仕事のプロ

2021.10.08

アイデアの質を見極める4つの観点「適応の思考」

ビジネスで実践!「進化思考」で創造性を発揮する③

人が創造性を発揮する仕組みを、「変異」と「適応」を繰り返す生物の進化の仕組みと重ねて紐解く「進化思考」。第1回・第2回では「進化思考」の根幹とアイデアを量産する発想法を解説した。第3回では良いアイデアを見極めるための実践法「適応の思考」を紹介する。「進化思考」の提唱者であるデザイナーの太刀川英輔氏に引き続き解説していただいた。

進化思考でアイデアの質を見極める「適応の思考」

まずは「進化思考」について、簡単におさらいしておきましょう。

〈進化思考〉
生物の進化と同じく、変異(エラー)と適応(選択)を繰り返すことで、誰もが創造性を発揮できるようになる思考法。「変異の思考」と「適応の思考」の2つがあり、それを往還・統合することで創造性を発揮できる。

変異の思考:偶発的なアイデアを大量に生み出す発想手法=どのように変化できるのか(HOW)
適応の思考:適応状況を理解する生物学的なリサーチ手法=なぜ、そうあるべきなのか(WHY)

前回は、「変異の思考」において、バカになって先入観をとっぱらい、あらゆるアイデアを不発覚悟で出しまくることで偶発性を高めることが重要であることを紹介しました。今回のテーマである「適応の思考」では、出しまくったアイデアを、それが置かれた状況に適応するかどうか精査する方法について解説します。




4つの軸で世の中を観察する「時空観学習」とは?

自分が出したアイデアがうまくいかないと、傷つき、創造自体を諦めてしまいがちです。このような考えに陥ってしまうのは観察の眼を養えていないことが原因です。観察眼とは、うまくいくアイデアを選び取るために必要な、世の中のつながりを理解する能力です。
どんなに優れたアイデアでも、その領域で必要とされていなければ採用してもらえませんし、莫大なコストがかかれば実用化してもらえません。

観察眼が鍛えられていれば、別の領域でならニーズがあるかもしれないし、パーツをコストの低い代用品に交換できれば実用化も可能かもしれないと気づくことができます。
「適応の思考」とは、過去から未来に続く「時間軸」と、内と外という「空間軸」を通してそうした関係性の全体像を確かめる手段のことです。

「進化思考」のベースにある考え方は、モノも生物と同じように、状況に適応することで価値を発揮し、生き残ることができる。つまり、モノも自然選択されていて、つねに適応できるかどうかという圧力にさらされ淘汰されているのです。
そのため、創造は本当にその状況にふさわしいものを追い求めると、必然に近づき、クオリティが磨かれていきます。

本連載の第1回で、「意思をもって変異と適応の思考創造に向かうことはできるが、それらが組み合わさった結果として生み出された発想は必ずしも意図的なものではない」と述べたとおり、アイデアが生き残るかどうかは私たちの意思や意図を超えたところで起きています。

「その状況にふさわしいアイデアかどうか」を判断するために、「進化思考」では動物の行動を理解するための観察手法を参考にして、「解剖」「系統」「生態」「予測」という4つの観点で世の中を観察します。この4つの観点で世界を観ることを「時空間学習」と呼んでいます。

〈時空間〉
解剖(内部):内部の構造や秘められた機能を理解することで、モノがすでに備えている可能性を発見する。
系統(過去):そのモノがどんな経緯をたどり、過去からどんな影響を受けたのかを探る。
生態(外部):周囲との関係性を探り、マクロなシステムとしての構造を発見する。
予測(未来):データから導き出すフォアキャストと、未来にゴールを設定するバックキャストによって、未来を現実に近づける。


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出典:書籍『進化思考』より時空観マップ



この4つの観点で観察することは、創造性の鍛錬になるだけでなく、状況を正しく捉えるメタ認知力の育成にも役立ちます。
また、事業の本質を把握することにも役立ちます。例えば、既存の技術開発の手法と4つの観点を比較すると、足りないものが見えてきます。

イノベーションやR&Dに用いるリサーチ手法には「解剖(内部)」と「系統(過去)」を中心としたアプローチが多く、「生態(外部)」と「予測(未来)」の観点での分析は軽視されがちでした。解剖と系統が20世紀的な適応の分析手法であったとすれば、人や自然との繋がりを取り戻す生態的観点、未来のために創造する予測的観点によって、創造性はまだまだ高められる可能性があるのです。

