COLUMN01
「OCHANOBA」
©FUMITO SUZUKI
日販グループホールディングス様は、グループのルーツである取次事業をはじめ、
小売、海外、雑貨、コンテンツ、エンタメの各事業や、ブックホテルやグリーンの新規事業、
シェアードサービスやITのグループ共通機能など、各分野に事業領域を拡大して、成長を続けています。
2023年には、日販グループ様の新たなヘッドクォーターオフィス「OCHANOBA(オチャノバ)」が誕生。
ワークプレイスでありながら、ショールーム機能を兼ねた新たな形のオフィスとして注目を集めています。
今回は、オチャノバの設計デザインをおこなったコクヨが、オチャノバ運営チームの植木様と奈良部様にインタビューを実施。
オチャノバの魅力や、空間が社内にもたらした良い影響などについて話を伺いました。
植木 大志様
UEKI TAISHI
日本出版販売株式会社
プラットフォーム創造事業本部
地域事業開発チーム
マネージャー 兼 株式会社ひらく
文喫事業統括(法人営業担当)。
オチャノバプロジェクトプロデューサー。
奈良部 紗羅様
NARABU SARA
日本出版販売株式会社
プラットフォーム創造事業本部
地域事業開発チーム
兼 株式会社ひらく 公共プレイスチーム
アシスタントディレクター。
オチャノバプロジェクト運営管理担当。
インタビュアー
値賀 千尋
CHIGA CHIHIRO
コクヨ株式会社
グローバルワークプレイス事業本部
ビル・エリアリノベーション室
植木様
コロナの影響で出社と在宅のハイブリッドワークが主流になり、社員同士のコミュニケーション低下が当社の課題となっていました。部署間や社員間の連携を生み出し、イノベーションが起こるような環境を作りたいと考え、プロジェクトが立ち上がりました。
値賀
社内だけではなく、地域や出版業界全体を盛り上げたいという想いもあったと伺いました。
植木様
オチャノバは、社外パートナーとの“共創”の機会を生み出す場にしたいと考えていました。周辺の出版社様や書店様ともより一層連携を深められるような、地域にひらかれたオフィスを目指し、コクヨさんにご相談した次第です。
値賀
どういう点で、コクヨを選んでいただいたのでしょうか。
植木様
一番の理由は、メンバーの方々と一緒に働きたいと思ったからです。ともにプロジェクトを進めていく仲間として、常に寄り添い、さまざまなアイデアを考えてくださるところに心強さを感じました。コクヨさんは、空間を作って終わりではなく、作ったあとにどう使ってもらうかという観点から、逆算してご提案をいただけたのが印象的でした。「ここまでやってくれるんだ」と驚きでしたね。
©FUMITO SUZUKI
植木様
現在のオチャノバは、日販オフィスの6フロアの中間地点である7階にあるのですが、最初は10階の役員フロアを改修することを想定していました。当初は意思決定の場となる役員フロアをより多くの社員に親しまれる、カジュアルな場所にしたいという想いがありました。その中で、より従業員のためになることは何か、と考えていったときに、「役員フロアにこだわらず、もっとフラットにみんなが集まれる場所を作ったほうがいいのではないか」という結論に至りました。コクヨさんにも案を練り直していただき、ご迷惑をおかけしました。
値賀
コクヨのメンバーは、いただいたお題に対し「どうすればよりよいものにできるか」というのを徹底的に考えるのが好きな人ばかりなので、楽しみながら代案を検討させていただきました。ちなみに、コクヨの提案で気に入っていただけたものはありましたか?
植木様
ワクワクするものばかりでしたね。坂が多い御茶ノ水~神保町周辺の地形をイメージして、室内にゆるやかな段差をつけていただいたり、古紙や枯れ葉を活用したサステナブルなテーブルもお気に入りです。当社が掲げるESG経営を意識したアイデアが散りばめられており、とても素敵だと思いました。また、配信スタジオもコクヨさんの提案で導入しました。正直なところ、僕はあまり使わないだろうなと思っていたのですが(笑)今ではとてもよく活用されています。ポジティブな意味で、意外でした。
値賀
それは安心しました(笑)。配信スタジオはどのように使っていただいているのでしょうか。
奈良部様
昼休憩の時間帯に、有志の社員がラジオを放送しています。おすすめの書籍の紹介をしたり、後輩が先輩をゲストに招いて結婚事情を聞いてみたり(笑)。ほかにも、オチャノバのイベント開催時に機材ルームとして使用したり、外部のラジオ収録に使っていただくこともあります。
古紙を再利用したテーブル。周辺地域の駅や建築物のタイルをイメージした柄になっており、模様が一つひとつ異なる。
選書した従業員による推薦コメントが記載された栞。
植木様
本を扱う会社なので、ライブラリースペースがほしいというニーズが以前からありました。そこでオチャノバには、グループ会社の株式会社ひらくが手掛ける本屋「文喫」と、プロデュースに携わるホテル「箱根本箱」のブックディレクターが選書する本棚に加え、社員や社外のパートナー企業の方が選んだ1冊が並ぶ「1000人の本棚」を設置しました。1000人の本棚は、なかなか自分ごと化するのが難しいオフィスリニューアルにおいて、社員をどうオチャノバプロジェクトに巻き込んでいくか考える中で生まれた企画です。コクヨさんからもヒントをいただきつつ、社員に向けた選書ワークショップなどもおこないました。選書した本には、従業員本人による推薦コメントや所属部署・氏名が記載された栞カードが挟まっており、間接的なコミュニケーションが生まれるきっかけにも繋がっています。
