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ym-01が照らす、木製家具のこれから。

3社のコラボレーションだからこそできた
眺めても、座っても、触っても心地よい家具。

国産ヒノキを主役に、アイコニックでサステナブルな家具をーー。
yuimoriのファーストシリーズとなったym-01の製作を通して、
いまだかつてない家具づくりに取り組んだ
コクヨの河村美紀さん、デザイナーの芦沢啓治さん、
天童木工の加藤朋哉さんが、その裏側を振り返ります。
彼らの語らいからは、国産材による木製家具作りの行く末も見えてきました。

―― ym-01の製作を進めるにあたり、コクヨ、芦沢啓治さん、天童木工さんの3社での協業がスタートした経緯を教えてください。
河村:コクヨとしては、2006年から続けている「結の森」プロジェクト(※1)という森林保全活動の中で発生する間伐材(※2)を、ものづくりに活用していきたいという思いを持っていました。ただ、その多くを占めるヒノキなどの針葉樹は、特有の柔らかさゆえに強度を保つこととデザイン性を高めることの両立が難しく、家具として商品化するにあたっては困難が多かったんです。ならば、外部の知見もお借りして一緒に取り組むことで、今度こそ国産木材、特にヒノキを活用することを軸に、“欲しくなるデザイン”と“オフィスで長く使える品質”を実現したいと。そこで、デザイナーとしては石巻工房(※3)の活動を興味深く拝見していた芦沢さんに、そして以前から成形合板(※4)の技術をリスペクトしていた天童木工さんにお声がけをしたのが始まりです。
加藤:チャレンジングなプロジェクトに声をかけていただけたことは光栄でしたね。そして、木の魅力を最大限活かしたプロダクトデザインにかねて共感していた芦沢さんと仕事ができることは、個人的にもすごく嬉しかったです。
芦沢:天童木工さんは、デザイナーや建築家とうまく付き合ってきた国内でも稀有な木工家具メーカーの一つ。アイコニックな家具をいくつも生み出しています。また僕自身、建築を軸に仕事をしている以上、家具作りにおいても常々“空間の中に置かれること”を意識しています。その中で、丹下健三しかり、吉村順三しかり、名だたる建築家たちとのプロジェクトを数多く経験され、“空間”を見据えた家具製作への感覚を持つ天童木工さんと仕事ができることは、建築家冥利に尽きるような思いがしましたね。
加藤:ありがとうございます。嬉しいです。

  1. ※1 「結の森」プロジェクト
    コクヨが2006年から高知県四万十町でスタートさせたもの。当初は100haからスタートし、現在は5,425haの範囲をカバー。CO2吸収量は累計72,089tに及ぶ。(2022年7月時点)
  2. ※2 間伐材
    育てようとする樹木同士の競争を軽減したり、混み具合に応じて一部伐採(=間伐)した樹木のこと。間伐によって山に光が入り下草が生えるため、保水力が向上。災害防止にも繋がる。
  3. ※3 石巻工房
    東日本大震災の直後に芦沢さんの発案でスタートした、宮城県石巻市沿岸部の商店街で誕生した市民向け工房を原点とする家具メーカー。地元の人たちとのワークショップを通して作られたスツールやベンチなどをきっかけに、国内外の名だたるデザイナーがデザインした木工家具を数多く発表している。
  4. ※4 成形合板
    薄くスライスした単板と呼ばれる木材に接着剤を塗布し複数枚重ね合わせ、熱と圧力を加えながら曲げていく木工技術のこと。天童木工は日本でいち早くこの技術を家具製造に実用化し、量産体制を整えた。

―― ym-01の核となるラウンジチェアーは、背面と座面が一体となり、大きくしなったフォルムが特徴的です。繊細な曲げ加工を可能とする成形合板の技術が最大限活かされたこのデザインは、どのように検討されたのでしょうか?
芦沢:まずは、オフィス空間にフィットするラウンジチェアーを作りたいというコクヨさんからのオーダーと、天童木工さんの持つ成形合板の技術を起点に考えていきました。ただ技術を活かすといっても、ブルーノ・マットソンのハイバックチェア(※5)のような安楽性を追求したものとも違う。オフィスに置いた時に空間が締まるような、洗練されていてシンボリックなものを目指す必要がありました。と同時に、yuimoriのファーストシリーズとしては、木が主役になることも重要。全身をヒノキに包まれるようなプロダクトにしたいなと。その結果導き出したのが、背面と座面が一体となり、しなやかに湾曲するデザインでした。
河村:芦沢さんのラフデザインをもとに、天童木工さんの工場で試作を繰り返していくという流れでしたね。