ここからは、4つの観点について解説していきます。いずれも入門的な解説になりますので、興味をもった方はぜひ『進化思考』をお読みいただければと思います。各観点にはワークがついています。これはたくさんの情報や繋がりを理解するための訓練です。進化させたいもの「X」を決めて実際にやってみてください。



1.解剖

2_bus_108_01.jpg 「解剖」は、内部の構造を徹底的に観察し、細部への理解を深めるための観察手法です。 形態学的に内部にあるものを分類して形態を観察する(WHAT)、生理学的に各部位が何のためにあるのかを理解する(WHY)、発生学的に要素をどのように生産するのかを理解する(HOW)の3つに分類でき、これらのプロセスを通して「モノがすでに備えている可能性」を発見します。
モノであれ難題であれ、パーツ一つひとつへの深い理解が、全体像を解き明かすことに繋がるのです。

例えば、「椅子」を形態学的に解剖すると、大きくは背、座、足に分けられ、背は背板とネジというようにさらに細かく分解できます。そして、各パーツが何のためにあるのか、どのような機能を果たしているのかを理解するのが、生理学的な解剖です。さらに、各パーツがどのように作られるかを理解するのが発生学的な解剖です。
こうしてバラして観察してみると、今座っている椅子の捉え方も変わってくるはずです。


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出典:書籍『進化思考』より解剖マップ 中にこめられたモノの種類と形を探究する



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出典:書籍『進化思考』より解剖生理学マップ モノに込められた内部のパーツの意味を読み解いていく



デザインを解剖すると優れたデザインは、関係と形が一致するか、すなわち最小の形態により美しい関係を生み出しているかという張力、徹底的に無駄がないかという最適化、効率的に実現できているかという生産性という3つのプロセスを経ていることがわかります。

さらに、各パーツを他のモノと取り替えたり(変異パターン6「交換」)、他のモノに応用させたり(変異パターン5「転移」)する可能性について考えることはアイデアを良くすることに役立ちます。
内部構造の中には、まだまだ改善の余地のある技術のフロンティアが眠っているのです。

〈ワーク〉
STEP1: 椅子の例のように、あなたが進化させたいXについて、解剖マップを描いてみましょう。
STEP2 :解剖マップで分類された各要素の目的(機能)を書き出し、他要素との関係性を矢印でつないでみましょう。
STEP3 :各要素を作るプロセスを想像し、順序を書き出してみましょう。
STEP4 :各要素の形や機能、生産プロセスに着目し、それらをより効率的に改善する方法を探ってみましょう。また、それらの新しい用途や他のモノへの転用の可能性も考えてみましょう。




2.系統

「系統」は、過去からの影響や文脈を観るための観察手法です。
2_bus_108_04.jpg 人の創造はつねに過去からの流れのうえに成り立ちます。例えば、ライト兄弟はリリエンタールが製作したグライダーをもとに飛行機を生み出し、そのリリエンタールは鳥を参考にグライダーを設計しました。
新しいものを創造するためには、過去を受け継ぎながら、歴史を一歩ずつ更新する姿勢で向き合うことが必要なのです。

つまり、新たな創造をする時は、それがどのような経緯を辿ってどう進化を遂げてきたのか、過去から私たちがどのような影響を受けたのかを探ることが重要です。

系統的な思考では、まずは同じ領域のモノを集めて比較分類したうえで、系統学的に過去からの流れを理解する手法をとります。
例えば自動車であれば、バスや消防車といった自動車の種類や、電車やバイクといった乗り物の種類を書き出して分類し、それらを進化した順番に樹形図のように並べていきます。この「創造の進化図」を描いてみると、分岐の起点が見えてきます。

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出典:書籍『進化思考』より乗り物の系統樹模型


さらに、その分岐は何によってもたらされたのかを探っていくと、興味深い発見があるはずです。
例えば、電気自動車は、近年開発が進んで話題になっているために新しいモノのように思われがちですが、実は特許出願されたのは1835年にまで遡ります。当時は技術面が追いつかず、実用化はされませんでしたが、それがリチウムイオンバッテリーの技術開発や石油資源の枯渇、化石燃料による気候変動への国際的な注目などの要素が重なった結果、200年あまりの時を経た現在、EVシフトは、起こるべくして起こったのです。

