プロダクトアイデンティティ Product identity モノづくりに秘められた「モノ」語り

vol.11Vol.11 INSPINE

 オフィスチェアーは「ツールの変化」「姿勢の変化」に伴い進化してきました。スマートフォンやタブレットの普及と、それらの複合作用の増大により、着座姿勢はこれまでの姿勢と異なる傾向に変化しつつあります。インスパインは、新たな姿勢、新たなツールに対応する最適な機能に着目し、次世代の回転イスを目指して作られました。

デザイン・開発担当 商品開発部 奥一夫

デザイン担当 商品開発部 大木一毅

開発担当 商品開発部 上田伸行

最新ツールを使用した着座姿勢へのサポート機能

 「立ち姿勢に近いS字背骨形状で座るのが良いのです」と言われていますが、実際に周りを見渡すと前かがみや猫背になって座っている人が8割以上という現状があります。この問題を改善していきたいという思いから観察・分析・アイディア出しがスタートしました。
 猫背の原因として、「ノートPC化による下方視姿勢」、「モバイルツールの操作やメモなどの複合的な作業で肘や腕をデスクに置いてしまう」「イスの肘が邪魔でデスクに近づけない」といったことが顕著に見受けられ、それに対し、姿勢の良い人は「座面にブランケット等で角度や腰のサポートを微調整している」ということが見えてきました。
 開発チームはこれらの課題を解決させるために、「最新ツールを使用し、先進的な働き方をする人のためのイス」と言う商品コンセプトを設定。座面の角度調節、ランバーの腰部のサポート、時代に即した可動肘のあり方に着目しました。

リサーチから様々な問題や発見を得ることができました

リサーチから様々な問題や発見を得ることができました

座面の角度調整機能を受け入れてもらうには?

 前かがみ姿勢では骨盤が寝てしまい、腰への負担が大きくなります。さらには、太もも裏が鬱血する傾向が出てきます。それらの解決方法の1つに、座の角度調節があります。これまでも海外メーカーでは前傾機能が搭載されているイスは多くありますが、背座が連動して動くため、座が傾くと背が押され、腰が前にずれていく感覚が日本では不評でした。

数々の初期前傾検証モデル

数々の機能モデル

 開発チームは、観察から見えてきた、それぞれの体型に合わせて無段階で微調整ができることと、不評だった腰の前ズレ感を払拭することを目指し、何度も試作と検証を繰り返しました。
 座り心地は様々な部品や、その素材の違いなど複雑に関係しています。これらを1つずつ最適な形状、角度、摩擦抵抗、硬さの組み合わせを検証しました。また、操作の容易さと、耐久性との両立に苦労しましたが、座が独立して微調整できる画期的な前傾機能に仕上がりました。

感性に訴えかける操作性と音を目指して

 複合的な仕事が増えていることと、使用しているツールがノートPC、タブレット、スマートフォンなど多岐にわたるという環境の変化から、1日のうちにも姿勢は刻々と変化します。
 この動きのサポート手段として、靴紐の原理に着目しました。靴の紐は動きや足の形に合わせて摺動(しゅうどう)し、常にピタっと面で吸い付くようにフィットします。この原理を昇華させ、柔軟なメッシュの伸縮性に最適な摺動性を持たせた1本のワイヤーで、常に面でしっかりサポートしながらも体圧を最適に分散させるワイヤーランバーサポートを開発しました。
 また、スムーズや確実さだけではなく、感性に訴えかける精密な操作性や高級感を感じる操作音を目指しました。

靴紐の原理からワイヤーの利用を着想

靴紐の原理からワイヤーの利用を着想

1本につながったワイヤーの摺動

1本につながったワイヤーの摺動

時代に即した可動肘を考える

 可動肘は90年代、大型PCモニターとキーボードが机を占領し、腕を置く場所が無いという後傾作業姿勢のサポート機能として進化しました。ノートPCやタブレットでの姿勢で必要な動きを、サポートするための機能として、肘をゼロから見直しました。
 前傾姿勢でデスクにしっかり近づいた状態での肘のサポート位置、後傾姿勢での必要な動きとパッド位置の両立を目指しました。パッドが大きく後ろに下がることにより、しっかりと体を机に近づけた姿勢がとれ、かつ、天板面と同じ高さの肘パッドに肘を置く姿勢においては、より楽に前傾姿勢がとれます。また、タブレットやスマートフォンを使用するような後傾姿勢でもパッド位置が後ろにあるため、楽に腕を安定させた状態を保てるようになりました。また、高い質感を感じさせるため、ロータリーダンパーを初めて採用。トライ&エラーを繰り返しました。

肩を中心にした動きに追従する可動範囲。パッドを後ろに下げると机に体を密着させた状態で正しい姿勢をキープできます

魅力的な機能を視覚的に伝える

 新しい働き方に対して新しい機能で応えるフラッグシップチェアー。この豊富な機能を搭載したこのイスは、もはや家具と言うよりも働くための究極の道具やマシンに近い存在なのではないかと考えました。このイスに座ったら「自分のパフォーマンスが向上しそう。」、「今までとは違う新しい働き方ができそう。」そんな予感をユーザーが感じてくれるようなデザインを目指しました。また、フラッグシップに相応しい質感も追求。最も特徴となるワイヤーランバーサポートの操作ダイヤルにはスピン加工処理されたプレートを採用したりと、よりプロダクトとして魅力あるものに仕上げました。
 メッシュチェアーの利点の一つとして、ウレタンクッションのイスに比べ、背を薄くすることができ、かつメッシュの透過性により、空間を軽快に見せることができます。しかし、今回はワイヤーランバーサポートのメカを搭載するためのスペースが必要で、背枠フレームの厚みを通常よりも厚くしなくてはなりませんでした。開発チームはメカユニットの薄型化も検討しましたが、薄くすればするほどランバーサポートの調整幅を犠牲にすることになります。様々な技術的トライ、デザイン的なトライを経て、行き着いた答えが「ダブルレイヤーデザイン」でした。板が2枚重なりあった様な構成を用いることで、実際の厚みよりも薄く見える工夫を施しました。

いかに機能を魅力的に感じてもらうか?予感してもらうか?ただ斬新だけではない、理に適ったデザインを目指しました

いかに機能を魅力的に感じてもらうか?予感してもらうか?ただ斬新だけではない、理に適ったデザインを目指しました

カメラやオーディオなどでも採用されているスピン加工により質感の向上を図りました

カメラやオーディオなどでも採用されているスピン加工により質感の向上を図りました

メッシュチェアーらしさを損なわない様、「ダブルレイヤーデザイン」を採用

メッシュチェアーらしさを損なわない様、「ダブルレイヤーデザイン」を採用しました

魅力的なアウトプットの引き金に

 働き方の変化、ワークツールの変化に伴い、オフィス家具も様々な変化を遂げてきました。このイスはまさに現在の最先端の働き方に対応した機能とデザインであると同時に、多様化している働き方にも、しっかりと対応しています。この魅力的なイスで、ワーカーが新しく魅力的なアウトプットを実現するための引き金になればと願っています。