2025.12.08
【京丹後市】市民サービスの向上に繋げる新しい働き方への挑戦
今の課題に向き合い、未来への組織力を高める働き方改革 窓口改革の裏側
Overview
概要
京丹後市は、市役所(峰山庁舎)の建物増築、既存の峰山庁舎と大宮庁舎の改修による庁舎整備事業を進めており、2025年8月に増築した新たな庁舎「峰山庁舎2号館」での業務(暫定的)を開始。現在は、既存の峰山庁舎(1号館)と大宮庁舎の改修を進めています。庁舎整備事業では、建物増築と併せて、職員の働き方や窓口の改革にも取り組んでいます。市民が自由に使えるスペースを新たに設け、職員が働きやすいだけでなく、市民に開かれたこれまでの庁舎空間にない「新しい庁舎」へと生まれ変わりました。
京丹後市 建設部 都市計画・建築住宅課 都市・地域拠点整備推進室の井上浩一 前室長(現在は建設部 都市計画・建築住宅課 課長)をはじめ、プロジェクトを中心に進めた担当者の皆さんにお話を伺いました。
※令和4年度から令和6年度までは、都市・地域拠点整備推進室は市長公室政策企画課付けの組織。
京丹後市 建設部 都市計画・建築住宅課 課長 井上 浩一さん
京丹後市 建設部 都市計画・建築住宅課 都市・地域拠点整備推進室 主査 橋 智子さん
京丹後市 市長公室 人事課 主任 吉岡 弘樹さん
京丹後市 建設部 都市計画・建築住宅課 都市・地域拠点整備推進室 主事 楊川 優太さん
Interview
インタビュー
分散していた本庁機能を集約し、既存庁舎の改修及び増築する整備事業がスタート
「京丹後市は、2004年に、峰山町、大宮町、網野町、丹後町、弥栄町、久美浜町の6町が合併して誕生しました。合併当初から市役所の機能を旧・峰山町の峰山庁舎を中心に分散させる分庁舎方式をとっていましたが、市民の利便性向上や行政運営の効率化に向けて庁舎のあり方が問われるなか、2015年2月に本庁機能集約化基本方針を策定。本庁機能の集約化を軸に、庁舎の整備や再配置について検討を重ねてきました。
庁舎整備検討委員会の答申などを経て、最終的に本庁機能を既存の峰山庁舎・大宮庁舎に集約・改修することに加え、峰山庁舎敷地内へ増築棟を新築する方針の基本計画が完成。2022年5月に市長公室 政策企画課内に都市・地域拠点整備推進室が発足し、井上さんと楊川さんが配属されました。当時の状況について、井上さんは次のように振り返ります。
「議会での審議を経て、最終、3階建て延床面積約4,000平米と当初計画の約3分の2の規模で整備することとなり、また、整備事業の財源の活用期限が令和6年度(2024年度)までということで、規模や時間的に限りがあるなかでのスタートとなりました。」(井上さん)
そこから、都市・地域拠点整備推進室を中心に、「ワークスペース」「ペーパーレス・電子化」「総合窓口」の3つの領域でワーキンググループを設置。オフィスのあり方や職員の働き方、窓口改善の検討を含めた複合的なプロジェクトとして、庁舎整備事業が進められることとなりました。
視察を通してABWやフリーアドレスへの理解を深める
庁舎整備で最初の課題となったのが、限られた規模のスペースにいかに必要な機能・空間を収めるか。市長が本部長である庁舎増築棟整備推進本部により、井上さん、楊川さんやワーキンググループのメンバーたちは、コクヨのライブオフィスのほか、三豊市(香川県)、西予市(愛媛県)、守山市(滋賀県)、伊丹市(兵庫県)、渋谷区(東京都)、千葉市(千葉県)、奈良県庁、綾部市(京都府)などオフィス空間、DX、窓口と先進的な取組を実践している自治体に視察に訪れました。
「それまでは、デスクトップのパソコン、固定電話、紙が主体の仕事、机は自分の固有の領域…という働き方やオフィスのあり方に疑問をもっていませんでした。フリーアドレスと聞いても、固定席をやめてどこでも自由に使えるように既存の机を並べておけばいいんじゃないか…くらいのイメージでしたね。視察先で、業務の内容・目的やシーンに応じて働く場所を自ら選ぶABW(Activity Based Working)の考え方や、フリーアドレスの本質について学ぶなかで、書類などのモノではなく人を中心に何をどれだけ入れるのかを考えていかないと、4,000平米という限られた空間の中での部署の配置や職員が気持ちよく働くのは難しいだろうと考えるようになりました」(井上さん)
井上さん
パイロットオフィスでフリーアドレスの効果や職員の声を拾い、新しい働き方に必要な要素を検証
こうして、ワーキンググループでオフィスの目指す方向性などを組織で共通認識化を経て、フリーアドレスやABWの導入を目指し、パイロットオフィスとして、3拠点でフリーアドレスの執務空間の整備及び内線スマートフォンの運用を開始しました。面積は変わらないなかで、ABW要素の集中席や打合せ席を設けるため文書の配置先などを見直し、執務室内には原則当年・前年文書のみとするなど袖机の廃止などと併せてこれまでの働き方から大きく変えていきました。
