初から「意味」はついていない

同じようなトラブルが、あるチームでは次の工夫につながり、別のチームでは愚痴で終わる。そんな場面に、心当たりはないでしょうか。

その差は、メンバーの能力ではありません。出来事を、チームがどう「意味づけた」かの差です。

とはいえ、日々の現場には時間がありません。振り返りの場が進捗確認で埋まってしまうのは、怠慢ではなく、ごく自然なことです。数字の確認には締め切りがあり、意味づけには締め切りがないからです。

だからこそ、締め切りのないほうに、チームの伸び代が静かに眠っています。

私たちは「解釈」に反応して動いている

組織心理学者のカール・ワイクは、人と組織のこうした働きを「センス・メイキング(意味づけ)」と呼びました。私たちは出来事そのものではなく、出来事に与えた意味にもとづいて、次の行動を選んでいる、という考え方です。

たとえば、顧客からの厳しい指摘。これを「クレームだ」と意味づけたチームは、翌日から身構えます。一方で「期待の表れだ」と意味づけたチームは、翌日から提案を練り始めます。出来事は一つでも、意味づけが翌日の行動を分けるのです。

この連載では、ここから先、三つの言葉を分けて使います。出来事そのものには、まだ意味はついていません。まず一人ひとりが、自分なりの「解釈」をします。そして、その解釈を持ち寄って語り直したときに、チームとしての「意味づけ」が生まれます。
これは、実際のチームではどのように起きるのでしょうか。ある営業チームの光景を見てみます。

ある営業チームの、送別会の帰り道

個人目標が中心で、互いの案件には深く関わらない。そんな日々が続く営業チームがありました。
ある時、中堅メンバーが一人、会社を去りました。送別会の帰り道、残ったメンバーの受け取り方は、それぞれ違いました。

「営業とはそういうもの。数字がすべての世界だから」と語る人。
「自分もいつか、ああなるのかもしれない」と黙り込む人。
同じ出来事なのに、そこから生まれる解釈はばらばらで、共通していたのは、どれも諦めの色をしていたことです。

数週間後、チームの状態を映す診断の結果が共有されました。
個々の力量を示す項目は高い。
一方で、「連携」や「相互の支援」は、はっきりと低い。
数字を眺めていた若手が、ぽつりと言いました。

「私たちは、"個人商店の集まり"だったんですね」

その一言から、送別会の帰り道ではばらばらだった先輩の話が、今度はチーム全員の前で語られはじめました。

「彼は最後まで、一人で抱えていた」
「あの提案の工夫、誰も引き継いでいない」

語り合ううちに、出来事の意味が「仕方のない退職」から、「私たちは個人商店だった」という気づきへ。
そして、「では、私たちはどうありたいのか」という問いが、初めてチームの真ん中に置かれたのです。


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いま起きていたことが、「センス・メイキング」です

このチームに起きていたことを、ワイクの視点で振り返ってみます。ポイントは三つです。

一つ目は、意味は「後から」生まれる、ということです。
中堅メンバーの退職という出来事の意味は、その瞬間には決まっていませんでした。
数週間後、チームが語り直したときに、初めて立ち上がったのです。振り返りとは、過去の確認ではなく、意味を生み出す時間なのです。

二つ目は、意味は一人ではなく「チームで」作られる、ということです。
送別会の帰り道では、一人ひとりの解釈はばらばらでした。
それを一つのテーブルに載せるきっかけとなったのは、若手のひと言と、診断という客観的な材料でした。個々の胸の内にあった解釈は、場に出て初めて、共通の意味づけがされ、チームの物語になります。

三つ目は、人を動かすのは「正確さ」よりも「納得できる物語」だ、ということです。

どの解釈が正しいかを突き詰めるより、どの物語なら次の一歩につながるか。
「チームが個人商店になっていたという気付き」は、誰かを責める物語ではなく、自分たちで変えられる物語でした。だから、次の一歩につながるのです。

ここまで読んで、「営業の話だから」と感じられたかもしれません。少しだけ、ご自身のチームを思い浮かべてみてください。

「うちの部署は、昔からこうだから」
「あの部門とは、どうせ分かり合えない」
「若手は、すぐ辞めるものだ」
「うちは忙しくて、対話の時間など取れない」

どれか一つくらい、聞き覚えのある言葉はないでしょうか。
これらはすべて、事実そのものではなく、いつか誰かの解釈から始まり、チームの"意味づけ"として定着したものです。

最初は一人の解釈だったものが、繰り返し語られるうちにチームの共通認識になり、やがて「動かせない前提」の顔をして定着します。新しく来たメンバーが最初は首をかしげていても、数か月後には同じ言葉を口にしている。そんな光景があれば、それは物語が受け継がれた瞬間です。

そう、物語は、チームを縛る側にも働きます。「営業とはそういうもの」という諦めもまた、かつて誰かが作った意味づけでした。一度定着した物語は、停滞を正当化する理由にもなります。だからこそ、時々立ち止まって、自分たちの物語を語り直す機会が必要なのです。

まずは、「仕方ない」を一つ、言葉にしてみる

新しい会議を増やす必要はありません。いつもの振り返りの15分を、まずは一度だけ「意味づけ」に使ってみませんか。手応えがあれば、週に一度の習慣にしていく。それで十分です。たとえば明日のミーティングの終わりに、こんな問いを投げかけてみてください。

「最近の出来事で、私たちが"仕方ない"で済ませていることは、何だろう」
「この半年で、起きたのにあまり語られていない出来事は、何だろう」
「最近うまくいったあの件、あれは偶然だったのかな。それとも、私たちの力だったのかな」
「新しく入った人が驚いていたこと、何かなかったかな」
「もし隣のチームが同じ出来事を経験したら、どう受け取ると思う?」

どれも、正解のない問いです。だからこそ、役職に関係なく答えられます。いちばん答えやすそうなものを一つ選んで、一人ひと言ずつ、順番に。結論を急がなくて大丈夫です。意味は、対話の中で後から生まれてきます。

そして必ず、リーダーは最初に話さず、最後に話す。それだけで、出てくる言葉は変わります。

そのとき、支えになるのが客観的な材料です。自分たちの物語は、内側からはなかなか見えません。「うちは連携できている」「共通認識はできている」という感覚と、実際の状態は、往々にしてずれています。先ほどのチームで語り直しのきっかけになったのも、チームの状態を映す診断でした。TEAMUSという「鏡」は、思い込みと実際のズレを診断の結果として映し出し、語り直しの最初の材料になってくれます。先ほどの投げかけに、鏡に映ったチームの現在地を添えるだけで、対話の深さは変わります。

出来事は、選べません。けれど、意味づけは選べます。
今できることと、これからできそうなこと。その両方を、チームの言葉にしてみませんか。

次回は、今回取り上げたチームの出来事を、今度はリーダーの目から見つめ直します。
メンバーが出来事に「意味をつける」とき、リーダーには何ができるのか。どうぞお楽しみに。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


参照ソース
センス・メイキング(Sensemaking)
組織心理学者K.E.ワイクが体系化。組織は多義的な経験を、事後に・社会的に意味づけることで秩序と次の行動を生み出す、とする理論。(Source:Weick (1995). Sensemaking in Organizations. Sage Publications.)

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