組織の力

2024.04.19

次の100年を創る。ダイキン工業の新本社オフィス構築〈後編〉

フラットな風土が移転プロジェクトを後押し

空調機器や化学製品のトップメーカーとして国内外の市場で成長を続けるダイキン工業株式会社は、2022年に本社の移転を行い、新オフィスでスタートを切った。今回の移転で特徴的だったのは、プロジェクトメンバーはじめ従業員が新しい働き方を自分事として模索する姿勢だった。従業員の本気を支える企業風土や信頼関係構築の取り組みについて、移転プロジェクトの主軸を担った事務局の大石裕子さん(施設部 担当課長)と密本万吉さん(総務部 総務グループ)に、オフィス設計・コンサル支援を通じてプロジェクトに伴走したコクヨ株式会社の織田茂伸と古川貴美子がお話を伺った。
左から)密本万吉さん、大石裕子さん

フラットな議論で
納得度の高いオフィス空間を構築

――各部門の執務スペースはどのように決定した?


織田:今回の移転では、「フリーアドレスか固定席か」など部門ごとに働き方を検討していただき、それぞれの希望に合うオフィス空間をつくりました。他社様の場合、オフィス全体で同じスタイルに統一するケースも多いのですが、なぜダイキン工業様では部門ごとに検討されたのですか?

大石:実は私たち事務局としては、当初は「オフィス全体で統一したい」という意向がありました。そこで、プロジェクトメンバーで議論し、ABWな働き方ができるフリーアドレス、もしくはグループアドレスのオフィスをつくりたいと考えて経営陣に提案したのです。
しかし経営陣からは、「会社は従業員が安心できる場所であるべき。原則、1人1席ずつ固定席を用意するべき」と言われました。ただし、「部門ごとに働き方は違うので、各部門の業務特性もしっかりと確認しオフィスづくりを進めること」と指示をもらいました。
確かに、海外出張する従業員が多い部門と、社内での執務がほぼ100%という部門とでは働き方がまったく違いますから、求められる執務スペースのあり方も変わってきますよね。

1_org_183_01.jpg 大石裕子さん

古川:ワークスタイルや執務スペースのデザインが各部門に任されたのは、従業員に対する信頼やリスペクトを経営陣の方々がお持ちだったからこそだと感じます。それぞれの部門では、どのように働き方を決めていったのでしょうか?

密本:まずは各部門のトップに、「今後の働き方、どんな執務スペースをつくりたいかを考えてもらいたい」とお伝えし、部門内で議論してもらいました。その決定内容をもとに、私たち事務局も交えてさらに話し合い、執務空間の具体的なデザインを決めていきました。

織田:ベースのデザインや家具は決めてあり、その中でご希望に合わせてアレンジできるように設定していましたが、部門ごとに個性ある空間が完成しましたね。

大石:確かに違いがはっきり出ましたね、たとえば、空調機器営業では、「メンバーは普段、外出が多いからこそ、安心してオフィスに戻ってきてもらうためにも1人ひとりに席を設けたい」という思いから固定席を希望しました。一方で、化学素材の営業部門は「もっと外出して刺激を得てほしい」という意向からフリーアドレスの空間をつくりました。

古川:各部門でのディスカッションでは、メンバーがあまり意見を言わず「部門長の意見=部門の意見」とならなかったのですか?

大石:弊社にはもともと、役職や年次に関係なく意見をぶつけ合えるフラットな企業風土があります。そのため、各部門ではしっかり議論したうえで働き方を決めてもらうことができました。

密本:フラットといえば、プロジェクト内でも遠慮なく意見を戦わせていましたよね。「若手はそう思っていません!」という声がオフィスに響き渡ったりして。

織田:それができる心理的安全性がメンバー間で確保されていたということですね。




メンバー間の信頼関係が
よりよいオフィスづくりと働き方改革を推進

――プロジェクトメンバーと1on1を実施した理由は?


古川:事務局のお2人は、プロジェクトメンバー全員と1on1を何回もされていましたね。メンバーから相談を受けるケースは他社様でも聞いたことがありますが、全員と面談をするケースは珍しいと思います。なぜ実施されたのですか?

