
前回のコラムでは、変革を阻む「組織文化のLevel 3(無意識の前提認識)」についてお話ししました。「失敗は許されない」といった認識を書き換えるには、社長の訓示ではなく、半径3m以内の「チーム」における成功体験の積み上げが不可欠です。
しかし、多くのリーダーが深く険しい谷につきあたります。
「1on1で本音が出ない」
「権限委譲してもメンバーが動かない」
なぜ、理論通りにいかないのか。それは、チームの「発達段階(ステイタス)」を見誤っているからです。
登山に例えるなら、まだ基礎体力がついていない5合目のチームに「頂上を目指して走れ」と言っても無理があります。まず今いるのが5合目なのか、それとも3合目なのか。その「現在地」を正しく把握することこそが、Level 3を書き換えるための第一歩なのです。
今回は、チームの現在地を特定し、次に進むべき方向を示す地図――『成長循環モデル』の全貌をご紹介します。
『成長循環モデル』とは、「成功の循環」をベースに私たちが数多くの組織開発支援を通じて体系化した、組織成長のロードマップです。
このモデルは、独自の経験則だけではありません。日本の集団力学の権威、九州大学名誉教授の古川久敬先生も、著書『チームマネジメント』において、「単なる集団」から「機能するチーム」へと進化する同様の構造を定義しています。
私たちのモデルは、こうした日本の組織論の王道も踏まえつつ、現代の環境変化に合わせて具体的に、現場目線で構築した以下の3つの構造で設計されています。
3つのステイタス(発達段階):チームが今、どのような価値を生み出せる状態にあるかを示す
2つの谷(適応課題の正体):次の段階へ進むことを阻む、特有の停滞要因を示す
18の要素(スイッチ):関係・思考・行動の質を高め、谷を超えるための具体的なアクションを示す

チームは常に同じ状態ではありません。人の成長と同じように、チームにも成熟度に応じた「発達段階」が存在します。私たちは、その段階を以下の「3つのステイタス」として定義しました。
この段階の本質 : 言われたことを、確実にやり切る
役割分担が明確で、決められた定型業務や計画をミスなく確実に遂行できる状態です。リーダーは「指導者」として環境整備と進捗管理を行い、メンバーは「遂行者」として自分の役割を完遂します。チームの目的を理解し合った上で、まずは「個」が自律して動ける状態を目指します。
【会議の風景】
リーダー:「今週の進捗を報告してください」
メンバーA:「私の担当は予定通り完了しました」
メンバーB:「○○に問題があり、上手くいっていません」
リーダー:「Bさん、◇◇は試しましたか?それで解決するはずです」
→ 報告・連絡・相談が機能している状態
【Level3の変化】※組織文化のLevel 3(無意識の前提認識)
Before:
ミスしたら評価が下がる。言わないでおこう
私の仕事は終わった。他は知らない
After:
上司の指導通り進めたら、上手くいった(次からそうしよう)
上司と仲間の会話を聴き、自分事として気を付けようと思った
この段階の本質 :互いの知見を重ね、主体的な工夫で成果を高める
個人の総和(1+1=2)を超え、相乗効果を生み出し始めた状態です。昨年ご紹介した「シェアド・リーダーシップ」が本格的に機能し始めます。リーダーは「育成者」として本音の対話と知識共有の場を作り、メンバーは「協働者」として互いの強みを活かし、役割の隙間を埋め合いながら、更に高い成果を目指していきます。
【会議の風景】
メンバーA:「Bさんの案、私がやった営業部との事例と組み合わせたらもっと良くなりませんか?」
メンバーB:「確かに!Cさん、開発部も巻き込んで3つの部で会話の場を持ちたいです!」
リーダー:(見守りつつ)「いいですね、是非、3人でたたき台を作ってみてください」
→ メンバー同士が自発的に知見・アイデアや工夫を掛け合わせている
【Level3の変化】
Before:
十分忙しく、他メンバーの取り組みや他部署の様子には気が回らない
今のチームと自分の成果・状態に満足し、先のことは考えていない
After:
他メンバーの考え方・やり方を参考に、効率化や質の向上を目指そう
他チームの事例や進め方を自分たちに応用できないか、調べてみよう
この段階の本質 : 今ないものを、自分たちで創り出す
既存の枠組みを超え、創造を通じて改善の延長線上にはない新たな価値を生み出す状態です。リーダーは「協創者」として高い視座で未来を語り、メンバーは「主体者」として自ら問いを立て、チームと自身の未知を重ねながら、挑戦の領域へ踏み出します。
【会議の風景】
メンバーA:「この市場、5年後は確実に縮小します。今から新規開拓すべきでは?」
メンバーB:「リスクはあるけど、小さく実験してデータ取りましょう」
リーダー:「失敗しても責任は私が取ります。まず、できることからやってみましょう!」
→ 未来起点で、チーム全員が危機感と当事者意識を持っている
【Level3の変化】
Before:
新しいことをして失敗するより、今の勝ちパターンを磨く方が確実だ
リスクを負ってまで変える合理的な理由がない
After:
今の成功だけで満足せず、未来のために小さくでも色々試してみよう

