組織の力

2019.05.16

今後の日本に求められる破壊的イノベーション〈後編〉

別組織を設け、破壊的アイデアに取り組むことが課題に

関西学院大専門職大学院経営戦略研究科の玉田俊平太教授は、「グローバルに活躍する日本企業はこれまで、どちらかというと持続的イノベーションを得意としてきました。しかし、時代の変化が激しい今、持続的イノベーションだけでは世界市場で通用しなくなって来ています」と語る。では、破壊的イノベーションを起こすために、今後の日本企業は何を、どのように取り組むべきかをお聞きした。

能力は平均的でも多様な人材が
集まるチームが力を発揮することも

さらに玉田教授は、「多様な人材が集まって企画や設計を行うことで、思いがけないアイデアが生まれ、破壊的イノベーションの種が生まれるのではないか」と提案する。

「NASAのアポロ計画に参加したチームを分析したところ、高い能力をもった均一な人材からなるチームより、平均的な能力だが多様な人材で構成されたチームの方が、より高いパフォーマンスを示したそうです。さまざまな背景や属性の人が集まることで、解の探索空間が拡がり、イノベーティブなアイディアが生まれる可能性が高まるでしょう」



破壊的イノベーションを生む
土壌は生まれつつある

これまでの日本企業は、破壊的イノベーションを生むのが苦手だとされてきた。しかし、「近年では、破壊的なイノベーションを起こすための土壌が整いつつある」と玉田教授は説明する。

「例えばソニーには、社外の人材も含むチームから、既存事業とは重複しないアイデアを広く募集し、第3者も含めた審査員によるコンテストと、クラウドファンディングによる市場価値評価を通じ、優れていると評価されたアイデアは、その提案者達自身を社長直轄の部署として独立させ、新規事業に取り組ませるシード・アクセラレーション・プログラムという制度があります。これまでに腕時計のベルト部分にスマートフォンの機能が入ったスマートウォッチや、個人向けのアロマディフューザーなどの商品が生まれています。またパナソニックでも、ゲームチェンジャーカタパルトという新規事業創出のためのプロジェクトを始めています。こうした動きの中から、破壊的なイノベーションが生まれる可能性は十分にあるでしょう」

破壊的なイノベーションを起こすのはたやすいことではない。しかし、多様な人材を集め、無消費の状況を探し、破壊的なアイデアが生まれたら新しい別組織を設けて取り組むことが、破壊的イノベーションに向けた第一歩になるのではないだろうか。

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玉田 俊平太(Tamada Schumpeter)

関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科副研究科長・教授。専門は技術経営、科学技術政策。東京大学で学んだのち、ハーバード大学に留学し、ビジネススクールにてマイケル・ポーター氏やクレイトン・クリステンセン氏に競争力と戦略の関係やイノベーションのマネジメントを学ぶ。経済産業省、経済産業研究所フェローを経て現職。著書に『日本のイノベーションのジレンマ』(翔泳社)など。

文/横堀夏代 撮影/出合浩介