仕事のプロ

2022.03.15

2022年4月全面施行の「パワハラ防止法」、何が義務化される?

「パワハラ」を未然に防ぐため、企業が講じるべき措置とは?

2020年6月に先行して大企業を対象として施行された「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」が、2022年4月からは中小企業も含めて全面施行され、パワハラ対策が義務化される。テレワークの普及によってパワハラの実態が見えにくくなったり、コミュニケーションの変化による新たなハラスメントも発生しつつあるなか、企業は対策として何を講じるべきなのか。パワハラの定義や指導との違い、企業が取るべき対応などについて、解説する。

パワーハラスメントとは

パワーハラスメント(以下「パワハラ」と表記)とは主に社会的な地位の強い者による、自らの権力や立場を利用した嫌がらせのことをいいますが、ここでは職場でのパワーハラスメントを対象として詳しく見ていきます。

職場のパワーハラスメントとは

職場での立場や人間関係などの優位性を利用して、他者に肉体的・精神的な苦痛を与えることをいいます。
上司から部下に対する言動に限らず、先輩やある特定の技術能力が高い人、周囲の協力を得なければ業務を円滑に遂行できない場合は同僚や部下なども「優位的な立場にある社員」となります。
人手不足によるストレス過多や労働環境の変化などにより、パワハラは増加傾向にあり、社会問題となっています。


パワハラと指導の違い

パワハラと指導の違いを、その「目的」「業務上の必要性」「結果」の観点で比較してみましょう。
指導は相手の成長を促したり、業務状況の改善を促す目的で、業務上必要性が明確な指示やフィードバックを行う行為であり、その結果相手が職責を果たせたり、業務状況が改善することをめざして行います。
一方、パワハラの場合は、相手をバカにしたり自分の思い通りにすることを目的とし、人格の否定など業務の適正な範囲を超えて威圧的な態度や否定的言動を取ったり、技能に合わない過剰な量や内容の業務を指示し、結果として相手の心身を傷つけたり、職場環境の悪化や退職につながる行為を示します。

つまり、相手の立場や状況を無視した業務上関係のない言動は「パワハラ」であり、業務遂行上の必要性があり、明確な目的や理由を持って相手のために行う関わりは「指導」だといえます。たとえ、本人は指導のつもりでも、受け手側がパワハラと感じる場合もあるので注意が必要です。




パワハラの現状

「パワハラ防止法」が2020年に大企業を対象として先行施行されましたが、依然としていじめや嫌がらせの抑止には至っていません。厚生労働省の労働局に寄せられた「いじめ・嫌がらせ」に関する令和2年度の相談件数は79,190件で、これは「パワハラ防止法」違反の疑いのある相談は別項目に計上されているため大企業の職場におけるパワハラ相談件数18,363件を含まない数字であり、あわせると過去ワーストの数字です。

また、厚生労働省でのパワハラ実態調査では、3人に1人が過去3年間にパワハラを受けたと回答しており、内容として最も多かったのは「精神的な攻撃」(49.4%)、次いで「過大な要求」(33.3%)という結果でした。
最近ではテレワークの増加にともなうコミュニケーション不足、メールやチャットなどでの双方の想いが伝わりづらい、相手の感情や反応を汲み取りにくい、対面なら抑えられていたつい余計なコメントをついしてしまうなど、無自覚にパワハラを行ってしまう危険性も高まっています。ニュアンスの読み違いも発生しやすいテレワーク時代には、より一層パワハラへの高い意識が求められます。

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介護・育児に対するハラスメントの現状

2_bus_116_04.pngコクヨが行った調査(2021年6月実施)で、育児ハラスメントを受けたことがあると回答したワーカーは13.5%、見たことがあるという回答を加えると約3割(32.9%)が職場での育児ハラスメントを目の当たりにしているという実態がある。

一方、介護に関するハラスメント経験者は9.4%であり、周りの人が受けているのを見たことがある人(14.8%)を加えると2割(24.2%)を越えて職場でハラスメントが起こっていることが見えてきた。

厚生労働省委託事業「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、育児ハラスメントに該当する具体的内容としては、「上司・同僚の制度の請求・利用時に阻害する言動」「嫌がらせ言動、業務に従事させない・もっぱら雑務に従事いった継続的嫌がらせ」が上位となっており、制度があっても利用しづらい、といった組織文化がハラスメントの一因となっていることが見えてきた。また介護については、介護休業・休暇がハラスメントの要因とした割合が約半数であり、育児と同様「制度の請求や利用時の言動」に問題があることが多いといわれている。




