レポート

2020.01.17

オフィス移転で組織風土を変えた三菱マテリアルの挑戦

WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS vol.7

2019年11月22日(金)に開催した「WORKSTYLE INNOVATION PROJECTS」から、三菱マテリアル株式会社 廣川英樹氏と秀真里奈氏が登壇した「組織風土改革を実現した本社移転プロジェクト~部分最適や部門の縦割りなど、『従来の組織慣習』を越えて~」の様子をレポートする。本社移転を契機に、組織風土改革に挑んだ同社の取り組みにつて、コクヨのコンサルタント 古川 貴美子が話しを聞いた。

「枠をこえて つながるオフィス」を
実現するために

古川:1871年創業の三菱マテリアル様は、銅やセメントなどの基礎素材をはじめ、電子部品の製造・販売も手がける総合素材メーカーです。連結28,000人の従業員数のうち、今回のプロジェクト対象となったのは、本社勤務のおよそ700名。事務局メンバーとして中心的な役割を担われたのが、今回ご登壇いただく廣川様と秀様です。まずは廣川様から今回の移転プロジェクトの概要を教えていただけますか。

廣川:本社移転の検討を始めたきっかけは、オフィスの賃貸借契約の終了だったのですが、経営陣から「今回の移転を機に本社から組織風土を変えていきたい」という話があり、組織風土改革の一環として、本社移転プロジェクトを進めることになりました。

パートナーを選ぶにあたっては、プロジェクトマネジメントの世界だけではなく、ファシリティマネジメントの部分もかなり重視した結果、コクヨさんにお願いすることになりました。

明治時代より、炭鉱や金属鉱山の経営、セメントの製造、金属精錬、加工事業と川下に事業展開してきた中で、次第に組織風土が"守り"に入り、チャレンジ精神が低下している、という課題を抱えるようになりました。本当は「もっと超えたい、もっとつながりたい」と我々自身が感じるようになっていたんです。

そこで、三菱マテリアルらしさの復活と創造を基本に置いた上で、移転プロジェクトのコンセプトには「枠をこえて つながるオフィス」を掲げることにしました。部分最適から脱却し、部門の壁を超え、従来の価値観や慣習も超えていこうというメッセージが込められています。

プロジェクトの体制は、我々総務部、革推進部、人事部、生産技術部、システム企画部からなるメンバーが、兼任で事務局を運営するスタイルを採用しました。スケジュールについては、2017年5月末に移転が決定し、その後、パートナーの選定や基本計画設計を経て、2018年3月に移転をした、という約1年10ヶ月のプロジェクトになっています。

今回のプロジェクトにおける取り組みの中から、本日ご紹介するのは次の3つです。

1.適業適所
業務内容に応じて自律的に働き方を選ぶ、いわゆるABWです。日々、オフィス内の各所を歩き回ることで、いろいろな人と出会える確率を上げていこうということで、集中ブースやカウンターなど、いろいろな場所に働けるスペースを設けました。

2.さっと集まりパッと会議
「会議をしたくても会議室がなくて開催できない」と、以前のオフィスで最も不満の多かった場所が会議室でした。そこで、空いている場所ですぐに会議ができるよう、打合せのできるスペースを充実させるとともに、コクヨさんにお願いして、"活発に議論しながら、素早い意思決定を目指す"会議改革を進めました。

3.情報のペーパーレス化
これまで三菱マテリアルでは情報の閲覧・保管ともに紙が主流でしたが、「みんな同じ書類を持っていて、原本がどこにあるのかわからない」といった不具合が発生していたため、保管コストの削減や検索時間の効率化の観点から、情報の長期保管は電子にしていこうという取り組みを行いました。

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若手メンバーの熱い想いが
プロジェクトの推進力に

古川:1年10ヶ月という長いプロジェクトを推進していく上で、会社の本気度を伝えるために、重要なトップの想いをどのように発信されましたか?

廣川:今回、経営陣が本社移転に大きな期待を寄せていたこともあり、社長インタビューの記事を載せるなど、「つながるまてりある」という社内報を通じて、少なくとも1ヶ月に1回は経営陣の移転にかける想いを届けるようにしていました。

古川:しっかりとトップからお墨付きをもらって進めることができたのは、プロジェクトを進める上で大きな力になりましたよね。事務局のメンバーは、どのように選ばれたのでしょうか。

廣川:正直に申し上げると、ピンポイントで狙ってアサインしたというよりも、できる人間が集まったという感じではあったのですが、自分事と捉えて本気で取り組んでくれる若手メンバーと、突破力のあるミドル層が入ってくれたのは、本当に良かったと思っています。

古川:すごく大切なポイントですね。秀様は当時入社3年目だったと思いますが、若手メンバーとしてどのような想いをおもちでしたか?

