仕事のプロ

2018.04.17

エアークローゼットにみる行動力が導く新規ビジネスの展開法〈前編〉

「すべての人は正しい」が生んだ新しいサービス

プロのスタイリストが顧客一人ひとりに合わせて洋服を選び、レンタル制で毎月届ける――「airCloset(エアークローゼット)」はそんなユニークな形態の、女性向けファッションレンタルサービスだ。このサービスを運営する株式会社エアークローゼットの代表取締役社長 兼CEOの天沼聰氏は、「私たちは洋服ではなく、『新しいファッションとのワクワクする出会い』をお届けしたいのです」と強調する。前編では、先進的なビジネスモデルを支える天沼氏の発想法や信条についてお聞きした。

すべての事象について理由を
考える習慣がアイデアを生む力に

ではなぜ、同社はこれまでにないサービスを生み出すことができたのだろう。具体的な内容はメンバー間で話し合いながら煮詰めていったということだが、ここでは天沼氏の習慣や考え方に焦点を当てて考えてみよう。

「私自身は普段から、どんな事象に対しても『なぜそうなのか』と考えることを習慣づけています。例えば、社員の服装を見たときは『どうしてこの色を選んだんだろう?』と考え、訪問した会社様の会議室に複数の同じポップが置いてあれば『なぜこのポップを会議室のあちこちに置いているのかな?』と考えます。そして、間違ってもいいから自分なりに理由を考えてみます」

天沼氏は、妻の服選びに関する行動を不思議だと感じ、「女性は固定観念の中で服選びをしているのではないか」と仮説を立ててビジネスアイデアをふくらませた。普段から何に対しても「なぜ?」と考えてみる習慣が、多くのユーザーに支持されるサービスの原動力になったことは明らかだ。

そして、「なぜ?」と考える習慣の根底には、「すべての人は正しい」という信条があると天沼氏はいう。

「犯罪に通じるものは別として、自分に理解できないことを否定するのはおかしいと思います。すべての人はそれぞれの正義に基づいて考え、行動しているはずですから」
他人の行動や考え方を受け容れなければ、そこで終わってしまう。しかし、『すべての人は正しい』という立場に立てば、自然と「なぜそうなんだろう?」と考えるようになる。実際に天沼氏は、妻の服選びにしても「同じようなの、たくさん持っているだろ」と否定せず、「どうしてだろう?」と考え抜いた。オープンマインドで他者を受け容れる姿勢も、新鮮なビジネスを生む土壌になったのだ。



「まずはやってみる」思考が
知識不足を凌駕した

さらに驚くのが、天沼氏はじめ創業メンバーはいずれも、ファッション業界に関する知識や人脈を持たなかったことだ。「ファッションの知識はまったくない私たちでしたが、新しい挑戦に迷いはありませんでした」と天沼氏は語る。天沼氏のチャレンジ精神の一端を担っていると思われるのが、父親の存在だ。

「父は仕事にも趣味にも意欲的で、チャレンジが好きな人でした。なんと、ヨットを自分でつくってしまったこともあります。造船の技術もなく、周りからはさんざん『そんなことできるわけがない』と言われました。でも、自分で材料を揃えて資料にあたり、休日のたびに作業をして、とうとう完成させて海に浮かべることに成功。私は小学生でしたが、子供心に『こういう生き方ってカッコいいな』と感じたのを覚えています」

同社には、「9Hearts」という社員の行動指針がある。社員がめざすべき姿をキャッチーな9つのキーワードで表現したものだが、その中にも『BE POSITIVE,BE ACTIVE』『スピード感を持ち、動く』などの項目がみられる。これらもすべて、「まずはやってみよう」というチャレンジ精神を体現したものだ。やってみたうえで失敗があっても、気に病むことはないという。

「同じ失敗を繰り返さなければ人は成長できるはずなので、くよくよ考える時間があったら、自分を変えて次の結果を出した方がいいですよね。例えばエアークローゼットのサービスにしても、思った以上に服のサイズが重要であるなど、想定外のことはもちろんたくさんありました。しかし、実際に行動する中で見えてきたことを活かして、さらに感動を生むサービスをつくることができると考えています」

新事業やサービスを考えるにあたって、市場調査などのデータを慎重に分析しながら思考を深めていくのも一つの方法だ。しかし、自分を支える信条や普段の習慣を大切に考えていくことで、多くのユーザーが共感するモノ・コトを生み出せる可能性は大きい。

後編では、エアークローゼットのサービスを支える組織のあり方についてお聞きする。

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株式会社エアークローゼット

“新しいライフスタイルをつくる”を理念に株式会社ノイエジークとして2014年設立(2015年に「株式会社エアークローゼット」に商号変更)。2015年2月に女性向けファッションレンタルサービス「airCloset(エアークローゼット)」の提供を開始し、現在は登録会員数15万人に。ファッションスタイリングサービス「pickss(ピックス)」や、不動産会社エイブルと提携運営する実店舗「airCloset×ABLE(エアークローゼットエイブル)」など、新形態のビジネスも続々と展開している。

文/横堀 夏代 写真/石河正武