COLUMN02
「o-i STUDIO」
©小川真輝
明治20年創業の三菱鉛筆株式会社様。
誰もが一度は手にしたことのある筆記具の製造販売を中心に、化粧品や産業資材など多岐にわたる事業を展開しています。
2022年、創業150周年を迎える2036年を目標に「ありたい姿2036」を公表。
長期ビジョンを体現する一つのチャレンジとして、2024年に「o-i STUDIO」を設立しました。
今回は、o-i STUDIOの空間設計をおこなったコクヨが、o-i STUDIOプロジェクトの担当者である江藤様にインタビューを実施。
こだわりの設備や、場づくりがもたらす効果などについて伺いました。
江藤 菜美子様
ETO NAMIKO
三菱鉛筆株式会社経営企画部。
オンラインレッスンサービス「Lakit」
のシニアコンテンツディレクターと、
表現の体験型空間「o-i STUDIO」の
プロジェクトオーナーを担当。
インタビュアー
値賀 千尋
CHIGA CHIHIRO
コクヨ株式会社
グローバルワークプレイス事業本部
ビル・エリアリノベーション室
江藤様
「ありたい姿2036」は、創業150年にあたる2036年までの長期ビジョンでして、「生まれながらにすべての人がユニークである」という信念のもと、“書く・描く”を通じて、世界中の人々の個性と創造性を解き放つ「世界一の表現革新カンパニー」となることを目標にしています。また、コーポレートブランドコンセプトとして「違いが、美しい。」を掲げ、一人ひとりの“ユニーク”を輝かせ、世界を彩ることを目指しています。
値賀
長期ビジョンの達成にはさまざまなアプローチ方法があると思うのですが、なぜo-i STUDIOの設立に踏み切ったのでしょうか。
江藤様
筆記具メーカーとしての枠を超え、表現という体験価値の提供に取り組む中で、リアルな場だからこそお客様と直接共有できる情緒的な価値があるのではないかと考えたからです。空間の中では、目に映る色や香りが一人ひとりの感性に働きかけ、その結果が筆跡に表れます。そうした多様な表現が交わる環境を整え、多くの方の個性や創造性の発揮をサポートする機会になれば、と考えました。
筆記具と紙があることで、そこに体験が生まれ、表現が広がっていく。新しい価値を提供できる場所を作るという目的のもと、o-i STUDIOプロジェクトが発足しました。ちょうど、こちらのスペースの活用を検討していた時期とも重なり、プロジェクトが始まってからコクヨさんに相談するまでに、あまり時間はかかりませんでした。
ステーショナリースタンドから、好きな文具を手に取って、さまざまな表現を楽しむことができる。
ロール状の紙がそのままテーブルにつながっているお絵描きテーブル。
江藤様
単純な理由ではありますが、コクヨさんのご提案を伺ったときに、すごくワクワクしたので、お願いしたいと思いました。最初のご提案の時点で、現在のo-i STUDIOにあるお絵描きテーブルや、実際の鉛筆を使用して作られたステーショナリースタンドなどのアイデアが含まれており、設計とデザインに感銘を受けました。私たちがこの場所に込めた想いについて、ご理解いただけていると感じました。
また、地域の皆様に向けた空間づくりは初の試みでしたので、最初は右も左もわからず、場所ができあがった後の運営に不安がありました。ですが、結果的にいま、施設に使いづらさを感じていないのは、コクヨさんと一緒に考えてつくり上げた空間だからだと思います。
jiyugaoka roasteryのコーヒー豆を購入し、香りを楽しみながらハンドドリップができるカフェエリア。手前の注意書きは、o-i STUDIOに遊びにいらしたお子様の手作り。
値賀
私たちの働く「THE CAMPUS」というオフィスでは、どなたでもご利用いただけるパブリックエリアを自社で運営しているのですが、実際にオープンするまでは「本当にお客様が来てくれるのかな」と不安を抱えていましたので、皆様のお気持ちはよくわかります。
江藤様
o-i STUDIOの定番コンテンツである、オリジナルのインクづくり体験「Pen FAB.」も、オープン前にコクヨの皆さんに体験していただきましたよね。実際に楽しんでいただいたことで、体験づくりのヒントや励みになりました。
江藤様
多いときには1日で100名を超えるお客様にご来場いただくこともあります。お客様の層は、親子連れの方がおよそ半数を占めています。
値賀
お客様からの反応はいかがでしょうか。
江藤様
お客様アンケートによりますと「三菱鉛筆が親しみやすくなった」「表現活動を応援してくれる企業だと思った」など、多くの方が、当社に対してポジティブな変化を感じてくださったことがわかりました。一方で、ネガティブな反応はほとんどありませんでした。
値賀
それは私たちとしても嬉しいお声です。お客様からの評判が特によい設備は何ですか?