パワハラを放置するリスク

職場にパワハラが発生しているにもかかわらず放置したり、黙認したりすることは企業にとって大きなリスクになります。

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職場の雰囲気が悪化

パワハラに対して必要な対策を講じずに放置すると、職場の雰囲気は悪くなり、加害者と被害者といった当事者だけでなく、職場全体で居心地が悪く感じられるようになります。自分がもしパワハラを受けても会社は何もしてくれないと感じてしまうとエンゲージメントも低下し、人材の流出にもつながります。


生産性の低下

パワハラのある職場では健全なコミュニケーションが行われず、ストレスや集中力の低下、欠勤、働く意欲の低下などを引き起こします。コミュニケーション不足とモチベーションの低下は生産性の低下に直結します。


人材の維持・確保が難しくなる

パワハラによる体調不良やメンタル不調で欠勤や休職などが増加すると、当然人材不足に陥ります。そうなるとパワハラ被害者に限らず、引く手あまたの優秀な人材が働きやすい環境を求めて退職するなど、離職率の増加につながるリスクも。また、パワハラが横行する企業として口コミが広がってしまうと、人材の確保も難しくなります。社内外から働きたくない環境だと思われてしまうことは、事業の維持すら危ぶまれる状況を引き起こしてしまうかもしれません。


損害賠償問題

パワハラを認識しながら企業が放置や黙認した場合、企業責任を問われる場合もあります。企業は従業員に対して「職場環境配慮義務」があります。パワハラがある場合は是正する義務があるにも関わらず放置していると、最悪の場合損害賠償を請求されたり、問題が公になって企業イベージがダウンすることにも。




パワハラ防止法の概要

増加の一途をたどる職場におけるいじめや嫌がらせを防止するため「労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」が成立し、2020年6月1日から施行されました。中小企業も2022年4月1日から義務化されます。
企業に対するパワハラ防止方針の明確化や相談体制の整備、パワハラに関する労使紛争を速やかに解決する体制を整える義務などが盛り込まれています。パワハラ防止法に罰則規定はありませんが、場合により厚生労働省から指導や勧告を受ける可能性があり、勧告に対して適切な対応を取らなければ社名と共にその事実を公表される場合も。

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パワハラを定義する3つの要素

厚生労働省では職場のパワハラの概念として、次の3つの要素いずれも満たす場合と規定しています。

1.職場における優越的な関係を背景として行われること
2.業務の適正な範囲を超えて行われること
3.労働者の就業環境を害すること


つまり、職位や職能が高い人が、その地位や力関係を利用して、同じ職場で働く相手に対し、業務の範囲を逸脱した行為により身体的、肉体的苦痛を与えて働く環境を害されることをいいます。



パワハラに当たる6つの行為

具体的なパワハラに該当しうる行為には、厚生労働省が提示している6つの行為類型があります。すべて「優越的な関係に基づいて行なわれた行為」であることが前提となっています。何がパワハラに該当するのかを判断する基準にもなります。

1.身体的な攻撃

相手を殴る、蹴る、物を投げつける、胸ぐらをつかむ、大声で怒鳴りつけるなど、身体的な攻撃をする行為です。相手がけがをした場合や心身に不調をきたした場合は傷害罪に該当する場合もありますが、故意ではなくけがをさせてしまった場合はパワハラに該当しないケースもあります。


2.精神的な攻撃

長時間にわたって相手を執拗に叱責する、人格を否定する、人前でなじったり侮辱する、「馬鹿」「死ね」「辞めてしまえ」と言うなどの場合が該当します。大勢を宛先に含めたメールの中で罵倒したり、解雇を匂わせる文言を入れるなどもパワハラに該当します。


3.人間関係の切り離し

一人だけ別室に隔離して仕事をさせる、ミーティングや職場イベントの日程を故意に教えない、または出席を認めない、あいさつをされても無視するなど、本人の意に添わない形で同僚や上司との接点を意図的に切り離すことをいいます。


4.過大な要求

本人の能力を考慮せずに高度なスキルや熟練でなければできない仕事を強制する、適切な指導をせずに業務を丸投げする、物理的に不可能な業務量を押しつける、不要な残業や休日出勤を強制するなどは課題な要求と見なされ、パワハラになります。また、自宅の引っ越しの手伝いなど私的な雑用を強要することも過大な要求といえます。


