ライフのコツ

2014.04.30

シンプル&短時間、学力を伸ばす家庭教育

筑波大学附属小学校の論理的思考力を伸ばす国語

小学校入学を目前に「授業についていけるだろうか?」「今のうちに親ができることは何だろう?」と新たな不安や悩みを持つのが親心。筑波大学付属小学校教論の白石範孝先生は「小学校での学力を伸ばすには、家庭の役割はとても大きい」といいます。入学以前にやっておきたいこと、入学後に教えてあげるべきこと、そして、親の心構えまで……。こどもの学力に必要不可欠なことの数々を伺いました。

学力の基本は「丁寧さ」を身につけることです
「ぬりえと折り紙は、入学前にやっておくといいですね」と、筑波大学付属小学校の白石先生。
ぬりえといっても、ただ塗らせるだけではだめ。色鉛筆を使い、指で鉛筆を"丁寧に"動かす練習をさせる。折り紙も"丁寧に"紙の隅と隅を合わせて折ることが大切という。「一生懸命にぬりえや折り紙をする。きめ細かな作業ができることが大事です。ぬりえや折り紙を通じて鉛筆の使い方が習得できるので、文字の『とめ、はね、はらい』がすぐに身について、きれいに書けるようになります。それだけでなく、きめ細やかな作業ができるかどうかは授業中の落ち着きや、その子の集中力にも影響します。これは文字の上達以前の、学習に向かう姿勢にも関わってくるということです」行動すべてを雑に終わらせてしまうこどもには集中力がなく、文字もなかなか上達しない。そうすると、学力もなかなか伸びない。逆に丁寧さを身につけたこどもは、時間をかけて根気よく続けるため、集中力などの精神力も身につくのだ。
「丁寧さが足りないこどもは、ボールを投げてもぎこちない、話をさせてもぎこちないなど、あらゆる場面に出てきます。指先を使うきめ細やかな作業は、精神面や学力、運動能力も育むのです」。入学式の当日、白石先生が保護者に伝えることがひとつある。四角い升目をつくり、それを鉛筆で縦、横、右斜め、左斜めと塗らせていく作業をこどもと一緒にやって欲しいと。「これだけで、丁寧さと鉛筆の使い方の両方が十分に身につくのです」
ぬりえはきれいに塗れればこどもも嬉しい。どのようなものでもいいからたくさんさせてあげたい。
白石先生は新入学のクラスで必ず行う升目を塗りつぶす活動を行う。こどもは鉛筆を使う。
こどもの思いを引き出す、一緒に作業する時間
こどもの丁寧さを育むためには、母親の意識も大切とは重々わかっていても、多忙なスケジュールのやり繰りに追われてしまい、こどもとの時間、距離感をうまく確保できないと、悩む人も多いだろう。ついつい手を出しすぎてしまったり、あそんでいるときは放任してしまったり......。「もちろん、四六時中というわけにはいかないでしょう。ただ、低学年ぐらいまでは、とにかく保護者が見てあげる時間をつくることが、とっても大切なんです。こどもが書いたり、描いたりした物を見てあげる、宿題の答え合わせを一緒にしてあげる、そして何より一緒に作業をしてあげることです。いずれも、それほど時間がかかることではありませんね」。
こどもがあそんでいる間に家事を、こどもが自分の身支度をしている朝時間は、自分の身支度を......。無意識に放任してしまっていることが、こどもの学力などにも影響するのだ。「親と一緒になにかをすることは、集団生活の基礎になってきます。人の話を聞く、自分の思いを伝えるといった基本も身につきますね」。最近では、自己主張が強すぎる子、まったく自分を出さない子の二極化の傾向にあり、どちらも集団行動ができず、学力にも影響が出てくるという。
「一緒に作業をしながら、こどもの思いを引き出してあげることです。『どうしたいの?』『どう思ったの?』とよく聞いてあげてください。逆に自己主張を強くするときは、その主張を抑え込むのではなく『お母さんの話も聞いて』と、ストップさせてあげることです。そうやって、自分の思いを伝えたり、人の話を聞ける姿勢を培っていくんです」。保護者と過ごす家での関係性が「聞く・話す・読む・書く」という学習の基盤をつくっている。そう考えると、保護者がこどもの学力を支えるためにできることは、決して難しいことではなく、日常生活の中に溢れているのだ。