奈良部様
ライブラリースペースは、来社された方々にも興味を持っていただけています。日販が本の会社であることを体現する、当社の顔ともいえるゾーンになっていますね。ほかにも、オチャノバのいたるところに日販グループの商材が置かれています。空間を彩るグリーンは日本緑化企画株式会社、インテリアや雑貨は株式会社ダルトン、カフェスペースの隣にあるいちごのファームは当社新規事業「City Farming」のものです。オチャノバは各事業部のショールーム機能も担っており、社外の方々に自社商品を知ってもらうきっかけになっています。
植木様
この場で商談をすることにより、想像以上に成約に結びついています。オチャノバがビジネスに繋がっているのは、運営チームとしても嬉しいですね。
植木様
時代の流れもあると思いますが、出社率が上がり、コミュニケーションが圧倒的に増えました。オチャノバがあることで、普段はあまり関わりのない部署の人同士が顔を合わせたり、グループ会社の社員が本社での用事のついでに立ち寄ってくれたり。社員や関係者がオチャノバをカジュアルに利用し、そこに会話が生まれています。オチャノバは、当初目指していた理想に限りなく近い空間になっていると感じます。
奈良部様
また、オチャノバでは年間100本以上の研修・セミナー・イベントなどが開催されており、それもコミュニケーションが活性化する場となっています。たとえば、日販ともお取引のあるボードゲーム専門店様と連携して、毎年夏に実施するボードゲーム大会では、部門や年次の垣根を越えた幅広い交流が生まれています。 また、専門性を持つ社員が、スキルアップに繋がる知識や情報をシェアするイベントも定期的におこなわれています。
ボードゲーム大会の様子。若手からベテランまで、参加者全員が総立ちで大盛り上がり。
値賀
年間100本以上とはすごいですね。社員同士が仕事の知識を教え合う風土は、もともと企業に根付いていたものなのでしょうか?
植木様
もともと、従業員の学びの場を作りたいという課題があり、オチャノバのおかげでそれを実現することができました。現在、オチャノバでおこなわれているイベントの約半数は、社員からの持ち込み企画です。場所ができたことにより、社員の間でさまざまなアイデアが生まれるようになったのも、良い変化のひとつだと思います。
植木様
どちらにおいても効果がありました。人事担当からは「自分にとって働きたいと思えるオフィスがあるのは、採用面において大きくプラスになる」と言われており、実際にオチャノバに訪れた就活生からも嬉しい声をいただいております。広報面では、世界三大デザイン賞のひとつとされる「レッドドットデザインアワード2023」と、ドイツのデザイン賞「ジャーマンデザインアワード2024」を受賞し、注目していただく機会が増えたと思います。さらに、経産省による書店振興プロジェクトの車座の会場としてオチャノバを使っていただいたことで、多数のメディアにも露出しました。最近では、自治体が新たな公共施設を作る際に、オチャノバのデザインや使われ方をベンチマークにしてくださることもあります。
値賀
素晴らしいですね。何よりも、社員の皆さんがオチャノバに愛着を持ち、楽しく活用してくださっていることに感動しました。
値賀
最後になりますが、日販グループさんのように会社全体を巻き込みつつ、円滑にオフィスリニューアルプロジェクトを進めるためにはどうすればよいのでしょうか。
植木様
とにかく、丁寧に会話をしていくしかないと思います。僕たちは、オチャノバ完成までの進捗状況を数十回に分けて社内報で発信したり、カフェメニューのアンケートを実施したり、毎年グループ各社が参加する全社会にてお披露目会を実施するなどしました。また、運営も有志ではなく、メンバーを決めて、業務の一環としてチームで取り組んだのがよかったのだと思います。
奈良部様
完成後も、一年目はすべて手探りで進めていました。イベントを企画しても「やります。参加してください」だけでは人が集まらない。そこで、イベントの登壇者側にいろいろな部門の社員をどんどん巻き込んでいきました。「自分たちが企画者になってもいいんだ」とわかってもらえるようになり、そこから問い合わせが増えていきましたね。みんなで使う場所なので、一方的にならないことが大切なのかもしれません。
| 所在地 | 東京都千代田区 |
|---|---|
| 竣工 | 2023.02 |
| 規模 | 1017㎡ |
| 施主 | 日販グループ |
| 設計 | コクヨ 髙橋絵里 針村展輔 |
| PM | コクヨ |
| 協力 |
植栽 日緑 家具ディスプレイ DULTON ライブラリ選書 文喫 照明 HIBIKI サイン DELICIOUS COMPANY |
| 施工 | ザイマックス コクヨ |
| Red Dot Design Award Winner |
|---|
| German Design Award Winner |
| Sky Design Awards Shortlist |
| MUSE Design Award Silver |
| 日本空間デザイン賞 Longlist |