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2026.06.19

フィジカルAIとは? 巨大市場を生み出す "現実世界で動くAI"の衝撃

トレンドワード:フィジカルAI

生成AIが自動的に生み出す文章や画像によって、人間が担う業務は大きく変化した。しかし今最も注目されるAI技術の急速な発展により、現実社会で「動くAI」がさらなる社会変革をもたらしている。フィジカルAIが注目されている背景や最新動向、社会に与えるインパクトについて解説する。

フィジカルAIとは?

フィジカルAIとは、人間のように五感を使い、「考えるだけでなく、行動するAI」のこと。現実世界の物理的な法則や環境を理解し、それに基づいて実社会で行動・判断できる自律型AI技術のことを示します。
具体的には、カメラやセンサーで周囲の状況を瞬時に「認識」し、集めた情報からAIモデルを用いて最適な行動を「判断」、アクチュエーターを通じてロボットアームを動かすなど、「行動」を自律的に選択して実行することができます。

従来のAIがチャットや画像生成などデジタル空間でのみ活動するのに対し、フィジカルAIは現実世界の物理的空間で活動できる点があります。例えば自動運転車を制御する、工場内でロボットアームを動かして荷物をピッキングするなど。

また、一般的なロボットとの違いは、ロボットがあらかじめプログラムされた特定の範囲内の作業を自動的に実行するのに対し、フィジカルAIは状況に応じて柔軟に判断し、応用することができます。
例えば「テーブルの上のコップを取る」という動作を指示した場合、ロボットアームが指定された場所に指定されたスピードや角度で手を伸ばすのに対し、フィジカルAIはコップの大きさや重さを認識し、周囲に邪魔なものがないか探索したうえで安全にコップを取るための動作を考え、実行するというイメージです。




フィジカルAIが注目される背景

フィジカルAIの開発は世界で競争が過熱しています。日本でも2025年6月のAI戦略会議で首相が「日本が競争力を持つ分野であり、人手不足対策や生産性向上に資するロボットとAIとの融合である『フィジカルAI』の競争力強化策について盛り込んでほしい」と言及しています。
フィジカルAIに注目が集まっている背景として次の点が挙げられます。

AI・ロボット技術の融合による技術的基盤の進化

第一に、技術的基盤が近年急速に発展し、フィジカルAIの実現が技術的に可能になりつつある点があります。具体的には、マルチモーダルAIやロボット技術、環境を認識するためのセンシング技術、ディープラーニングや強化学習、クラウドコンピューティングや5G通信の普及などが挙げられます。
例えばマルチモーダルAIが画像や音声など多様な情報から環境を認識することを実現し、ディープラーニングや強化学習によって複雑な状況下でも最適な判断が下せるようになりました。



深刻な労働力不足

高齢化による労働力不足の解消など、フィジカルAIの活用に対する社会的ニーズが高まっていることも要因の一つです。製造業や物流、医療・介護、農業などさまざまな現場で、フィジカルAIを搭載したロボットによる生産性向上や効率化に期待が寄せられています。



技術開発競争激化と覇権争い

半導体大手のNVIDIA創業者のジェンスン・ファン氏が「AIの次の波はフィジカルAI」と強調するように、50兆ドル規模ともいわれています。巨大経済圏を生む可能性を持つフィジカルAI市場に巨額の投資を行い、覇権を握って市場を独占、あるいはルールメイキングしようという競争が激しくなっています。軍事用途での開発も進んでおり、外交カードとしての価値も期待されています。アメリカや中国が先行するなか、日本はAI統合に遅れて存在感が薄いというのが現状です。




フィジカルAIの活用が期待される分野

今後フィジカルAIの活用が期待されている業界は、次のように多岐にわたっています。

製造業・物流

フィジカルAIの導入によって、多種・少量生産への対応や倉庫の自動化、危険な作業や力仕事をロボットが担うことなどが期待されています。また、自動運転の実験も進んでおり、実用化すれば物流サービスの深刻な人手不足解消にも。
工場内のあらゆる機器がネットワークでつながり、リアルタイムでデータを共有しながら最適な生産を自律的・自動的に行う「スマートファクトリー」の実現に期待が寄せられています。