  1. ※5 ブルーノ・マットソンのハイバックチェア(M-0562)
    スウェーデンの建築家、ブルーノ・マットソンが、天童木工と協業し、日本人の生活様式に合うようデザインしたイージーチェア。1976年の発表以降、長きにわたって愛されている。

加藤:最初に拝見して、率直に言えば難しそうだなと感じました。でも同時に、不可能ではなさそうだなとも。同じように背面と座面が一体になった柳宗理さんのシェルチェア(※6)を製造していますので、まずはやってみようと。ただ今回は、長径が140cm以上あるシェル(座面と背面が一体になったもの)を曲げていく必要があったので、大きさに苦戦しましたね。
芦沢:工場に行った時、機械の前に何人もの職人さんが集まり試行錯誤する様子を見て、そんなに難しいんだ……と驚きました。大きくしすぎたかなと、少々反省したことを覚えています(苦笑)。
加藤:あれだけ大きいものを曲げるとなると、熱や圧力のかけ方によっては割れてしまったり、ヨレてしまったりすることもあって。
芦沢:ボタン一つで仕上がる工業製品ではなく、知恵と経験の集積の上に出来上がっているものなんですよね。すごく勉強になりました。とはいえ、加工するのが難しいものを何が何でもそのまま形にしてくれというばかりでなく、改善案を考えるのもプロダクトデザインの基本姿勢。背面と座面の間の穴の大きさや形状などは、天童木工さんの意見を踏まえてブラッシュアップしていきました。
加藤:今回は私たちから、ポジティブな提案もいくつかさせていただきましたね。例えば、座面下の脚が十字に交わる部分も、相談した箇所です。試作品の段階で、交差部分に段差が生じているところが気になって。見た目はもちろん、触っても心地よい家具を目指すのは、天童木工が以前から大切にしていることの一つ。

  1. ※6 柳宗理さんのシェルチェア(T-3036)
    20世紀を代表するデザイナー、柳宗理が1998年に発表したダイニングチェア。1枚の成形合板から作られた有機的なフォルムには、天童木工の技術力が結集している。

弊社の設計部門に改善できそうなカーブの形状を検討してもらいました。
その上で芦沢さんに、次の試作で調整させてもらえないかとご相談して。
芦沢:より良くするためのアドバイスが出てくること自体がありがたかったです。まさにこれこそ、メーカーの力ですよね。
加藤:仕上がりを気に入っていただけたのはもちろん、何より嬉しかったのはこちらの提案をしっかり受け止めていただけたこと。もちろん苦労もありましたが、ものづくりの楽しさも感じられました。
芦沢:僕はデザイナーの中でも特に、家具やプロダクトに携わることができるのは幸せだなと思っていて。というのも、建築やグラフィックのデザインと異なり、チームで並走しながら、改良を重ねつつ長期でもの作りができる。その醍醐味を改めて感じられました。

自然の素材ゆえの見た目のばらつきを、いかにして扱うか。

河村:そして今回、デザイン性と合わせて重要になったのが、サステナビリティへの視点でした。
プロジェクトの起点が森林保全活動であることもあり、木材活用以外の視点でも環境への負荷軽減へチャレンジしたいなと。
加藤:苦労したのが、極力金属を使わず、木だけで成立させたいというオーダーでした。ビスを使わずに脚を取り付けて強度を担保する方法は、社内でもかなり頭を悩ませた部分ですね。
河村:長く使ってもらえるのが一番ですが、やむを得ず手放す場合でも、環境に配慮してできる限り素材ごとに分解できる状態を目指していたので、素材もできるだけ単一にしたいなと。でももちろん、すぐに壊れてしまってもダメ。一見相反するような難しいオーダーになってしまったのですが、ギリギリまで粘って尽力してくださいました。
加藤:最終的には、どうしても強度がもたないところのみの最小限の使用に留めました。ゼロにはできませんでしたが、これまで多くの場合はビスを使いつつ、埋木などをして外から見えないように隠す方法をとっていたので、私たちにとっても新しい挑戦をするいいきっかけになりましたね。

河村:ほかにも、表面に節をどの程度残せるか?というのも議論を重ねた点ですよね。従来のオフィス家具では、見た目のばらつきが出てしまったり、表面がざらついて洋服を引っ掛けてしまったりなどの安全性への観点から、排除してしまいがちでした。ただ、そうすると木材を捨てる量が増えてしまう。今回は木材をできる限り無駄にせず活用したかったんです。
加藤:直接見た目に影響する部分なので、従来は節をはじく判断が一般的だったんです。でもサステナビリティの観点に立てば、資源を無駄にしないことが先決。できる限り残そうとの判断になりました。ざらつきに関しては塗装で補うことができたのですが、見た目のバランスは現場での判断に委ねるしかない部分があって。試作を重ねながら、適切な入り具合をみんなで確認しました。

