ライフのコツ

2015.10.13

街のみんなでこどもの"未来力"を育てる

柏の葉スマートシティ「未来こどもがっこう」

今年7月、千葉県柏市に「未来こどもがっこう」が開校した。体験型の学びを通してこどもの“未来力”を育むこと、そして、街が一丸となって学びの場を創り上げていることが、大きな特徴だ。今回は、夏の特別カリキュラム「宇宙アドベンチャーフェスタ」を訪れ、「未来こどもがっこう」事務局の小山田裕彦さんに、この新しい“がっこう”での学びについて伺った。

記憶に残るワクワクする体験をしてほしい
「未来こどもがっこう」が目指すのは、思考力、判断力、表現力といった、これからのこどもたちに必要となる"未来力"を育むこと、そして、がっこうでの体験自体が、未来の扉を開くきっかけとなることだ。
「楽しくワクワクする経験というのは、ずっと記憶に残るものです。そして、将来、何かに出合ったときに必ず活きてきます。『未来こどもがっこう』での体験が、こどもたちにとってキラリと光る記憶になることを願っています」と語る小山田さん。
カリキュラムはどれも体験型。頭だけでなく体も心も使って感じることを重視している。
街のコミュニティーが生み出した「未来こどもがっこう」
「未来こどもがっこう」の舞台である柏の葉スマートシティは、住宅、オフィス、ホテル、商業施設などが密接に結びついた、複合開発型の新しい街だ。誕生して9年目となる今日まで、自治体、民間企業、大学、そして地域住民がひとつになり、課題解決型の先進的な街づくりに取り組んできた。
柏の葉スマートシティをハードとソフトの両面からデザインする「柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)」で街のアートコミュニケーションのディレクターを務める小山田さんは、柏の葉スマートシティのコミュニティーづくりに、当初から携わってきた。
柏の葉スマートシティの憩いの場。中庭を囲むオフィスもホテルもとても開放的。
「人と人とのつながり、つまり、コミュニケーションを生み出すための仕掛けとして、イベントやプロジェクトがある」と小山田さんが語るように、柏の葉スマートシティでは、コミュニティーの結束を強めるために、これまでもさまざまなワークショップやプロジェクトが行われてきた。こどもが地域の商業施設で職業体験をする「ピノキオプロジェクト」をはじめ、地域住民が自分のスキルや経験を活かして自らが講師になるワークショップの開催など、住民が主体となって次々と自発的な活動が生まれていった。
「例えばピノキオプロジェクトは、実際に職業体験をするこどもにとってだけでなく、そのための企画や交渉を担う大人にとっても、たくさんのことが学べるプロジェクトとなりました。受け身の"参加者"ではなく、プロジェクトに携わる"主催者"の立場になることで、スイッチが入るんですね。もっと『こうしたい、あんなことがしてみたい』『じゃあ、あの人に聞いてみよう』、『そうだ、自分も教えたい』と、どんどんと回り始めます。私の役割は、みんなを統率するリーダーではなく、街の活気を引き出すファシリテーターなんです」
街のみんなからは『えびせんさん』の愛称で慕われる小山田さん。
街のリソースを活かした体験型カリキュラムを展開
こうして地域コミュニティーの活動が活発になり、街の成長段階として自然発生的に生まれたのが、「未来こどもがっこう」だと小山田さんはいう。きっかけは、以前にピノキオプロジェクトに参加した中高生から寄せられた、「こんな人に会ってみたい、こんな体験をしてみたい」という声だった。さらに、街の完成に向けて住民とコラボしたいという企業の後押しもあり、住民を中心に街全体で取り組むことになった。事務局には有志の住民らが集まり、いつも街のどこかで授業が開かれているような、街と学校が一体化した学びの場を創ろうと、「未来こどもがっこう」の構想が始まった。
UDCKが主催し、三井不動産レジデンシャル(株)などの企業が共催、柏市や柏市教育委員会が後援、さらに医療機関や教育機関をはじめ多くの地元の企業・団体などが協力し、「未来こどもがっこう」は今年7月に開校した。街の持つさまざまなリソースを活かし、「探究」「先端」「健康」「創造」「共創」の5つのテーマを軸にした体験型カリキュラムを展開し、まさに街を上げて、学びの場を創造している。カリキュラムに応じて、幼児から高校生まで幅広い年代のこどもが参加でき、どのカリキュラムも大盛況となっている。
カリキュラムは土日などの休日を中心に開催されている。家具デザイナーの土橋陽子さんを講師に迎えた「LEDが光る王冠を作ろう!」、風船による宇宙撮影に成功したエンジニアリングアーティストの岩谷圭介さんと制作する「宇宙パラシュート」など、その道のプロフェッショナルから直々に学ぶカリキュラムのほか、街の住民でもある松本和美さんによる「生演奏リトミック」、五感で野菜を学ぶシリーズカリキュラム「野菜がきらい!!」など、内容もバラエティに富んでいる。
 