医療・福祉

縫合等の精密な手作業を行う手術支援ロボットアームなどによる医療行為のサポートや、介護における入浴、移乗・移動補助、見守り等でフィジカルAIの活用が期待されています。すでに身体機能を補助して歩行や起き上がりなどを補助する装着型ロボットが実用化されています。
フィジカルAIの活用が医療技術の進歩と手術の安全性向上、介護業界の人手不足解消や効果的なリハビリテーション支援につながると期待されています。



農業

「スマート農業」実現に向けたフィジカルAIの活用は、多くの可能性を秘めています。例えば、ドローンを活用した農薬散布や生育状況の解析、水や肥料の最適化、収穫の最適時期の判別、自動収穫や画像認識を用いた野菜や果物の自動選別と仕分け作業などが挙げられます。
農業へのフィジカルAI活用によって、人手不足解消だけでなく、予測に基づく出荷量の調整や技術の継承、農薬散布による人体への影響軽減など、さまざまなメリットがあります。




フィジカルAIの活用実例

Amazon物流倉庫

Amazonでは物流倉庫でのロボット活用が進められており、ピッキングや梱包、搬送等でロボットの導入が進められています。人を避けて移動する棚搬送ロボットや様々な形状の商品を正確にピッキングするロボットアーム、空のコンテナを格納するヒューマノイドロボットなどがすでに工場内で稼働。Amazonのグローバル配送業務で100万台のロボットが導入され、配送業務の約75%がロボットの支援を受けています。また、Amazonの倉庫ロボット向けに設計された生成AIの導入により、ロボットの作業速度や効率を10%向上させています。



Figure02

アメリカのスタートアップ企業が開発した産業用人型ロボット「Figure2」はBMWの工場でのパイロット運用で、部品の搬送や補充などを24時間体制で繰り返すテストが行われています。人間との会話を通してタスクを理解し、自律的に動くことが可能。夜間も稼働できるため、人的コストが年間3000万円削減できる可能性があると見込まれています。



Kachaka

日本で開発された、大規模言語モデルを搭載した自律搬送ロボット「kachaka」は100万円以下と安価ながら、障害物を認識して自律的に移動最適ルートを判断することができます。倉庫だけでなく飲食店やクリニックなどでも配膳や機材の運搬に使用されています。



自動精緻解体システム

日本の自動車部品メーカーのデンソーが部品の再利用のために廃車を解体する際に活用している解体支援ロボットは、手術支援ロボットで培った技術を応用してつくられました。車種による部品や素材の違いをAIが学習し、すべての解体の自動化に挑戦しています。




フィジカルAIがもたらす恩恵と課題

フィジカルAIによって期待できるメリットとして、これまで人間が行っていた作業や判断の一部を代替・支援することによる人手不足の解消や飛躍的な生産性の向上があります。また、放射線区域や農薬散布など人体への影響が懸念される現場での作業や危険な作業を代替させることで、安全性向上にもつながります。さらにフィジカルAIによってこれまでは実現不可能だった新しい製品やサービスが生まれ、それが社会課題の解決につながることも期待されています。

一方フィジカルAIの実用化に向けた課題として、最も大きなものは安全性と信頼性の確保です。自動運転や自律的な動作による誤作動や事故、サイバー攻撃のリスクに対するリスク管理体制の整備や、学習データを継続的にアップデートしていく体制が必要です。
また、事故が起きた場合の責任の所在や、学習データ収集でのプライバシー保護など、倫理的課題に対する対応も求められます。欧州で進むAI規制ではフィジカルAIを「高リスクAI」として分類するのかなど、国際的なルールメイキングへの動きにも注目が集まっています。
さらに、フィジカルAIの導入によって業務を代替されることで雇用に変化がある場合も考えられます。「人」は何を担うべきなのか、高付加価値業務へのシフトも含めた見直しが求められます。

今後フィジカルAIが仕事や生活にもたらす変化は未知数であり、「AIとの共生」という新たな時代の到来に備える必要があるといえます。



MANA-Biz編集部