2_bus_108_06.png 「変異の思考」で量産したアイデアを系統の観点に照らし合わせる際には、過去と同じような失敗を繰り返さず新たな価値を生み出しているか、受け継がれてきた本質的なニーズである不変の願いや欲求を叶えているかという点に着目しましょう。まさに、不易流行。
ビジネスにおけるあなたのその創造は、創業者の思い、創業時から続く企業理念を、引き継いだものでしょうか。私たちに課せられた使命は、過去に敬意を払い、人類の変わらぬ願いを引き受けつつ、創造を一歩進化させることなのです。

〈ワーク〉
STEP1 自動車の例のように、Xについて創造の進化図を描いてみましょう。正解はないので正確さより文脈の流れを意識してください。
STEP2 Xが進化図の過程で分岐を起こしながら受け継いできた不変の願いとは何か、想像して書き出してみましょう。




3.生態

「生態」は、外部との関係を理解するための観察手法です。私たちは自覚がないままに、さまざまな人やものとの関係のなかで生きています。
例えば、ペットボトルに入った外国の水が私たちの手元に届いてその水を飲む、そして私たちがペットボトルを捨てる。その間にも、採水、陸送、税関、海洋物流などさまざまな人やモノが関係しています。

2_bus_108_07.jpgその関係性を忘れて、人間が生態的観点を持たず、地球環境への配慮を欠いて、部分最適な創造を重ねていけば、私たちの文明は窮地に立たされるでしょう。これからの創造に求められるのは、登場人物に思いを馳せて、多様で複雑な繋がりや構造を俯瞰し、マクロなシステムとして理解することで、共生を目指すことなのです。

モノを取り巻く生態を理解するうえでは、次の2つの視点が重要になります。

生態系:人と自然との関係を理解する
「5W1H」で外部との繋がりを意識して生態系マップを描き、それぞれの登場人物(人やモノ)の存在意義を考え、それぞれがもつ思いや願いを想像する。

複雑系:繋がりの法則性を理解する
複雑に絡み合う関係を理解し、繋がっていない領域同士を繋ぎ、共生的なネットワークを生み出すにはどうすればいいかを考える。


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出典:書籍『進化思考』より椅子の生態系マップ例



「変異の思考」で量産したアイデアを次の観点に照らし合わせてみましょう。生物の生存における自然選択の要素を( )内にあげています。

・魅力で競争に勝てるか(性競争)
・持続可能な資源か(資源)
・簡単に破棄されないか(天敵)
・より早く進化できるか(赤の女王仮説)
・変化についていけるか(生態系の変化)
・敵にハックされないか(寄生)
・相手と一体感を生むか(共生)
・状況を活かし切れるか(ニッチ)
・目的を共有しているか(群れ)
・領域を超えてつながるか(越境)
・個への求心力をもつか(ハブ)

〈ワーク〉
STEP1 :図に示した椅子の例のように、Xにまつわる人やモノを書き出し、生態系マップを描いてみましょう。さらに、各登場人物の目的や願いも書き出しましょう。
STEP2: 同じ領域の競争相手や他領域でも同じ顧客を奪い合う関係にあるライバルを、生態系マップに書き加えましょう。
STEP3:生態系マップの人やモノの間に快または不快の関係性を矢印で書き加えましょう。
STEP4 :生態系マップを眺めて、関連性が薄そうな遠い存在同士を共生的なネットワークで繋げないかを考えてみましょう。




4.予測

「予測」は、未来を明確かつ希望あるものとして想像するための観察手法です。
予測には、過去のデータから導き出す「フォアキャスト」と、未来にゴールを設定して逆算的に予測する「バックキャスト」の2つの方法があります。創造においては、これらを意識的に使い分けることが大事です。

フォアキャストから浮かび上がる未来が憂鬱なものであっても、悲観的なシナリオから目をそむけてはいけません。望まない未来像を回避する使命感が生まれてこそ、創造力を発揮できるのです。どのようにして「悪い予測を回避するか」という視点を持って「変異の思考」で量産したアイデアをふるいにかけてみましょう。


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出典:書籍『進化思考』よりフォアキャスト 過去からの現在までの流れの延長にある未来を、解剖的・生態的にデータから観る



