レポート

2016.06.06

ビジネスモデル・キャンバスでイノベーションを起こす〈後編〉

イヴ・ピニュール氏が語る、新しいビジネスモデルを成功させるには

去る4月5日、多摩大学大学院と、品川エリアの企業がコラボレーションして、都市型のイノベーションを考え発信していく場として「品川塾」のオープニングイベントが開催された。約300名の参加者が集まる中、基調講演者は、『The Business Model Canvas(ビジネスモデル・キャンバス)』の共同開発者として世界的に著名なスイス・ローザンヌ大学教授/多摩大学大学院グローバルフェローのイヴ・ピニュール教授。ビジネスモデル・キャンバスの重要性や、世界での活用例などを紹介してくれた。

ビジネスモデル・キャンバスは
視覚的でとってもシンプル

ビジネスモデル・キャンバスは9つの構築ブロックがある。①Customer Segment(顧客セグメント)②Value Propositions(価値提案)③Channels(チャネル)④Customer Relationships(顧客との関係)⑤Revenue Streams(収益の流れ)⑥Key Resources(キーリソース)⑦Key Activities(キーアクティビティ)⑧Key Partners(キーパートナー)⑨Cost Structure(コスト構造)。
 
 
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「まず、顧客セグメントと価値提案をズームし、『誰にどんな価値を得てもらうのか?』『自分にとても利益が出るのか?』を考えます。既存のビジネスモデルの範疇だけで考えていても、競争が激化するだけです。『お客様は誰なのか?』『既存のお客様以外に誰がいるのか?』『お客様は毎日、何をやっているのか?』を考え、それに対して価値提案をするのです」
 
そして、このツールを使って立てた仮説がそのままビジネスになるわけではないという点をイヴ・ピニュール教授は何度も強調した。
 
「仮説を立て、顧客に聞き、改善していく。そして、必要であれば方向転換すること。その行動があってこそ、キャンバスが生きます。社内だけで作っても、それは仮説の塊です。仮説をテストしてみることで顧客の行動や思考を把握し、改善させていきます。『支払えるだろう』ではなく、『支払う心算があるか?』といった、顧客の支払い意欲まで測定し、キャンバスに何度も修正を加えていくのです」
 
ここに紹介したネスレなどの3社が、このキャンバスをもとに正しいビジネスモデルを生み出せた、その共通点とは何だったのだろう?
 
「競合他社を後追いするモデルではなく、また、単なる製品のイノベーションに止まってもいないこと。どれも、製品とともに、サービスを生んでいます。また、新しいビジネスモデルとして世に送り出すまでに、何度もテストを繰り返し、成功できると思えるまで高めていく。長期的な目で新しいビジネスをつくっていくと、かなり面白い結果が出るんです」
 
 

イヴ・ピニュール(Dr. Yves Pigneur)

スイス・ローザンヌ大学教授/多摩大学大学院グローバルフェロー。ビジネスモデル・イノベーションの世界的権威。21世紀の戦略とイノベーションに革命的な影響を与えているスール「ビジネスモデル・キャンバス」をアレックス・オスターワルダー氏と共に開発。アレックス氏との共著『ビジネスモデル・ジェネレーション』(翔泳社刊)は、世界で100万部を越えるベストセラー。マネジメント思想界のアカデミー賞といわれる、世界で最も影響力のある経営思想家50人を選ぶ「THINKERS50」の最新ランキングで15位(2015年)。同時に、戦略部門の部門アワードも受賞。最新作は、魅力的な顧客価値を作る指南書『バリュー・プロポジション・デザイン』 (翔泳社)。

文/坂本真理 写真/栗木妙