仕事のプロ

2017.04.17

日本的な人材の流動化を促進する企業間『レンタル移籍』〈後編〉

レンタル移籍による、人材育成の効果

イノベーション人材の育成などで、名だたる大企業に注目されている企業間の『レンタル移籍』サービス。前編では、企業にとってのサービスの魅力について触れたが、後編ではレンタル移籍する人材にとってのサービスの価値について、具体的な事例をもとに伺った。後編も、前編に引き続きサービスを立ち上げた株式会社ローンディール代表取締役社長の原田未来さんに話しをお聞きした。

"人を介して、新たなビジネスが創出される"
そんな企業間の関係を構築していきたい

「大企業が人材を出向させ、ベンチャー企業が受け入れるというニーズが目立ちますが、決してそれだけではありません。ベンチャー企業から大企業へのレンタル移籍もあるでしょうし、弊社の事例ではありませんが地方自治体がベンチャー企業に出向させているという事例も出てきています。今後はIT企業と非IT企業や、海外企業と国内企業、都心の企業と地方の企業など、さまざまなカタチが考えられます。そのためにも、今はレンタル移籍した人たちが成長し、自社に戻ったときに活躍できるように、しっかりサポートをしていくことが大切だと思っています」

将来的には、この人材の交流を通じて、企業間でビジネスが繋がっていくような関係を構築していきたいと考えているという。
「大企業のM&Aにより、萎んでいくベンチャー企業をいくつも目の当たりしてきました。その理由はいろいろと考えられますが、1つにはカルチャーの違いがあると思います。お金を出してから、相互の交流が始まっていく既存のやり方ではなく、この出向制度を活用すれば、両企業の文化を知っている人(通訳者)を介して、交流を行うことができます。これまでの通訳者がいない状態とは違い、協業もやりやすくなるはずです」

そして、原田さんが目指すのは『日本的な人材の流動化』である。
「アメリカのシリコンバレーがやっているから、日本もこうすべきだという考えはやっぱり違うと思うんです。日本の企業は、企業と人との長期的な信頼関係に基づいて事業やサービスを生んできたという背景があります。自分たちのやり方を単純に捨ててしまうのはもったいないと思うんです」

日本は、『500年続いている老舗企業が、世界で一番多い国』と言われている。そういう日本ならではの良さを活かしながら、個人が成長できる環境をつくっていきたいという原田さん。
「このことはいろんな方々と話をしていくなかで、気づいたこと。全ての企業や個人にとって私たちのやり方が当てはまるとは思っていませんが、働くということに関する選択肢が増えることによって、自身のキャリアをポジティブに考えられる人が増えたらいいなと思っています」


原田 未来(Harada Mirai )

株式会社ローンディール代表取締役社長。小売業者向け卸サイトを展開するITベンチャー企業にアルバイトとして入社し、部長まで昇進。その後、さらなる成長を目指して大手ベンチャー企業に転職し、新規事業に携わる。しかし、自身のキャリア構築を通じて、オープンな人材交流の場の必要性を感じ、2015年9月に「レンタル移籍」サービスをスタート。現在は、参加企業の拡大や出向者の成長のサポートに注力している。新たな働き方・人材開発の手法として注目を集めており、セミナーやイベントなどでの登壇も多数。

文/西谷忠和 撮影/石河正武