一方、バックキャストで描くのは、未来への願いや希望です。その願いや希望を実現するにはどうしたらいいかを考え、行動に移すことで、理想の未来を自分たちの方に引き寄せることができます。


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書籍『進化思考』よりバックキャスト ほしい未来のビジョンを描き、そのディテールを解剖的・生態的に細部まで想像する



バックキャストは、希望を具体的な物語として書くことで、現実に影響を及ぼします。未来に近づけるために、臆せず夢を語る力を持ちましょう。夢を語れる人だけが、そこに至る具体的なステップを思い描き、現実化するための一歩を踏み出せるのです。

〈ワーク〉
STEP1:未来の年号を「2XXX年」と設定し、画像検索などでデータを集めたら、そこから見える未来のシナリオを500〜1,000字程度で書きましょう(フォアキャストのシナリオ)
STEP2: 同様に未来の年号「2XXX年」と設定し、あなたが現在取り組んでいる活動が最大限に成功した未来を、できるだけ詳しく空想し、500〜1,000字程度で物語を書きましょう(バックキャストの物語)
STEP3 :フォアキャストで示された悪いシナリオについては、どうすればそれを回避できるのかを考え、書き出しましょう。また、バックキャストの物語については、どうすればこれを現実にできるかを考え、書き出しましょう。




進化も創造も、壮大なる結果論
挑戦すること自体に、価値がある

4つの観点から見えてくるのは、進化と創造を磨くさまざまな自然選択の要素です。適応的な理由と言い換えることもできます。
「変異の思考」で生まれたアイデアのなかで、このふるいを経て選び取られたモノは、必然的で最適化されたモノです。しかし、それは完成形ではありません。進化にゴールがないように創造にもゴールはありません。だからこそ、変異と適応の往復を繰り返し続けることが重要なのです。

ここで改めて、創造性の5原則を提示します。

変異:明確で非常識な挑戦を繰り返したか
解剖:シンプルで無駄がなく揺るぎないか
系統:過去からの願いを引き受けているか
生態:人や自然の間に美しい関係を築くか
予測:現在を触発し未来に希望を与えるか

「変異の思考」と「適応の思考」の往復を続けるほどに創造性は高まります。そのためにはかなりの練習が必要ですが、この原則を意識するだけでも、あなたが生み出すものは変わってくるはずです。
進化と同じく、創造は壮大なる結果論です。やってみなければ結果はわからないからこそ、挑戦すること自体に大きな価値があるのです。

変異と適応の往復により創造性を高めるというのは、個人だけの話ではなく、企業としてイノベーションを創出するうえでも重要です。
人の思考にはクセがあり、得意なことも苦手なこともあります。アイデアを思いつくのが得意な人もいれば、製品や業界の歴史に詳しい人、技術や構造にマニアックな人、分野横断的な教養や人脈をもつ人など、さまざまです。多様な特性を有する人が集まることで、創造性を高めることができるのです。

未来を少しでもマシにするためにも、創造性を諦めないでください。何度でも本質に立ち返って観察眼を養いつつ、バカになって挑戦を続けていきましょう。

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書籍紹介

『進化思考―生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』(海士の風)

6_rep_008_05.jpg進化思考―それは、生物の進化のように二つのプロセス(変異と適応)を繰り返すことで、本来だれの中にもある創造性を発揮する思考法。38億年にわたり変異と適応を繰り返してきた生物や自然を学ぶことで、創造性の本質を見出し、体系化したのが『進化思考』である。変異によって偶発的に無数のアイデアが生まれ、それらのアイデアが適応によって自律的に自然選択されていく。変異と適応を何度も往復することで、変化や淘汰に生き残るコンセプトが生まれる。https://amanokaze.jp/shinkashikou/


太刀川 英輔(Tachikawa Eisuke )

NOSIGNER代表・デザインストラテジスト・慶應義塾大学特別招聘准教授。社会的視点でのデザイン活動を続け、さまざまな社会課題に関わる多くのデザインプロジェクトを企業や行政との共創によって実現。プロダクトデザイン・グラフィックデザイン・建築・空間デザイン・発明の領域を越境するデザイナーとして、グッドデザイン賞金賞(日本)やアジアデザイン賞大賞(香港)など100以上の国際賞を受賞。デザインや発明の仕組みを生物の進化から学ぶ「進化思考」を提唱し、変革者を育成するデザイン教育者として社会を進化させる活動を続けている。

文/笹原風花