「野菜がきらい!!」では、畑で野菜を収穫し、自分たちで料理して味わう。
実際に宇宙撮影に使用しているパラシュートを自分たちで制作した「宇宙パラシュート」
取材に伺った夏の特別カリキュラム「宇宙アドベンチャーフェスタ」(8/22.23開催)では、プラネタリウムやワークショップをはじめ、プラネタリウム・クリエーターの大平貴之さんらを講師に迎えた「宇宙トーク」など、多数のイベントが開催された。会場は家族連れなどでにぎわい、ワークショップでは真剣な表情で取り組むこどもたちの姿が見られた。
メガスター2で1000万個以上の星を再現したプラネタリウムでは、みんなで寝転がって星空を眺める。
月について学ぶ「月の砂ワークショップ」。NASAが開発した実験用の月の砂にも触ることができた。
星空スコープ作りはこどもたちに大人気。世界でひとつだけのプラネタリウムができあがる。
本気の人・本物と出会い、世界を拡げてほしい
「未来こどもがっこう」のカリキュラムに共通しているのが、"本物"を体感できるということ。本気の人や本物との出会いが与えるインパクトは、絶大だ。小山田さんは、これらのカリキュラムを通して、こどもたちに「こんな世界もあるんだ!」という発見をしてほしい、そして、際限なく拡がる未知の世界に対してワクワクしてほしいと願う。
「今の世の中を見ていると、ものごとの一側面だけを見て、過剰に反応したり批判したりする風潮を感じます。これからを生きるこどもたちには、狭い世界で考えてほしくはありません。とんでもない人に出会ったりとんでもない経験をしたりしながら、いろんなことを感じ、自分の世界を拡げてほしい。どんどん外の世界に飛び出してほしい。そして、存分に視野や発想を拡げたうえで、自分が本当におもしろいと思うものをグッと引き寄せ、取り組んでほしいのです。たとえば、育った地元やある地域に密着した仕事に就くとしても、大きな視点で考えられるというのはとても大切なことですから」
ワクワクドキドキがいっぱいつまった、「未来こどもがっこう」。そこで学んだことが未来のこどもたちに与える影響は、まさに無限大だ。そして、がっこうを創り上げるさまざまな人々をつなぎ、コミュニティーとして成長させるという側面もまた、重要だ。
「大人が楽しそうに何かに打ち込んでいる姿を見ると、こどもは自ずと"自分もやってみようかな"とやりたくなります。影響を受けるのは、こどもだけでなく周囲の大人も同じです」と小山田さん。家庭において、こどもの探究心や意欲を伸ばすヒントがここにありそうだ。

小山田 裕彦/Hirohiko KOYAMADA

柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)のアートコミュニケーションディレクター。
柏の葉スマートシティ開発の初期から携わり、地域の大学や行政、地域住民などを巻き込んだ地域コミュニティ活性化を推進。また、ピノキオプロジェクトだけでなく、お父さんの知力・体力を学校教育にいかすための「お父さんの楽校」プロジェクトなど多くのプロジェクトに参画。どのプロジェクトにも共通するのは、「大人のリミッターをはずす」「ヘンな人に会う」ことをモットーとして、トコトン「楽しむ」を追求している。

文/撮影 笹原風花