5.過小な要求

合理性なく本人の能力や職能を極端に下回るような仕事しか与えない、あるいは担当職域に関連した仕事を全く与えないことなどもパワハラといえます。例えば専門職の社員に雑用やお茶くみしかやらせない、特定の社員に能力が低いから、気に入らないからなどの理由で仕事をまったく与えないなどが該当します。


6.個の侵害

部下が嫌がっているのに執拗に恋愛や結婚生活、休日の過ごし方などについて尋ねたり、セクシャリティや宗教などの個人情報を周囲に吹聴する、プライベートでの付き合いを強要するなどの行為は、プライバシーの侵害としてパワハラになり得ます。業務上の配慮をするために家族の状況を質問する、長期休暇前に海外渡航の予定を確認するなど、業務管理上必要な情報を聞くことは該当しません。




企業が取り組むべきパワハラ防止対策

パワハラ防止法には、企業が講ずべき措置として次の4項目が明示されており、すべて義務となっています。罰則規定はありませんが、場合によっては勧告や指導の対象となります。

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1.事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

組織のトップが、職場のパワーハラスメントは職場からなくすべきであることを明確に示す。就業規則等でパワーハラスメントの禁止や処分に関する規定を設ける。


2.相談に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備

相談窓口をあらかじめ定め、全労働者にもれなく周知する。相談窓口担当者が相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにする。


3.事後の迅速かつ適切な対応

相談後、パワハラに関する事実関係を迅速かつ正確に確認し、事実確認ができた場合すみやかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行い、再発防止対策を講じる。事実確認ができなかった場合でも、再発防止対策と同様の措置を講じる。


4.プライバシー保護、パワハラの相談を理由とする不利益取り扱いの禁止

相談者・行為者等のプライバシー保護のための措置を講じ、その旨を労働者に周知する。 相談したこと等を理由として、解雇その他不利益な扱いをされない旨を定め、労働者に周知する。



具体的なパワハラ防止策

この4つを受けて、具体的にどのようにパワハラ防止に対応していけばいいのでしょうか。

従業員への意識の浸透

「事業主の方針等の明確化及び周知・啓発」は企業の義務となりました。パワハラは許されない行為であることを改めて経営トップから従業員に向けて発信し、自社の対応方針や加害者への処遇、パワハラに該当する行為があった場合の相談ルートなどを周知することが大切です。また、どのような行為がパワハラにあたるのかなどに対する従業員の理解を深め、本人の自覚なくパワハラをしてしまうことを未然に防ぐことも必要となります。


管理職への研修の実施

特に管理職など上位職の立場の人は優越的な関係になりやすいため、指導とパワハラの線引きをきちんと理解しておくことが大切です。研修の実施など学習の機会を提供することで、予防への意識の高まりが期待できます。


就業規則へ盛り込む

就業規則内にハラスメントに対する自社の方針や講ずる措置などを明文化しておくこともパワハラの抑制に効果的です。パワハラ防止法には罰則がないため、社内規定で解雇等の対応方針が明文化されていれば、行為者に対する対応方針も決めやすくなります。


相談窓口の設置

パワハラについて従業員が相談できる体制を整備することが義務化されました。早期に対応すると同時に、相談者に不利益が生じないようにプライバシーを守るための措置を講じることも必要です。また、社内または弁護士や社労士などの社外の専門家にも相談できるとより安心です。


ストレスチェックの実施

労働安全衛生法で義務化されているストレスチェックの実施も、パワハラ防止に活かすことが出来ます。自分のストレスの状況を知ることで、潜在的なパワハラ被害による精神的ダメージを受けていたことを認識したり、ストレス過多により無意識に部下に攻撃的になるなどのパワハラを引き起こしてしまう前に会社に業務調整などの対応を取ってもらうなど、パワハラを未然に防ぐことにもつながります。

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まとめ

2022年4月から、中小企業でもパワハラ防止法が義務化され、対策の明確化や相談体制の整備、パワハラがあった場合の適切な対応や再発防止などがより厳しく求められるようになります。
パワハラは組織全体に悪影響を及ぼします。年代によっては体育会系の厳しい指導が当たり前だったと武勇伝のように語られることもありますが、今は法規制の対象となることを理解し、出来る限り未然に防ぐために働きかけ、体制を整えることが組織の生産性やエンゲージメントの向上に欠かせません。
パワハラ防止法の全面施行に間に合うよう、職場にパワハラの芽が潜んでいないか、パワハラと指導の違いを理解できているか、相談や対応への体制は万全かなど、今いちど点検して準備をしておきましょう。


作成/MANA-Biz編集部