[SPECIAL]

【東京都港区】本庁4F企画経営部企画課のパイロットオフィス構築

(後編)変化を受け入れて、自ら答えを探しに行く働き方を

千代田区、中央区と共に都心3区と位置づけられる港区。人口減少が加速化している地方自治体とは対照的に、今後も人口の増加が見込まれる港区において2018年7月、オフィス改革が行われました。フリーアドレスの執務環境実証実験として行われたそのオフィス改革は、港区本庁4F企画経営部企画課をパイロットオフィスとして改修・実証実験を行うというもの。今回はその企画経営部企画課において、パイロットオフィス構築の担当者として奮闘された港区企画経営部企画課の清水雅美氏にお話を伺いました。本コラムではフリーアドレス運用の効果や改修後半年が経過した現在の姿について、ならびにフリーアドレス導入の経緯や担当者としての思いについて、語って頂いた内容を2回に分けてご紹介します。

港区企画経営部企画課 企画担当係長兼務 企業連携推進担当係長  清水 雅美 氏

パイロットオフィス構築の担当者として、感じた課題や手ごたえについて教えてください。今回の改修は短期間で行われたとのことでしたが。

清水氏:そうですね。検討開始から改修までを約2ヶ月半の間に行いました。非常に短期間で方針を立てて予算を確保して準備を進めるということをして、正に怒涛の日々でした。何より庁内が「フリーアドレスってそもそも何?」というところから始まったので、庁内の理解を得るところも含め、鍬一本で開拓しているイメージを持っていただけたらと思います(笑)こんなこと出来ないのではと、正直何度も思いました。

最終的には自治体のオフィス改革でもあまり例がない、フリーアドレスの導入に踏み切ることができました。その決め手はなんでしたか?

清水氏:やはり危機感だと思います。私自身は、変わらなければいけないという危機感を常に持っていました。先ほど、固定席で書類を積み上げると巣にこもってしまいがちになるというお話をしましたが、周囲で起こっていることに気づけなくなってしまうと、新しいことにも目が行かなくなってしまいます。巣の中で考えをまとめてしまうのではなく、巣から出て、日々変化する環境で業務を行うことで自身の頭を整理できます。そして周囲を見られるようになることで、今自分が一体どういう状況なのかを客観的に見られるようになります。ですからオフィス改修によって残業抑制効果が見られたことも、職員が周囲で起こっていることに気づけるようになったということの表れだと思っています。

危機感をお持ちだったとの事ですが、どういった場面で感じていらっしゃいましたか。

清水氏:私は現在企画課で企業連携を担当しています。港区には大きな企業も数多くあるので、そういった企業から対応を求められる機会は多く、またその際の要求水準は高いです。港区としてそういった企業と連携する際、区役所だけ今まで通り、では通用しないと日々感じていました。私個人としては、"オープンマインド"が一つのキーワードだと思っていて。新しいものを知り、受け入れて、何が区民サービスにつながるかを自分で探さなければ、取り残されてしまう時代です。ですから、そういった意識でいられる執務環境は絶対に必要だと思ったのです。

今回の改修によって、非常にオープンな執務環境になりました。意識調査でも新しい執務環境に対しては全員がポジティブな回答をしていますが、一方で「以前の働き方に戻りたいか」という問いに対して「たまにそう思う」という回答も少数見られました。こちらについては、どう感じていらっしゃいますか。

清水氏:今回フリーアドレスを導入するまで、執務デスクは長らく固定席でした。ベテランの職員ほど、執務環境の変化には戸惑ったでしょう。現在企画課では二名のインターン生を受け入れていますが、その二人は初めての職場がフリーアドレスということになります。彼らはすぐにこの環境に慣れたようです。ですからフリーアドレスが働きやすいかどうかというよりは、今までの習慣から大きく変わるということに対して意識の切り替えができるかどうかが問題なのだと思います。オフィスを改修して半年経過しましたが、これは今まで固定席で過ごしてきた時間からしたら、まだたったの半年と言えます。企画課職員全員の心が今の働き方に追いつくには、まだ時間が必要でしょう。ただ、今回は課長の理解がフリーアドレス定着の大きな後押しになりました。私の上司である課長は基本的に、やりたいと言った事は全面的に支援してくれるので、今回も立ち会議やフリーアドレスなども自ら積極的に取り入れて課内の雰囲気作りをしてくれています。それは非常にありがたいですね。

