
「メンバーに、もっと自律的に動いてほしい。」
「指示待ちを脱却して、自分たちで考えて連携してほしい。」
人事業務に5年から10年ほど携わっている皆さんなら、現場のリーダーからこんな切実な相談を受けたことが一度や二度ではないはずです。
しかし、そのリーダーの熱意とは裏腹に、現場では逆説的な現象が起きています。
「もっと主体性を出せ!」
「関連部署ともっと連携しろ!」
リーダーが成果への焦りから直接的な「行動」を促せば促すほど、現場のメンバーは防衛的になり、会議室には重い沈黙が流れます。
「何か意見はないのか?」というリーダーの問いかけに対し、下を向いて手元の資料をめくるメンバーたち。 「(余計なことを言って、また仕事が増えるのは嫌だな)」 「(この場は波風を立てずに、指示を待っているのが正解だ)」 そんな「空気を読む」心の声が、目に見えない厚い霧となってチームを覆っています。
前回お伝えした、成長ステータスの狭間にある「自己制限の谷」や「現状肯定の谷」といった隔たりは、こうした表面的な働きかけでは決して崩れません。これらの難局は、現場に流れる無意識の前提認識(Level 3)という「組織文化のOS」に深く根差しているからです。
暗闇に包まれた部屋で、出口が見えず、お互いの距離感もつかめない。そんな状態で「もっと早く走れ」と叫んでも、誰も一歩を踏み出せないのは当然のことです。
前回のコラムで、組織成長のロードマップとして「成長循環」の考え方をご紹介しました。

おさらい:『成長循環モデル』とは
3つのステータス(発達段階):チームが今、どのような価値を生み出せる状態にあるかを示す
2つの谷(適応課題の正体):次の段階へ進むことを阻む、特有の停滞要因を示す
18の要素(スイッチ):3つのステータスの中の要素。関係・思考・行動の質を高め、谷を超えるための具体的なアクションを示す
私たちが提唱する「成長循環モデル」の根底には、一つの確固たる原理があります。それは「成功の循環」をベースにした、「関係の質」→「思考の質」→「行動の質」→「結果の質」という連鎖です。
チームの状態を改善しようとするとき、多くのリーダーはいきなり「行動」を変えようとします。しかし、これは暗闇の中で、手探りで壁の塗り替えを始めるようなものです。どれだけ一生懸命に手を動かしても、根本的な暗闇(関係性や前提認識)が変わらなければ、そこがどこなのか、どこへ向かえばいいのかという道筋は見えてきません。
ここで重要なメタファーが、「スイッチ」です。
私たちがすべきことは、「関係の質」→「思考の質」→「行動の質」の順に、まず暗闇を照らす「スイッチ」を探し、それを入れることです。
「関係の質」という「スイッチ」を押す。すると、チームを覆っていた暗闇に光が灯り、メンバーは自分の足元を確かめ、どこに谷があるのか、そしてそれを越えるための道筋と方法を考え出す「思考」の「スイッチ」が入ります。視界が開け、進むべき方向が見え始めたことで、メンバーは自発的な「行動」を開始できるようになります。18の要素は、単なる「静的なチェックリスト」ではありません。それは、押せば次々と連鎖が始まる「動的なスイッチ」なのです。
一方で、その連鎖を途中で停滞させてしまう大きな谷が2つあります。

『ステータス1』(チームづくり)にいるチームは「指示されたことができる」状態です。ここを脱することができず「指示待ち」状態のチームの前には、深い【自己制限の谷】が口を開けています。
「自分の役割は果たした。あとのことは知らない」 「失敗して責任を取らされるくらいなら、目立たないのが正解だ」 そんな、個々に分断された「点」の活動から、相互に補完し合う「面」の活動(『ステータス2』:連携の促進)へと脱皮するために。この暗闇を照らす「スイッチ」とは何でしょうか。
まず入れるべきは、単なる仲の良さではない、成果のための「本音」という「スイッチ」です。
ある会議のシーンを想像してください。リーダーが、いつもの「進捗どう?」という確認の代わりに、自らの迷いをさらけ出しました。 「実は、今回のプロジェクトの進捗、私自身の判断の迷いで少し遅れが出ているんだ。みんなはどう感じている? 正直なところを聞かせてほしい」 この一言が、メンバーの心の「スイッチ」を入れます。「(あ、ここでは“上手くいっていない”と思っていることも言っていいんだ、隠さなくていいんだ)」。 「正直、あの指示は現場の工数では少し無理があると感じていました」 「もっと早く、このリスクを相談すべきでしたね」
このように、忖度なく「強み・伸び代を言いあえる」関係へのシフトが、谷の底まで照らす最初の光を灯します。
メンバーの正直な状態が引き出されると、それを相互に補完するために連鎖して入る「スイッチ」が「知見共有」です。 「それは私の担当外です」という心の境界線が消え、「自分の持っているこの情報をチームとして使えば、もっと良くなるのではないか?」と、惜しみなく知恵を出し合う状態が生まれます。
これら「関係」の「スイッチ」が入ると、思考に劇的な変化が現れます。自分たちの現状を高い視座から見つめる「内省力(チームと自分を振り返る)」が養われ、結果として「指示待ち」だったメンバーが、役割の隙間を自ら埋める「貢献行動(役割の隙間を埋める)」へと足取りを変えていくのです。