「拠点の1つには、フリーアドレスのハードルが高いとされる窓口業務の多い部署も選定。360度カメラの設置やアンケート・ヒアリングなどを通して検証し、コクヨさんにもアドバイスをいただきながら試行錯誤を続けました。パイロットオフィスを運用してみてわかったのが、席数の確保がかなり重要だということです。職員数に対して100%の席数だと、椅子取りゲームのようになってしまって。そのため、新庁舎では執務席のほか業務に応じて使い分ける集中席や窓際カウンター席などを含めて各フロア130%程度を目標に設計しました。また、フリーアドレスを行ううえで場所を固定的にしてしまう固定電話はスマートフォンであることが重要であることや、どんな席があるかではなく、どこのエリアにどのような席があるかが重要であるかも利用率の差から把握することができレイアウト設計に活かしました」(楊川さん)
新たな庁舎への移転やフリーアドレスの導入を前に、職員の間では席数や収納スペースの減少に対して不安が広がっていました。一方、パイロットオフィスで働く職員へのアンケートでは、6〜7割の職員から、庁内調整がスムーズになるなどコミュニケーションが取りやすくなった、というフリーアドレスやABWの効果を感じられる回答が得られました。「フリーアドレスの導入により、業務の生産性や効率が上がるのではないかという肌感は掴めた」と井上さん。また、職員向けの「庁舎整備通信」などでABWやフリーアドレスについて解説するなど情報を発信したり、それぞれの役職級に向けた新しい働き方の必要性などに関する研修を行ったりして、新しい働き方についての理解や意識改革にも努めました。
一方、フリーアドレスの導入に伴い課題となる文書の電子決裁などについては、ペーパーレス・電子化ワーキンググループを中心に、検討を進めていきました。
「文書管理の部署にも入ってもらいながら、新庁舎への移転に向けて文書の削減に取り組み、電子決裁化については現在進行形で検討を進めています。行政文書など制度上電子化が難しいものも多いなか、保管期限の切れた書類は破棄する、当年・前年分のみ執務室に残し、5年保存は庁舎内書庫に、それ以前のものは文書保管施設に収蔵する…といったように、適切な場所に振り分けて保管場所を明確化しました。これにより、部署によっては8割ほど、平均して6〜7割は、執務スペースに置く文書を削減でき、執務席のほか打合せ席などの創造性を高める空間整備につなげられました。文書が紙決裁である現状を踏まえ、単なるペーパーレスではなく、保管量を工夫により見直すペーパーストックレスを当市では推進していきました。」(楊川さん)
楊川さん
ハードとソフトの両輪で働き方改革を推進
庁舎整備事業において「ワークスペース」のワーキンググループが立ち上がったことを機に、人事課で業務改善・働き方改革プロジェクトチームの事務局も担っている吉岡さんが合流。「単なる制度設計者ではなく、職員が気持ちよく、やりがいをもって働ける環境を整備する視点を持ちながら、都市・地域拠点整備推進室がハード部分を、人事課がソフト部分を担い、両輪で働き方改革に取り組めた」と振り返ります。
「今般、生産年齢人口・職員数の減少をはじめ、個人のライフプラン・価値観の多様化、デジタル社会の進展、行政課題の複雑・多様化などにより、本市を取り巻く状況が大きく変化しており、変化に適応する人材の育成や限られた人材の力を最大限に発揮する環境整備が不可欠です。前例のない課題に取り組むため、職員間の連携を強化し、自ら考え、新しいサービスなどを生み出す創造性のある業務を行う。そのためにABWやフリーアドレス、ペーパーレス化、スマートフォンを導入し、働き方を変える挑戦をしました。職員へのアンケートでは、こうした変化を肯定的に捉えて、ABWなどに積極的・意識的に取り組んでいる人ほど、コミュニケーション面やリフレッシュ面での満足度が高い傾向があります。業務に集中できるようになった、コミュニケーションが取りやすくなった、部下に話しかけやすくなった、気軽に打ち合わせができるようになった、日々のクリアデスクで頭の整理もしやすくなった、リフレッシュがしやすくなったといった声も多く寄せられています。こうした層をいかに増やしていくか、新しいことにチャレンジをする職員の意識改革が、今後の課題だと感じています」(吉岡さん)
職員が自由に使うことができる「職員ワークラウンジ」。部署を超えたコミュニケーションや連携、職員のリフレッシュなどが期待される。
新庁舎への移転に伴い、新しい働き方についてまとめた「ワークスタイルブック」を職員に配付。そこでも強調しているのが、「働きがい」です。
「オフィスの環境が快適かどうか、その中でどのような働き方をしているかは、働きがいにも影響します。特に、昨今の新卒の求職者は、ワークライフバランスと共に仕事へのやりがいを求める傾向にあり、人材採用においてはこういうところで働きたいと思える環境かどうかは、とても重要になると感じています。その点では、新庁舎になったことで人材採用にもプラスの効果があると期待しています」(吉岡さん)