電動昇降デスクで業務を行う課長。他部門の職員にも積極的に説明しているとのこと

管理職の理解というのも、オフィス改革の重要なキーワードですね。では、変化を受け入れるといった他には、どのような意識改革が必要だと感じましたか?

清水氏:効率化することへの意識改革でしょうか。効率化自体を目的に据えてしまうと、職員によっては「自分の仕事を軽減しているように見られるのでは」という後ろめたさから効率化が進まないということも考えられます。ですから効率化を目的とするのではなく、クリエイティブな業務を行うための効率化という動機付けを一人ひとり意識できるようにしていなければいけないと感じています。

業務の見直しや効率化は、行政にとって非常にハードルが高いように感じます。

清水氏:おっしゃる通り、やるべきことは増え続けます。本来であれば新しい事業を生み出す分、今までの事業を整理して、自分の業務負担を変えていかなければなりません。しかし、今まで積み上げてきたものをやめるという判断は非常に難しいです。港区でも、新規事業など新しい取り組みへの動きはありますが、その実現には今までの事業の整理や効率化が不可欠でしょう。

そういった意味では、今まさに庶務的な業務を委託して 、自分たちがいろいろなことを考えていくべき過渡期なのではないでしょうか。そして新しい環境で、クリエイティブに考えられる執務環境や業務体制を考えていく時期なのだと思います。

今回のオフィス改修を経て、清水さんが目指したい港区の姿とは何でしょうか?

清水氏:今後人口が減り続ける時代において、選ばれる自治体になりたいと思っています。港区ブランドという言葉もありますし、ありがたいことにかっこいい街、きれいな街といった認知もしていただいています。そういった状況にありますが、暮らす場所として港区を選んで頂く際に、職員の取り組みや、自治体として魅力があるからという理由で選んでいただけるようになりたい。庁舎に来ていただいた方には、目的のサービスだけでなく、それ以上のものを持って帰ってもらえるようなサービスを心がけたい。私自身は「港区が好き」「港区をよくしたい」という気持ちがモチベーションになっていますし、そういった気持ちの職員を増やしていけたらと思っています。

それはまさに、西予市のオフィス改革を先導された仲教授がおっしゃっていた、エンゲージメント(仕事にやりがいを感じ、ワーカーと組織の目指すべきゴールが近しい状態のこと)という考えですね。

清水氏:そうなのだと思います。私自身はパイロットオフィス構築の担当者であると共に、組織としてこういった取り組みを続けていくための下地を作る役割なのだと思っています。今回の取り組みが「企画課だから実現できた」で終わってしまうのは本意ではありませんし、こういった改革を実現できるのは担当者の能力によると切り捨ててしまっては改革も続かない。今後もし担当者が変わったとしても、やり方を工夫して取り組み続けることで通年化できれば、きっと組織が変わっていくと信じています。それが、今も私が鍬一本で耕し続けている意味だと思っています(笑)

「港区愛を持つ職員を増やしたくて、以前から人材育成にも興味があるんです」と語る清水氏

今回パイロットオフィス構築を担ったことで、清水さんご自身の意識や行動の面に変化はありましたか?

清水氏:就業後に、勉強会やさまざまな人との交流の場に参加するようになったことでしょうか。これまではあまりそういった活動に積極的になれない部分もありました。でも今はそういったイチ人間としての活動に前向きになったように思います。自身の知見を広げたり人を紹介したりということが、必ずしも日々の業務に直結するわけではありません。「何が出来るか」はまだわからない、けれど「何かできるかもしれない」と思えるようになったこと自体が、自身の心の改革かなと思っています。

※この事例は、2018年10月に取材したものです。

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