2021.6. 8[ WORK TRANSFORMATION ]

コロナをきっかけに、
自らリスクを見つめ関わる社会に
~大木 聖子 氏 インタビュー~

コロナをきっかけに、自らリスクを見つめ関わる社会に~大木 聖子 氏 インタビュー~ コロナをきっかけに、自らリスクを見つめ関わる社会に~大木 聖子 氏 インタビュー~

大木 聖子 氏
地震学者
慶應義塾大学環境情報学部准教授
専門は地震学・災害情報・防災教育。内閣府や内閣官房の防災に関する複数の委員会のメンバー。著書に『地球の声に耳をすませて』(くもん出版)、『家族で学ぶ地震防災はじめの一歩』(東京堂書店)など。

コロナをきっかけに、今まで漫然と行っていた
避難訓練を見つめ直す学校も

 専門分野である地震学への知見を軸に、地震や水害など自然災害に対する防災について研究し、小中学校などの教員に研修や指導を行ったり,各学校へ伺っての防災教育を出前授業したりしています。コロナ禍が始まった2020年からは、南海トラフ沿岸域などの地域でフィールドワークを行うことが難しくなったり、勤務している大学の授業がオンライン化されたりと、研究にも仕事にもさまざまな影響が出ているのが実情です。小中学校も、休校の対応や各行事の実施判断などで先生方が非常に忙しく、防災教育にあまり時間をとれない状況が続いています。

 ただ、コロナ禍をきっかけに、プラスの変化も少なからず起こっています。例えば防災教育に関して、「避難訓練では生徒たちが一斉に校庭へ出る必要があるが、そのときに"密"が生まれやすい」と躊躇する学校が多くありました。しかし実際には、耐震基準に沿って堅牢につくられている校舎から、わざわざ転倒リスクのある階段や危険がいっぱいの昇降口を通って校庭へ出て行く必要はないのです。コロナ禍による環境変化は、今まで意図を考えず漫然と行ってきた訓練の意味を問い直すきっかけになっています。

 

授業のオンライン化によって
学生とのコミュニケーションがインタラクティブになった

 大学での授業も、キャンパスの教室で行っていたときは、学生から質問が上がってくることはほとんどありませんでした。しかしオンライン授業に切り替えてからは、チャットで質問をしてくる学生が増えたので、以前よりインタラクティブなコミュニケーションができるようになりました。

 ただ、少人数で議論するスタイルのゼミなどでは、コミュニケーションスキルやゼミへの慣れによって、以前よりも距離を感じることもあります。また、ちょっとした雑談によって親しくなる機会も失われました。このあたりに関しては、私も学生もよりよい方策を模索中です。

 防災に関しては、コロナ前より充実した備えができている世帯が増えてきたのではないかと思います。特に首都圏をはじめとする都市部では、以前は「何かあったら地域の避難所へ行こう」という方が多く、ご自身で水や食料、携帯トイレをしっかり準備する方は、東日本大震災が遠くなるにつれ、少なくなっていたと思います。しかしコロナ禍によって、「コロナが蔓延している状況で避難所生活はしたくない」と考え、備蓄に取り組む人が増えたように感じています。

 

一人ひとりがリスクと対峙するようになる
契機の一つが今回のコロナ禍

 2030年の時点から2020年代初頭のコロナ禍を振り返ったとして、「あの経験をきっかけに日本人は、一人ひとりが責任を持ってリスクと対峙しなければいけないということを学んだんだな」と思えるようになっていればいいな、と私は感じています。

 東日本大震災では、多くの人が「科学の力をもってしても予測できないことはたくさんある」と感じ、リスクヘッジの重要性を痛感したはずです。今回のコロナでも、世界中が「科学予測だけに頼りすぎる危うさ」を改めて知ることになりました。

 コロナを収束させるために、現在多くの専門家がリアルタイムで知見を得ながら最善の方法を模索しています。しかしそれが必要なのは専門家だけではありません。これからは一人ひとりがさまざまな方法で情報を得ながら、いずれの情報が正しいのかを判断し、行動に生かしていくべきなのです。いわば、国や自治体がつくる安全指標を、市民の一員として一緒に管理していくわけです。私自身も、これまでは地震や津波などの知見をお教えする側に立つことが多かったのですが、今回のコロナ禍ではいろいろな情報をキャッチし、一つひとつ判断する立場として行動しています。

 

リスクと向き合う労力や
価値観のアップデートも意識した働き方を

 初めて防災活動に取り組んだ人は「今自分が暮らしている環境には、これだけいろいろなリスクがあるんだ」と知って一度不安を感じることが多いようです。しかし、さまざまなリスクを知ったうえで、家具を固定したり、備蓄品を揃えたりして備えをする中で、「リスクは自分の力で低減していくことができるんだ」と感じてくる。耐震基準などに加えて、自分もリスクヘッジの一端を担っている、ということが大きな安心感や自己効力感につながっているのではないかと感じます。

 コロナに関しても、情報を集めていくと一度は不安になるかもしれませんが、自分であれこれ考えて,それをまた検証することは安心につながるのではないでしょうか。このように、一人ひとりがリスクと向き合いコミットする、そんな社会が実現していればいいな、と感じています。

 リスクと向き合うには、覚悟と余白やゆとりが必要ですし,自分の価値観を日々アップデートしていくことも求められます。「働く」を大切にすることはもちろんですが、リスクヘッジのための「基礎体力」をつける時間も、私たちはこれから確保していくべきではないでしょうか。

今回は、大木聖子氏のインタビューをご紹介させていただきました。

他にも20201年間のデータでの振り返りから、1stプレイス、2ndプレイス、3rdプレイス各企業の実例、感染症やワーク・エンゲイジメントなどの有識者へのインタビューなどをまとめ、様々な視点から熟考と判断を「WORK TRANSFORMTION vol.3」にまとめました。ぜひご一読いただき、これからのオフィスづくりご検討にお役立てください。

 下記の「ダウンロードボタン」よりダウンロードをお願いいたします。

 

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