河村:これまでのオフィス家具では、品質の一側面として見た目の安定性が重視されてきていて。もちろん、今もその観点は大事。ですが今回、サステナビリティを追求する中で、節の入り方が一つひとつ異なる状態であるということをプロモーションツールを通じてお客様にもきちんとお伝えし、販売することを実現できたのは、コクヨのものづくりの歴史においても画期的な取り組みになりましたね。
芦沢:農家がいびつな野菜を排除してきたように、家具メーカーが均一な見た目を追求してきたのはある種、クレームへのリスクヘッジだったわけですが、環境にさまざまな歪みが生まれている今、生活者側が賢くならなければいけない局面を迎えているのかなとも思いますね。消費において何を重視すべきなのか、全体最適で見通すことができる人が増えていってほしいですし、そのためにyuimoriのような先進的なプロダクトが、少しでも社会的な機運を高めていくきっかけを提供できればとも思います。
河村:そうですね。一つひとつ状態が微妙に違うことも、製品の味であり、魅力として楽しんでもらえればと思っています。

馴染みのある国産材を使った家具が、“当たり前”になる環境へ。

―― ym-01の製作を経て、国産材を使って家具を作ることに対する意識の変化はありましたか?
芦沢:改めて感じたのは、国産材の活用をもっと当たり前にしないといけないなということです。日本は国土の3分の2を森林が占めていて、森林と上手に関わりながら生きてきた歴史がありますよね。にも関わらず、その関係性が途切れてしまって、今では森の恩恵を受けられない。それは不自然なことだと思うんです。ヒノキもスギも私たちにとって馴染み深い木なのだから、建築や家具作りに生かすのは自然なこと。元来当たり前だった人と自然との関係性をいかに取り戻していくか、あらためて考えるきっかけにもなりました。
河村:本当にそうですよね。木製のオフィス家具の納入も増えていますが、その多くが外国産のオークやウォールナット。ヒノキやスギのような国産材が、オフィスの中にもごく当たり前にある状態を作っていきたいねと、コクヨの社内でもまさに今議論しています。

芦沢:もしかすると、“国産材”という表現自体が曖昧なのかもしれませんよね。食材と同じで、それぞれの産地が分かっていて、究極的には「あの裏山の木を使っています」ぐらい身近になると、使いたいと感じる生活者も増えていくんじゃないでしょうか。
河村:トレーサビリティを取っていくのは大事ですよね。yuimoriはまさに表面の突板に「結の森」のヒノキを使っていて、コクヨ製品の中での先駆けになっている。これからも少しずつでも増やしていければと思っています。

加藤:先駆けという意味では、ym-01には結果的に、間伐材を使っていること、オールメイドインジャパンであること、サステナブルであること……、いろんな先進的な特色を盛り込むことができました。それはすなわち、導入に向けたいろんなフックがあるということ。だからこそ、手に取るきっかけも多様になるといいなと。
芦沢:そうですね。そしてその背景を知ってもらうためにはまず、シンプルにものとしての魅力を伝えたいなとも。そのためには、建築家の目線で言えば、ym-01がどんな空間にフィットするのか、具体的なイメージをたくさん見せられるといいなと考えています。
河村:まさに。いろんな事例を通していろんな人の目に触れる機会を増やしていきたいですね。
加藤:デザインに惹かれて何気なく座った人が興味を持って、調べてみたら背景に様々なストーリーがあると知っていく。そんなプロセスを踏んでもらえたらいいですよね。それが最終的には、家具選びだけでなく、不揃いの野菜を手に取ったり、スーパーで賞味期限が近い牛乳から手に取ったりするような、広い客観性を持った生活スタイルにも影響を及ぼしていけばいいなと思っています。

プロフィール

河村美紀コクヨ マーケティングチームリーダー
2003年コクヨ入社。マーケティング戦略部に所属し、上質な空間をつくるハイレンジな自社製品や海外ブランドなどのマーケティングを担当。
芦沢啓治デザイナー
2005年芦沢啓治建築設計事務所設立。「正直なデザイン/Honest Design」を心掛け、建築からプロダクト、
家具のデザインまで幅広く活動を展開。2011年東日本大震災時の市民の復旧をきっかけに、石巻工房を設立。
加藤朋哉天童木工 営業
2011年天童木工入社。ホームユース案件の担当部署を経て、2018年よりコントラクト案件の営業部に所属。案件の獲得から製品の開発・製作・納品管理まで行う。