吉岡さん
市民に開かれた庁舎を、市民と共につくる
新庁舎では、「協働・共創のまちづくり」「市民と地域を守る」「すべての人にやさしい」「脱炭素・生物共生社会の実現を目指す」「将来の変化に柔軟に対応できる」の5つを基本方針に掲げており、市民に開かれた庁舎づくりにも取り組んできました。
「京都工芸繊維大学・名誉教授の仲隆介先生にアドバイザーとしてお世話になり、フリーアドレスやABWの必要性などのほか、フィンランドやオーストラリアのまちづくりの事例なども教えていただきました。市民と行政が一緒に考える場所としての市役所などまちづくりのあり方を知り、参考にさせていただきました」(井上さん)
「市民が憩える場、交流できる場、自由に使える場にするということも空間設計のコンセプトの一つでしたので、市民を集めたワークショップを開催して市民利用スペースの活用方法などの意見を多くいただきました。具体的には、自習スペースが欲しい、マルシェができたらいい、気軽に立ち寄れる場所になるといいといった声があり、設計や家具などにも反映していきました」(楊川さん)
新庁舎には、庁舎の開庁時間内であれば市民が予約なしで自由に使える「みんなの広場」「まちの情報コーナー」「市民コラボラウンジ」「まちそらテラス」といったスペースのほか、コワーキングやWeb会議、集中作業に適した個室ブースや窓口の手続きでベビーカーごと入室できる乳幼児連れ対応ブースや授乳室なども配置しています。「さまざまな目的で使用していただけるよう、家具を選定する際には汎用性や可動性、明るい配色を重視した」と楊川さん。
市民の憩いの場となっている「まちの情報コーナー」。奥に見える芝生のスペースが「みんなの広場」。
市民が自由に使える「市民コラボラウンジ」。勉強や仕事をする姿も見られるそう。
わかりやすく簡単で親しみやすい「市民にやさしい窓口」へ
庁舎整備事業では、基本方針にある「すべての人にやさしい」庁舎を目指すため、課題になっていた窓口改革にも着手。ワーキンググループを立ち上げ、窓口のあり方や運用方法を検討してきました。ワーキンググループのリーダーを務めた橋さんは、従来の窓口の課題についてこう話します。
「どこの部署で手続きをしたらいいかわからない、証明書発行など短時間で終わるものも窓口で待たないといけない、担当課ごとに移動して手続きしなくてはならず煩雑、申請書の言葉が難しくて書き方がわかりづらい…といったご意見が市民の皆さまから寄せられていました。そこで、ワーキンググループでは『市民にやさしい窓口』をコンセプトに掲げ、運用方法を考えていきました」(橋さん)
具体的な目標としたのが、「わかりやすい窓口(迷わない・迷わせない)」「簡単な窓口(行かない・書かない・待たせない)」「親しみやすい窓口(安心感があり、相談しやすい)」です。複数の手続きが1か所で完結する「ワンストップ窓口」を導入し、来庁者を案内するコンシェルジュを配置。証明書専用のスピード窓口も開設しました。
市民にやさしい窓口。京都府産材を使用した窓口空間が、親しみと温もりを感じさせる。
「申請書の書き方や手続きの流れをまとめたチェックシートなども作成し、わかりやすい案内に努めています。来庁者アンケートでは、コンシェルジュさんが案内してくれて迷わずに行けた、ワンストップ窓口で移動せずに手続きができてよかった、といった回答をいただいています」(橋さん)
橋さん
最後に同様の改革を検討されている担当者の方へメッセージをいただきました
「今回の庁舎整備事業を通じて、トップダウンとボトムアップの両方の歯車がしっかりかみ合い回すことが重要であると感じました。組織を引っ張っていくトップの強い決意はもちろん必要です。同じくらい職員みんなを巻き込んで、地道に議論を重ね、検証し、自分ごととしていくプロセスも欠かせません。つい事前に「完璧なものや方法」を求めがちですが、社会がどんどん進むなかで前例のない課題に取り組んでいくには、試行錯誤を重ねながら進めていくことが求められているのではないかと思います。有識者の方々との連携や先進的に取り組まれている自治体の視察など、外部の知恵をどんどん取り入れながら、信念をもって前に進めることが、改革に取り組むために必要なことではないかと思います」(井上さん)
「整備段階で深く悩まれる自治体が多いと思いますが、根拠を持って取り組みを進めるためにも、視察や職員を巻き込んだ検証は非常に効果的です。京丹後市は、これからもこの新しい庁舎を最大限活用し、改善を継続していきます。ぜひ一度、私たちの庁舎にお越しいただき、私たちが細部までこだわったこの空間や、ここから生まれている新しい働き方を、直接ご覧いただければ大変嬉しく思います」(楊川さん)
上段左から、井上さん、橋さん、下段左から、楊川さん、吉岡さん。