論理的に考えられない人は、論理的に文章を読むことができないと白石先生は言う。
暗記や感性に頼らない、方法や原理・原則を教えて
白石先生の教室に入ると、黒板の上に張り出された短冊が目に飛び込んでくる。「はてな?」「なるほど!」「そうか」「でもね」「ええと...」「しかし」「たとえばさ」「つまり」「やっぱり」「わかった!」という10個の短冊。
これは、誰かが話をしているとき、ひとりひとりが頭の中で、これらを考えながら聞こう!という、いわば"話を聞く方法"を示したもの。「何でも方法があるんです。その方法を教えてあげれば、どんな子だって努力すればできるようになるんですよ」。たとえば国語では、感性や感覚ばかりが重視され、物語の読み方や日記の書き方などの方法は教わらないことが多い。だが、国語にも算数と同じように方法や原理・原則が存在するから、そこを教えれば、誰でも同じように学力を伸ばすことができるというのだ。
「残念ながら、小学校の国語教育で方法や原理・原則を教えている学校は少ない。でも、家庭で少しでも保護者が教えてあげることで、こどもは本当に伸びていきます」。具体的にいうと、たとえば、ひらがなの練習。「あ」の文字の中でうまく書けない部分だけを抜き出して、そこだけの練習をさせてみる。部分が上達すると、一気に字がきれいに書けるようになるなど、簡単な法則を保護者が理解して、サポートしてあげることはできそうだ。
国語は理論的思考の基礎を育む教科
「国語は『聞く・話す・読む・書く』ができるようになるだけでなく、理論的に物事を考える基礎にもなるんです。入学前から低学年の間は、とくに重点を置いてあげてください」。読書感想文の書き方ひとつをとっても「自分はどう思ったか?」「どうして?」「どんな場面で?」「だから自分はこう考えた」と、書く方法がわかると、それが様々な教科、大人になってからも応用が効く、論理的な思考に結びつくことが想像できる。会議での発言を聞くときも、要点はなんだろう、自分はどう考えるのかを考えながら聞くこと。逆に自分が発言するとき、レポートを仕上げるときも、論理的な文章が求められる場面は非常に多いはず。
「低学年の間に自然とこれができるようになると、本当にこどもたちは伸びていきます。本来は学校教育で行うべき部分なのですが、残念ながら、まだまだ国語教育は感性の授業が多いので、保護者がこどもをよく見てあげることも大切になってきますね」。自宅で国語の授業までは行えないかもしれない。でも、親が宿題の答えあわせをしてあげる。間違えた部分の練習を一緒にしてあげる。上手に書けない文字の練習を見てあげる。話を中断せずに、こどもの話を最後までよく聞いてあげる。日常生活の中には、いっぱいのできることが散らばっているはず。「才能とか能力ではなく、努力すればできるようにするには"用語・方法・原理・原則"を教えてあげることです。自宅では、その基盤となる努力できる能力、丁寧さや集中力を身につけることを重点的に行うことが大切です」。
白石先生のクラスでは、アサガオの観察日記ひとつをとっても、"日記を書く方法"が身につくような教材をつくられている。『今日の観察ポイントは?』『どんなふうに見えますか?』『どんな変化があった?』など、順を追って、短い文で書きだしていく。書きだした文をただ繋げるだけで、絵日記になるような仕掛けだ。「観察するポイントを絞る、順をおって観察していく思考の順番がわかっていきます。それができるだけでも、驚くほどいい日記ができ上がるんですよ」。
アサガオの観察日記でも考えること、書いて伝えることを学ぶ。思考が整理できるしかけがいっぱい。

白石範孝

筑波大学附属小学校教諭、国語科担当。明星大学非常勤講師。使える授業ベーシック研究会会長。全国国語授業研究会理事。学校図書国語教科書編集委員。『秘伝 白石範考の国語教材研究ノート』(学事出版)『読解力がつく白石流「要点・要約・用紙」の授業』(学事出版)『学力を向上させる授業 他へ転移できる力としての学力』(東洋館出版社)『「話す力・聞く力」をのばす ことばあそび6巻』(学研)など著書多数。

文/坂本真理 撮影/石河正武