仕事のプロ

2020.12.24

今こそ求められる「ナレッジマネジメント」とは?〈後編〉

積極的なナレッジの発信・共有でコロナ禍を乗り越える

コロナ禍により急速にテレワークが広がり、組織内のコミュニケーションが希薄になりがちななか、組織の「ナレッジマネジメント」は転換期を迎えている。特に影響を受けている無形のナレッジマネジメントや、業務効率化の先にあるナレッジの「共創化」を見据えたアクションについて、引き続きコクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタントの吉澤利純氏に解説してもらった。

コミュニケーションの減少が
ナレッジ共有の機会喪失に

前編では資料や書類といった有形のナレッジのマネジメントのポイントについて解説しました。一方、組織が有するナレッジの多くは形がなく、意図して「表出化」しなければ、個人の中に留まっていくだけで、組織としての活用が難しいものばかりです。

従来、そうした無形のナレッジの拡張・共有の多くは、何気ない会話のなかで行われてきました。話し手が「なんとなく」口にしたことが「なんとなく」聞き手にインプットされてきたのです。

ふと『〜ってどうなんですかね?』と発したところ、『この間、Aさんも〜のことを話していたよ。聞いてみたら?』と情報をもらった...などという経験は、誰もがあるのではないでしょうか。

ところが、コロナ禍によりテレワークが浸透し、何気ない会話や立ち話的な雑談をする機会が格段に減りました。コミュニケーションが自然発生する環境がなくなり、情報が「なんとなく」伝わり共有されることがなくなった今、個々人の中にある無形のナレッジの表出化・素材化はこれまで以上に重要になっているのです。

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バーチャルの世界には、リアルな世界で起こりうる偶然性はなく、明確な目的を持って情報を探しにいかない限り欲しい情報に行き着くことは難しくなります。入手した情報をメールで流したり、社員へのインタビュー映像を配信したりと、こんな素材がありますよという発信を意識的かつ積極的に行う、つまり計画的に偶発性の仕掛けをつくる必要があるのです。



今こそナレッジマネジメントに取り組み、
テレワークの生産性低下を回避

ある省庁の職員を対象に行ったアンケート調査によると、コロナ禍に際して在宅勤務を経験した職員のうち、約6割が業務の生産性が落ちたと回答しました。どういうときに生産性の低下を感じるかという質問には、ちょっとした会話で済んでいたことが済まされない、情報を伝えられない・受け取れない...という回答が多く寄せられました。

オフィスにいれば『あの資料、どこだっけ?』『あの人の連絡先、わかる?」で済んだことが、テレワークで気軽に人に聞けない状況では、一人で情報を探し、解決しなくてはなりません。当然、個人として業務の生産性が落ちますし、連鎖的にチームや部署の生産性の低下にもつながり、組織として大きな損失になりかねません。

官公庁では特に、セキュリティの関係で社外からサーバーへのアクセスができないなどの障壁もありました。バーチャルでもナレッジの共有がスムーズにできるようにすることは、喫緊の課題だと感じています。

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コロナ禍以前は、「ナレッジマネジメントに取り組み、継続的にイノベーションを起こしましょう」と企業・組織に訴えていました。業務の効率化については、どちらかというとプラスアルファの効果として提示してきました。

しかし、コロナ禍によりテレワークが進み、ナレッジマネジメントに取り組まなければ業務の効率や生産性が格段に悪くなってしまうことが明らかになりました。業績が悪化している企業も多く、「ナレッジマネジメントに取り組まなければマズイですよ」と訴えた方が、今はより響くと実感しています。

まさに今こそ、ナレッジマネジメントに取り組むべきとき。ぜひ、できることから着手していただきたいと思います。



吉澤 利純(Yoshizawa Toshizumi)



コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
1級ファイリング・デザイナー/オフィスセキュリティコーディネーター ストア事業、営業、新規事業企画部門を経てワークスタイルコンサルティング部門に所属。 主に、ナレッジシェアリング構築のコンサルティング、オフィス構築、運用改善コンサルティングを担当し、お客様の働き方改革をサポート。

文/笹原風花