仕事のプロ

2013.10.11

男性のワーク・ライフ・バランスも重要

Vol.4 パートナーと育児をシェアして働く

凸版印刷株式会社 情報コミュニケーション事業本部 
トッパンアイデアセンター クリエイティブ本部GAC部
森岩麻衣子さん
写真集や広告媒体のプリンティングディレクターとして活躍。2011年4月に育休から復職。3歳女児の母。

インタビューアー/WorMo’編集長 河内律子(2歳児のワーキングマザー)

子育て経験が仕事のアイデアにつながることも
――森岩さんは、写真集などのプリンティングディレクターとして、印刷現場とクリエイティブスタッフのパイプ役を担っているんですね。両者の調整もあってとても忙しいと思いますが、出産の前と後では働き方が変わりましたか?
私の場合は、社内で一緒に働くメンバーもお得意様の顔ぶれもそれほど変わらなかったし、仕事内容もほとんど同じだったので、復帰後の仕事の進め方にあまり戸惑いはなかったです。ただ、残業ができにくくなった分、出産前より『限られた時間の中で、より合理的に、無駄なく自分にしかできない価値のある仕事をしよう』と、心がけるようになりました。幸いにも、周りの方は子育てに理解のある人が多く、会議を早めの時間に設定してもらうなど配慮していただけるので、本当に感謝しています。

――周りが協力的なのは、森岩さんが出産前からの働きぶりを通して周囲の人と信頼関係を築いてきたからだと思いますよ。
だとしたらうれしいですが...。ただ、「こどもがいるのを察してほしい」と周囲に期待し過ぎず、夕方には保育園に迎えに行かなければならない、といった事情はきちんと伝えるようにしています。もちろん「権利なんだから当然でしょ」という態度ではなく、謙虚な言い方は心がけていますが(笑)。

――お仕事内容をお伺いすると、お客様のご都合も考慮するため時間が不規則なイメージがあります。残業が難しいとなると、日中の時間はとても貴重ですね。
そうですね。時短の工夫として、外出がない日は自分用のお弁当をつくって持参するようになりました。お昼を買いに行くにも10分ぐらいはかかるけれど、その時間を省くことで簡単なメールチェックなどは終わりますから。

――作る手間から考えて時短になるのかな、と思ってしまうんですが...。
前日のお総菜を詰めて持ってくるだけなので、手間はかかってないんですよ。私が食べるだけですから、お腹が満たされれば、彩りや中身は気にしません(笑)。最近の楽しみは、保温容器で温かいカレーを持参すること。周りからは「またカレーの匂いだ」なんて思われているかもしれませんね。

――子育てをするようになって、仕事にプラスになったことはありますか?
自分の中にアンテナが増えましたね。例えばこどもの玩具を見て、「もっと多彩な製品があればいいのに」と考えて何か企画に結びつけられないかと模索したり...。

――どんなアイデアが出てきたのか、とても気になるところですが...実現する日を楽しみにしています!
平和紙業株式会社「ベィビーフェイス紙見本帳」
アーティスト・クリエイターといったクライアントからリクエストされる色合いは、抽象的なイメージや概念で伝えられるときもあり、それを現場の方に明確な指示として伝えることが、とても重要。


仕事も家庭も大切にできる土壌を社内につくりたい
――ご夫婦で同じ会社にお勤めなんですね。お互いの職場環境がわかっていると、育児のシェアがしやすいのでは?
本当にそうなんです。しかも私は体があまり丈夫ではないので、彼がかなり頑張ってくれています。特に「女性のメイクは家事の1つ」と、朝の家事をメインで担当してくれるんです。正直、彼を取材していただいた方がいいんじゃないかと(笑)。