連携がうまく回り、安定して成果が出ている『ステータス2』(連携の促進)のチーム。しかし、その心地よさこそが、「今のままで十分だ」という【現状肯定の谷(サクセストラップ)】を深くしていきます。
「今のやり方が一番効率的だ。変える必要なんてない」 「新しいことに挑戦して、今の良好なチームバランスを壊したくない」 この内向きに閉じた「安定という名の停滞」は、やがて今の成果が"時代遅れ"になっていくことに気づかず、チームとメンバーの成長機会を遠ざけてしまいかねません。
この状況を打ち破り、非連続な変革(『ステータス3』:変革への挑戦)へと舵を切るための「スイッチ」をご紹介しましょう。
安定の暗闇を打ち払う強力な「スイッチ」、それは「理想共有」です。 「今期の目標をどう達成するか」という目先の数字ではなく、「自分たちは、本当は社会にどんな価値を届けたいのか?」という、心の奥底にある純粋な「なりたい姿」を伝えあうことです。
さらに別の角度から光を当てるのが、外の風を取り入れる「相互作用」の「スイッチ」です。 チーム内だけで完結せず、社外の異質な知見や、他チームの挑戦的な事例に触れる。 「(外の世界では、こんなに面白い、全く違うやり方が始まっているのか!)」 「(自分たちの常識は、一歩外に出れば過去の遺物かもしれない)」 そんな外部からの刺激が、チームの閉鎖的な空気を揺さぶります。
理想を語り、外部と刺激し合う関係性が整うと、思考は「考え抜く力(できる方法を考え抜く)」へと研ぎ澄まされます。今を照らしていたライトが、遠く未来までを照らし出すことで、これまで見えなかった「新たな道」が見えてくるのです。そして最終的に、過去の成功体験を自ら脱ぎ捨て、自分たちを最新の状態へ書き換える「アップデート(学び直し実行)」という、未知の領域へ踏み出す挑戦的な行動が生み出されていきます。

「関係を整えるだけで、本当に行動まで変わるのか?」 そんな風に思われるかもしれません。しかし、ここには脳科学や心理学にも通じる明確なロジックが存在します。
例えば、なぜ「本音(強み・伸び代を言いあえる)」が、「内省力」を養うのでしょうか。
多くのチームで振り返りが形骸化するのは、メンバーが「自分を良く見せたい」「責任を逃れたい」という保身(Level 3:無意識の前提認識)に走るからです。保身という霧がかかった状態では、深い内省は不可能です。しかし、「伸び代だと思うことも言っていい」という「スイッチ」が入ることで、保身の霧が晴れます。ありのままの事実がテーブルに並び、初めてチームは「自分たちの現在地」を客観的に直視できるようになるのです。
また、なぜ「相互作用」が、新しい「挑戦」を生み出すのでしょうか。
安定したチーム内では、無意識に「今のやり方」が唯一の正解となります。これを打破するのは、外部との接触による「知的な揺さぶり」です。外の世界の「なりたい姿」に触れることで、「今のままでいい」という現状肯定が「このままではいけない」という健全な危機感と期待感に変わります。この思考の転換こそが、暗闇を突き進むエネルギーとなるのです。

今回ご紹介した「本音」や「理想共有」は、私たちが体系化した「成長循環モデル」における、全18個の「成長のスイッチ」の一部です。
私たちは、チームがどのステータスにあり、どの谷に直面しているかに応じて、どの「スイッチ」を優先的に入れるべきかという「組織成長のロードマップ」を設計しています。
リーダーが一人で「もっと動け」とメンバーの背中を押し続ける時代は終わりました。これからのリーダーに求められるのは、チームの状態を俯瞰し、停滞している箇所の「スイッチ」を的確に見極め、そこに指をかけることです。
「今、うちのチームは「理想共有」の「スイッチ」を入れて、遠くを照らす時期だな」 「まずは「知見共有」の「スイッチ」を入れ直して、既に持っている強みに自信を持とう」
18の要素を共通言語にすることで、チームは自律的に暗闇を照らし、谷を乗り越え、OSをアップデートし続ける「自律的な成長」を手に入れることができます。
今、あなたのチームの「スイッチ」は、どこにありますか?
より詳しい『成長循環モデル』と「18の要素(スイッチ)」にご関心のある方は、ぜひダウンロード資料もご覧になってみてください。
次回は、この「スイッチ」を入れ、成長の循環をいかに高速で回し、不確実なマーケットに適応させていくか。事前の完璧な「計画」に縛られていては、スピード感のある変革は不可能です。
次回、「成長循環モデル」を現場チームで展開していく際、従来の「PDCAサイクル」よりも親和性が高い、現場で成果を出し続けるための意思決定の作法 「OODAループ」 との接続についてお話しします。組織成長の作法を、実務を加速させる最強の武器に変える最後のステップです。ぜひご期待ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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