ライフのコツ

2016.02.01

小さなデモクラシーは家庭から

世界の学び/幸福度が高い国デンマークより

世界の教育情報第13回目はデンマークからのレポートです。国土は日本の約8分の1、人口は約22分の1のデンマークは、国連発表の2015年幸福度ランキングでは、第3位(ちなみに日本は46位)。幸せの国といわれるデンマークの生きる力を育む学校・家庭教育について、日本と北欧をつなぐコーディネーター・戸沼如恵さんにレポートしていただきました。

森のようちえんは社会の縮図?!
北欧の小国デンマークは日本でもよく知られている森のようちえん発祥の地です。
1950年代に幼稚園に通わせていた親たちが「もっと森でこどもを遊ばせたい」と交代で森に連れて行って自主保育をしたのが始まりです。その後、公立の幼稚園として認可され、国内に約60か所開園されるまでに広がりました。1年のほとんどの保育時間を森で過ごすことで自然や人との関わりを体験的に学べる幼稚園として、デンマークでもとても人気があります。
2012年~2014年まで私はロラン島にある森のようちえんを毎年訪れました。
「ほら、見て!!!」と女の子が自慢げに私に見せてくれたのは大きなカタツムリ。
横で先生が「カタツムリにちょっとだけマジックで印をつけて森に返してあげようね。そうすれば次に会った時にわかるから」と話しかけていました。
園全体を見渡すと、先生と一緒にリヤカーに堆肥用の落ち葉を集めるこどもたち、遊具づくりをしている先生の隣りで金づちを片手にお手伝いしているこどもたち、お弁当を食べるためのテーブルと椅子を一生懸命掃除しているこどもたちがいました。それぞれが自分でやりたいことを決めて動いているのに、なぜか落ち着いた雰囲気があります。
本当に危ない時や、他の子に危害を加えそうになる時以外は、先生たちは口出しせずこどもたちのやることを基本的に「見守っています」。
先生が「ダメ」という時は、本当にやってはダメなんだとこどもたちも理解しています。
そういう大人とこどものお互いの信頼感が落ち着いた雰囲気に表れていたのでしょう。これは小学校を見学しても、中学や高校を見学した時も共通していました。
~お互いを理解し、信頼すること~これはデンマーク社会によく浸透した【デモクラシー(民主主義)】の在り方なのです。さて、デンマークのデモクラシーとは一体何でしょうか。
いくつかのアクティビティーの中から自分がやりたいことを選ぶ。友達と違っていてもいい。
よく聞き、よく話し合う
ロラン島に住むPontopiddan(ポントピダン)ファミリーに「デモクラシーについて」のインタビューをしました。
お父さんのErik、お母さんのMette、高校3年生のJacob、中学3年生のJulieの4人家族です(Jacobは2013年に私の家に交換留学生として3か月ホームステイしていました)。
小さなデモクラシーは家庭から始まります。Metteさんは、年齢に関わらずこどもたちの話をよく聞いて、必要があれば納得いくまでよく話し合ったといいます。
家族という安心感の中で、こどもは思うことをどんどん口に出し、それを大人に聞いてもらうことで自分の意見を持つ訓練ができます。これはデモクラシー社会を形成するうえで、とても重要なことなのです。
また、それぞれの家庭にはルール(しつけ)があり、それを繰り返し辛抱強く教えていくことも大切だとMetteさんはいいました。
例えば、買い物のときにはお菓子を買わないと約束して家を出たけれど、お店に着いたら「欲しい!」とこどもたちが言い出したため、何も買わずにすぐに家に引き返した日もあったそうです。また、こどもたちが悪いことをしたときは「あなたのことは世界で一番愛している。でも、あなたのしたことは良くなかった」といって、なぜなのかをよく言い聞かせたのだそうです。Erikさんに「家族にとって最も重要なことは?」と聞くと、「信頼」という言葉が返ってきました。
多数決が正解じゃないけれど 
そうやって家庭の中で自分の意見を持ち、自分で決めることを訓練していきますが、幼稚園や小学校という社会に入っていくと、いくつかの意見をひとつにまとめて決めなければならないことが出てきます。お祭りの衣装の色は?来週はクラスでどの映画を観る?クラス委員は誰にする?など、数えたらキリがありません。その時にデンマークでも採用するのが「多数決」です。手を挙げる、投票するなど様々な方法が取られます。
デンマークの先生たちが意識しているのは、少数の意見をよく聞き、最終的に全員が納得できる提案をしたり、それぞれの意見が違っていいということを教えることです。
例えば、クラスで観る映画が多数決でひとつに決まった場合、次の週は一人の子が提案した映画を観てみようとクラス全員に問いかけたり、なぜそれが面白いのかをプレゼンしてもらう時間をとったりします。
多数決はより短時間で意見をまとめる方法として有効だけれど、結論に至るまでの過程やその後の対応を重視していこうと一致しているのがデンマークらしいところです。
自分の意見をいい、相手の話をよく聞き、話し合う。その先に生まれる信頼が最も大切、というポントピダン一家
小さいこどもも自分のやりたいことを先生に伝える。「落ち葉を拾って堆肥にするよ!」
Critical Thinkingを育てる
中学生、高校生になるとより議論の内容が成熟していきます。
「一方的に流れるこのコマーシャルの裏にどんな策略があるのだろう」「世界で起こっている悲惨なテロをどうやったら解決できるのだろう」「持続可能な社会システムとはなんだろう」などと様々なテーマで学生はグループディスカッションをしていきます。
賛成意見と反対意見にわかれてディベートをしたり、また逆の立場で意見を述べたり、グループで自治体に働きかける提案書づくりをしたり、時には企業とタイアップしたプロジェクトを行ったりします。
マスメディアや政治などに対しての批判的な考え方(Critical Thinking)も育っていきますが、多角的に物事を見る力がデモクラシー社会を形成する上で大事なことだと考えられているので、社会的に受け入れられ、またどこでも自由に議論されています。
デンマークでは18歳から成人とみなされ、選挙権が与えられます。そのため、高校には地元の市議会議員や政党の代表者が訪れ、学生たちに自分たちのマニュフェストを話し、一票の大切さを説きます。学生は政治家に自由に発言し質問することができます。自分の意見を相手に伝えることは小さい頃から訓練されていますから、学生とは言え高度なレベルの議論が行われます。こうして、デンマークでは自分が国の一部を担うという意識が育ち、どの選挙も投票率は80%を超えていて、選挙がある日は遠出をせず選挙結果をテレビで観ている人が多いのです。
デモクラシー社会を支える対話の場
デモクラシーが幸せを形づくる
Metteさんに「デンマークはデモクラシーが浸透していると実感しますか?」と質問したところ、「Denmark is one of the best democratic countries in the world(世界で最もデモクラシーが浸透している国のひとつだと思う)」と即答されました。
「それは私たちの社会が健全で公平であると感じられることなので、個人としての幸せにも繋がっているのです」とも言われました。
私たちが日本でできることはなんでしょうか?まずはこどもたちの話をよく聞き、横に並んで一緒に考えて話合うこと・・・こんな小さなデモクラシーから始めていきませんか?

戸沼 如恵

北欧生活デザイナー、北欧ツアーコーディネーター
長女のデンマーク留学をきっかけに2010年北欧情報を発信するエコ・コンシャス・ジャパン(合)を立ち上げる。2012年より北欧の教育、エネルギー、デザインなどにフォーカスしたオンリーワンの北欧ツアー事業を展開し好評を博している。また日本と北欧の架け橋として、講演、イベントプロデュース、執筆など各方面で活躍中。