――うらやましいですね! 家事や育児の分担はどうやって決めているんですか?
育休から復職したばかりの頃は、ほとんど私がやっていたんです。自分でも気づかず無理していたようで、体調を崩してしまって...。そのとき、彼の提案で、まずは家事や育児に関する内容を一つひとつ洗い出しました。そして、彼が「どのくらい負荷がかかっているか」という点からポイントに換算し始めたんです。たとえば「夕食づくりは10ポイント」とか。換算の基準は、私にはわからないんですが、彼から見て「●●より××の方が大変」と決めていったのではないでしょうか。で、ポイントを合計してみて、「やっぱりキミの方がずっと大変だよね」と勝手に納得してくれました。それからは本当に、積極的にいろいろやってくれます。

――ほかの男性社員の方も、そのようなタイプの方が多いのですか?
弊社には多様な働き方ができる制度が整っていますが、早く帰宅して家事や育児をサポートする男性はまだ多くはありません。そこで、有志の若手・中堅社員による社内の風土改革プロジェクト「誇りプロジェクト」に参加し、社員が仕事も家庭も大切にできる雰囲気を醸成する「NEXT LIFE PROJECT」というチームを立ち上げ、活動を行っています。

―― 「NEXT LIFE PROJECT」には、ほかにどんな方が参加していますか?
子育て真っ盛り世代の男性が中心です。この世代は仕事の中核も担っているので、彼らのワーク・ライフ・バランス実現によって仕事のパフォーマンスが上がれば、会社への貢献にもなると思っています。私たち夫婦は同じ会社に勤務しているので、特に出産後は「万一、会社がなくなったら大変」と考えるようになりました。そう考えるのは心配性の私だけなのですが(苦笑)、会社に貢献できることがないかをより意識したら、「社内の雰囲気改善」に行き着いたんです。
「 NEXT LIFE PROJECT 凸メン会」の「子どもインターンシップ」のチラシ。イラストは実際の社員の体パーツを組み合わせてつくりました。
3歳の娘と。最近はお風呂にもぐるのがお気に入り。以前は顔に水がかかるのも嫌だったのに・・・成長しました。

――ワーキングマザーにとってもうれしいプロジェクトですね。でも、森岩さんはただでさえ忙しいのに、業務外で時間をとるのは大変だったのでは?
時間的なことを考えると、参加するかどうか迷ったのですが、「男性社員のワーク・ライフ・バランス」は我が家にとっても切実な問題だったので、覚悟を決めました(笑)。社員の家族をオフィスに招く「子どもインターンシップ」というイベントの前は、本当に大変でした。夫も同じく「誇りプロジェクト」で別のテーマに取り組んでいるので、お互いの仕事のピークを共有し、こどものお迎えを交代制にしたりして、工夫しました。 私より若い世代の社員が楽しく仕事と育児を両立できるよう、社内にいるワーキングマザーの相談に乗ったりして、今後も自分にできることに取り組んでいきたいです。

――最後にワーキングマザーになって思うことは何ですか?
仕事を見直すいいチャンスだと思いました。仕事のムダの断捨離に効きますね。男性の方も1,2ヶ月やってみるといいと思いますよ。

森岩さんの1日

5:00 夫婦で起床(その日の体調などで調整)
洗濯、食器洗い、掃除など
朝食&お弁当づくり
6:30 朝食・こどものシャワー
7:30 出勤
(保育園へ送るのは、ご主人が担当)
17:00~
18:00
保育園へお迎え
帰宅
19:00 夕食
20:00 入浴
(間に合えはご主人担当)
21:00~
22:30
こどもたちといっしょに就寝

取材を終えて

体が強くないというのに、朝5時に起きて、育児だけでも大変なのに時々とはいえお弁当までつくっている森岩さん。そんな頑張り屋さんだからご主人も積極的に子育てをサポートしてくださったのではないでしょうか。また、育児や家事の負荷を「数字」に換算されたことは男性ならではだし、パートナーに理解してもらうのによい手段だと思いました。
体力には自信があるのに5時半起きで毎日ランチは外食の私ですが、メイクの時間も含めた育児・家事を数字化してサポート依頼をしてみようと思います。 (河内)

文/横堀夏代 撮影/ヤマグチイッキ