「❶チームづくり」から「❸変革への挑戦」まで、階段を上るようにスムーズに成長できれば理想的です。しかし現実には、多くのチームが特定の段階で足踏みをし、停滞してしまいます。
私たちは分析の結果、ステイタスの間には、目に見えない深い「谷」が口を開けていることを突き止めました。
ステイタス❶で止まるチームの特徴は、メンバーが「指示された範囲外のことはしない」という枠に閉じこもることです。失敗や知らないことへの恐れから「自分にはできない・すべきではない」という気持ちが、役割を超えた連携を阻みます。これは「自己制限の谷」と言えます。
ここでは、リーダーがいくら「連携しろ」と号令をかけても動きません。谷を越えていくためには、小さな成功体験による自己効力感の向上、魅力的で期待感が生まれる「少し成長した自分たちの姿」の共有などが必要です。
連携がうまくいっているチームほど陥るのが、「今のままで十分だ」というサクセス・トラップです。今の快適な状態を壊してまで不確実な未来へ踏み出すことにブレーキがかかる、「現状肯定の谷」と言えます。
この谷を超えるには、外部環境の変化を直視する「未来への健全な危機感」や、経営やリーダーからの「ハシゴを外さない(挑戦を保証する)」という強力なメッセージが必要です。
つまり、『成長循環モデル』とは、単に3つのステイタスを目指すだけでなく、この「2つの谷」を乗り越えるための"新しい現場の武器"として設計されています。
あなたのチームが今、停滞感を感じているなら、それは能力不足ではなく、この「谷」の前に立っているだけかもしれません。

最後に、簡単な質問でチームの現在地を確認してみましょう。
5秒診断 : 以下のうち、今のチームに最も近いのは?
□ メンバーは指示通りに動くが、自発的な提案はほぼない
→ ❶ チームづくり(谷:自己制限の谷)
□ メンバー同士で意見を出し合うが、他部署との連携は薄い
→ ❷ 連携の促進(初期)
□ 他部署とも連携し、改善提案が活発に出る(が、大きな変化はない)
→ ❷ 連携の促進(後期)(谷:現状肯定の谷)
□ 「前例がない」ことに、チーム全員がワクワクしている
→ ❸ 変革への挑戦
診断結果はいかがでしたか?
重要なのは、「高いステイタスが偉い」のではなく、「目的に合ったステイタスを目指す」ことです。しかし、もし現状に閉塞感を感じているなら、そこには必ず「谷」があります。
次回は、この「谷」を乗り越えるための具体的な視点・現場シーンと言える「18の要素(スイッチ)」をご紹介します。
なぜ、メンバーは本音を言わないのか?(自己制限の谷)
なぜ、改善はできても、変革は起きないのか?(現状肯定の谷)
「谷の正体」に対し、具体的にどのスイッチを押せばチームが動き出すのか。現場での具体的な打ち手・ヒントになると思います。ぜひ次回もお楽しみに。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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