秀:最初は「上司から与えられた仕事のひとつ」でしたが、"自分たちの環境をもっと良くするためには、上の人に任せるのではなく、自分たちがどう変えていきたいのかをしっかりと考え、行動することが大切ではないか"と思うようになりました。経営陣の後押しもそうですが、事務局レベルでも、廣川が私たちの発言や行動を自由にさせてくれたことで、責任ある仕事だと自覚しながら意欲的に取り組めましたし、とてもいい経験になったと思っています。

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古川:事務局のみなさんの雰囲気が良いんですよね。若手メンバーの方も率直な想いを伝えてくださいましたし、廣川様もそれを汲み取って実行に移すにはどうすればいいかとご相談いただけたことで、私もサポートすべき内容が明確になりました。

秀:みんな初めての移転プロジェクトということで、最初は手探り状態でしたが、だんだん期日が迫ってくると、「やるからには良いものにしたい」という共通の想いがありましたので、一致団結して家族のようになれたのは、私も肌で感じていました。

廣川:本当にいいお祭りでしたね。

古川:とはいえ、実際に現場を動かすのは、そう簡単なことではなかったと思います。私は事務局のみなさんの巻き込み力がすごかったと思っているのですが、その辺りで意識されていたことはありますか?「ここは押さえておかないとまずいぞ」という廣川様の嗅覚もすばらしかったですよね。

廣川:当然のことながら、普通の人たちにとって、移転は面倒なことでしかないんですよね。そのような人たちをどう巻き込んでいくかをコクヨさんと話し合いながら取り組んでいく中で、事務局が各部署の業務負荷を軽減するため、しっかりと段取りしたうえで、情報を適切に発信することが重要であると学びました。

例えば、新本社オフィスの入館システムや受付関係、共用物品の活用方法などを掲載したオフィス運用マニュアル説明会、ビルの竣工時と引越し直前に行った見学会。これらをなるべく多くの人に来てもらうために、少人数で複数回行ったのはポイントだったと思います。

また、移転に対してネガティブな印象を持っている人には「こういう想いでやっているから、ご協力をお願いします」と個別に声をかけていくことで、わかっていただけることもありました。

古川:巻き込み力の話でいうと、今回の移転を機に、書類70%削減するという目標を掲げました。こちらの活動についてもお伺いできますでしょうか。

廣川:約1年前から取り組み始め、最初は「デスク上を片付けましょう」、次に「キャビネット内の書類の仕分けをしましょう」、そして最後に「いらないものは捨てましょう」という3段階で声をかけていきました。「キャビネットが占めているところを打合せコーナーにしていくから、新オフィスに持っていっても置くところはないよ」と言い続けてきたのですが、最初のうちはみんな「なんで捨てないといけないんだ」と不満を漏らしていました。

単に「捨てろ」と言うだけでは、捨ててくれません。70%削減するために、電子化したり、外部倉庫を使ったり、溶解処理を行ったり、といろいろな手段を用意した上で、各部署でやりやすい方法を選んでもらいました。その結果、66%削減することができ、おおむね想定内の削減ができたと思っています。移転後も2〜3割は紙の消費量が減っているので、すごく良かったですね。



移転して終わりではない、
より良く成長し続けるオフィスへ

古川:ここからは新しいオフィスについて伺っていきたいのですが、まずは縦割りの慣習を超える風土改革のために、事務局としてこだわったポイントを教えてください。

秀:会社にいる時間は、人生の中でも大部分を占めると思うので、「毎日会社に来るのが少しでも楽しみになるオフィスにしたい」という想いが根底にありました。そのために大切にしたのは次の3つのポイントです。

・オフィスの中でお気に入りの場所ができるように、多様な「逃げ場所」を用意すること。
・愛着をもってもらえるように、家具に妥協はしないこと。
・オフィスの活用法をあらゆる角度でアピールすること。

根底にある想いを大切にしながら、妥協せずにこれら3つのポイントに取り組んだことで、自分たちの取り組みに対する自信も生まれました。だからこそ、みなさんからのいろいろな意見に対して、真摯に応対することができましたし、私たちの想いが伝わったことで、風土改革の後押しにもつながったのではないかと考えています。

古川:旧オフィスでは4フロアに分かれていたところから、今回2フロアを内階段でつなぐ設計にされましたよね。移転されてからコミュニケーションに変化は見られますか?