密本:ひと言で言えば、メンバー全員に納得して活動してもらいたかったからです。1人ずつと対面で話して「仕事とプロジェクト活動の兼務で負荷はない?」「今度新しい分科会を立ち上げるけど、どこで活動したい?」などと確認しました。

1_org_183_02.jpg 密本万吉さん

大石:全員でミーティングをすると、あまり発言しないメンバーもいるため、その人たちが考えていることを知りたい思いもありました。1人ずつと話してみると「この人は、こういう思いを持っていたんだな」という気づきがたくさんあり、とても有意義な時間になりました。
1on1で挙がった意見をもとに、メンバーに新たな仕事をお願いしたこともあります。何よりよかったのは、メンバーとの間に信頼関係をつくれたことです。メンバーも、ただプロジェクトの仕事を振られて受け身でこなすのではなく、自分事として取り組んでくれるようになったと感じています。

織田:1on1によって築かれた信頼関係が、その後のプロジェクト活動にどのように活かされたのですか?

密本:メンバーから「自分の部門のトップから、プロジェクトに関してもっと詳しい説明を求められた」と相談を受け、一緒にそのメンバーが所属する部門に話をしに行ったことが何回もあります。このアクションも、メンバーとの絆を深めるのに役立ちました。
また、各部門のトップと直接話すことで、私たちの目指す働き方をより明確に伝えることができたり、プロジェクト外の従業員の意見を知ることができたりしたことも大きなメリットでした。



――移転プロジェクトは若手の人材育成にもつながった?


織田:移転プロジェクトに伴走させていただく中で、若手の方がどんどん成長していく姿が印象的でした。人材育成という観点で、事務局として意識したことはありますか?

大石:移転プロジェクトは、今まで接することの少なかった他部門のメンバーと議論を重ねながら、自分たちの意見を形成してオフィスという形に落とし込んでいく仕事です。
自部門でふだん取り組んでいる仕事をこなすのとはまた違って、メンバーにとっては非常に貴重な経験となったのではないでしょうか。

密本:僕自身も、プロジェクトのサブリーダーに抜擢していただいた当時は入社2年目でしたからね。経営陣に向けてプレゼンテーションをしたり、部門横断型のプロジェクトでたくさんの人と接する機会があったことは、自分にとって本当に貴重な経験でした。
あまりにも濃い体験だったので、プロジェクト完了後はしばらく「移転ロス」になってしまったぐらいです。

古川:どの分科会も、必ず2週間に1回は集まって議論をなさっていましたね。私はペーパーレス分科会を担当させていただきましたが、回を重ねるごとにみなさんの経験値が上がっていくのを実感できました。


1_org_183_03.jpg 左から)織田茂伸、古川貴美子



移転が終わった今こそ
会社の今後を自分事として考える

――オフィス移転完了から1年、今後目指したいことは?


織田:移転は無事に完了しましたが、プロジェクトリーダーを担ったお2人は、今後どんな方向性で活動していきたいですか?

密本:本社移転は、「働く場所」や「働き方」という切り口で「次の100年に向けてどんなことができるか」と考えるよいきっかけになったと思います。
プロジェクト中は「今後目指すべき姿を否が応でも考えなければ移転の期日に間に合わない」という状況でしたが、今後は意識的に考えていく必要があります。
従業員が会社の変革をますます自分事と考えて取り組んでいけるように、全員が本気になるための仕掛けをつくる一端を担いたいですね。

大石:私は今回のプロジェクトで、オフィスというハコを切り口にして、さまざまな部門のメンバーとヨコやナナメのつながりをつくることができました。会社が成長するための答え探しを、今回得た仲間と一緒に、いろいろな角度からしていきたいと思っています。


1_org_183_04.jpg 左から)織田茂伸、古川貴美子、大石裕子さん、密本万吉さん




ダイキン工業株式会社

1924年創業。「空気で答えを出す会社」をコーポレートスローガンに、空調機器をはじめ環境技術を活かした製品・サービスを国内はもとよりグローバル市場でも展開する。

文/横堀夏代 撮影/出合浩介