江藤様
やはり、ステーショナリースタンドとお絵描きテーブルが人気ですね。ステーショナリースタンドで、木や墨芯の香りを感じながら、鉛筆やペンの書き味に触れる。すると、文房具にまつわる個人の思い出が自然と引き出され、コミュニケーションが広がっていく。情緒的価値を提供できる場であり、施設の顔ともいえる存在になっています。
お絵描きテーブルでは、いつもお子様たちの想像力に驚かされています。たとえば、ロール紙が垂れている部分をスキー場の斜面に見立てて、スキーをする様子を描いたり、ポスカのさまざまな色を使って、紙いっぱいにカラフルな数字をぎっしり書いてみたり。「文房具を使ってこんな表現ができるんだ」と、お子様たちから学ばせていただくことがたくさんあります。
値賀
社員の方々も、o-i STUDIOによく足を運ばれていると聞きました。お客様との交流の場にもなりそうですね。
江藤様
本社オフィスとの近さは、 o-i STUDIO にとって重要な要素になったと思います。社員がここに来れば、お客様のリアルな声を直接聞き、描いたものを見ることができます。気分を変えてアイデア出しをする場としてもちょうどいい距離感ですし、社員が刺激を得られる空間としても機能しています。
撮影:井上ユリ
江藤様
o-i STUDIOを活用して、新しい挑戦をする社員が増えています。商品のファンミーティングや、新商品を用いたワークショップをおこなうなど、場ができたことにより「こういうことをやってみたい」という声が上がるようになりました。“体験をつくる”ということについて、社員が考えるきっかけになったと思います。
値賀
採用や広報においてプラスになったことはありましたか?
江藤様
o-i STUDIO のことを知ってくださっている就活生が多いようで、面接の際に話題にのぼることがよくあると聞いています。ちなみに、当社には新入社員が小刀で鉛筆をけずる「鉛筆けずり入社式」という恒例イベントがあるのですが、2024年はお披露目もかねてo-i STUDIOで実施しました。その後、新入社員の子から「o-i STUDIOは、三菱鉛筆のありたい姿を体現している空間だと思いました」というメールをもらったことが印象的でしたね。
広報面でいうと、o-i STUDIOの場でテレビや雑誌の取材をしたいという依頼もいただいています。「ありたい姿2036」について発信する機会にもなっており、あらためて場づくりの意義を感じています。
値賀
場ができたことにより、ポジティブな広がりがたくさん生まれているのですね。最後に、今後この場所でさらに挑戦したいことがあれば教えてください。
江藤様
今後は、クリエイターの方々との取り組みを積極的におこなっていきたいです。昨年の秋にアーティストの方によるライブペインティングが行われたのですが、作品ができるまでの工程を見て「こうやって描いているんだ!」と、表現について学ぶ機会になりました。アーティストの方も、ファンの方と直接会話ができる貴重な機会を楽しんでいらっしゃったようです。このように、表現を通して新たな発見や交流が生まれることが、o-i STUDIOの理想形だと感じました。クリエイターの方々の発信の場となり、お客様が新しい表現と出会える場になれば嬉しいです。
| 所在地 | 東京都品川区 |
|---|---|
| 竣工 | 2024.04 |
| 規模 | 107.8㎡ |
| 施主 | 三菱鉛筆 |
| 設計 | コクヨ 髙橋絵里 花田陽一 小副川玲奈 |
| 協力 |
設備設計 コクヨ 石井宏侑 グラフィック コクヨ 佐々木拓 鳳崎優和 |
| 施工 | コクヨ |
| Red Dot Design Award Winner |
|---|
| 日本空間デザイン賞 銀賞 |
| iF DESIGN AWARD Winner |
| Dezeen Awards Longlist |