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廣川:そうですね。非常に行き来が活発になりましたし、内階段がメインの動線になるので、偶発的なコミュニケーションが生まれるんですよね。内階段をつくるには、それなりに費用がかかるので大変ではあったのですが、社内からとても好評を得ています。

古川:コミュニケーションの場として「Plaza(プラザ)」という目玉スポットも生まれました。

秀:気軽に多様な人が集い、明るい笑顔が生まれる「広場」というコンセプトでつくりました。大きなモニターがあり、社内の情報発信の場として活用したり、ここに資料を映し出して打合せをしたりすることも可能です。

古川:加えて、食堂「Comedor(コメドール)」も新設されました。

秀:ただお昼を食べるだけでなく、朝も軽食が食べられますし、夜はお酒を飲みながら懇親会もできるようになっています。他にも、他拠点から人が集まる研修や会議スペースにもなりますし、個人で集中したいときにソロワークができる設備も備えています。

廣川:秀が「家具にこだわりたい」と言っても、私には予算があります(笑)しかし、「これにしなさい」と押し付けるのではなく、上限を提示して、その中で最高のものを選んでもらったのが、私のこだわりポイントのひとつですね。

もうひとつは、旧オフィスでは別フロアにあった社長の部屋を、今回、執務エリアに寄せて、なおかつガラス張りにしたことです。これによって社長と社員の距離が非常に近くなり、すぐそこに社長の顔が見える状態になりました。社長から我々社員に対して声をかけてくれることが増えて、コミュニケーションが良くなったことを実感しています。

古川:随所に組織風土改革を促すポイントが盛り込まれていますね。今後は、今の環境を維持していくための取り組みが必要になってくると思いますが、何か工夫されていることはありますか?

秀:オフィスを移転した当初はきれいですが、いざ使い始めると書類も増えて「生活感」が出てきます。そこで、オフィス全体の"5S活動"というものを始めました。5S活動では、毎週金曜日に5分間だけ簡単な清掃をしたり、月に1回、部署毎に選出したリーダーに点検をしてもらったりしています。

総務でもオフィスの使い方に関するルールを決めて、抜き打ちで点検し、良くないところがあれば、可愛いクマのイラストを用いて作成した注意喚起を促すシールを貼って、直してもらうようにしています。しかし、私たちがやりたいのは「決めたから守ってね」と頭ごなしに取り締まることではありません。

社員の意見も取り入れて、柔軟にルールを変更したり、遊び心のあるイベントを開催したりしながら、オフィスをより良く成長させていきたいです。

廣川:「移転して終わりじゃない」ということは、僕も強く思っています。今回の移転に際し、社員から「うちのオフィスらしくないね」とよく言われたのですが、組織風土改革を目に見える形にしたかった僕たちにとっては、これはとてもうれしい褒め言葉です。これが5年後に当たり前となり、そのままうちの文化として定着してもらいたい。

移転後の満足度調査をした結果、働きやすいオフィスかどうかの総合評価のところで、「そう思う」と答えた人が13.5%から30%へと倍以上に伸びたことは、とても良かったと思っています。

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古川:最後に、プロジェクト全体を振り返ってみて、最も良かったことを教えてください。

廣川:いろいろな仕掛けをしながら、みんなで移転できたというのが、一番良かったことですね。自分事として捉えてもらえたことが、組織風土改革につながっていくと思いますので。オフィスが実際に変わったこと以上に、みんなで一丸となって会社を変えていこうというプロジェクトになったことが最大の成果だったのではないでしょうか。

古川:本当にそうですね。本日は、貴重なお話をありがとうございました。

廣川 英樹

三菱マテリアル株式会社 人事・総務本部 人事部 人材開発センター 研修グループ 

秀 真里奈
三菱マテリアル株式会社 人事・総務本部 総務部 総務室総務グループ 

古川 貴美子
コクヨ株式会社 ワークスタイルイノベーション部