インタビュー
石川県デジタル推進監室 県庁デジタル推進課
県庁デジタル推進グループリーダー 宮本 達矢 氏
専門員 森本 徹郎 氏
行政におけるDXや働き方改革が急務となる中、石川県庁は行政庁舎14階に職員専用のワークラウンジ「いちよん」を、さらに23年ぶりとなる食堂の全面リニューアルを実施しました。
ABW*の概念を取り入れ、これまでの役所文化を変えようと奔走したデジタル推進課。改革の裏側にあった苦悩と、未来へ向けた熱い想いを伺いました。
*ABW:Activity Based Workingの略。ワーカーが自律的に業務内容や気分に合わせて、働く時間や場所を自由に選択するワークスタイル。
「家具を変えただけ」では、働き方は変わらない。トップを動かした「ABW」への共感
石川県庁では、令和5年度からデジタル推進課でフリーアドレスを導入したパイロットオフィスを構築し、令和6年度には本庁の全部局にフリーアドレス用のデスクとチェアーを配備するなど、段階的に環境整備を進めてきました。しかし、「家具を変えただけでは、新しい働き方や文化を浸透させることは難しかった」と言います。
現場からは「フリーアドレスは何のためにしているのか」といった声もあり、「職員のためにやっているはずなのに、自分たちだけ浮いているのではないか」という葛藤を抱えながらも、「変えて欲しい」という職員の声を大事にし、改革を進めました。
特に若手職員の間には、ずっと同じ席で業務をこなす閉塞感が漂っていたといいます。そこで、「自分の所属以外でも気分を変えて働ける場所を作ってあげたい」という思いから、ワークラウンジの整備と食堂の改修事業が立ち上がりました。
デジタル推進課に着任する前は民間銀行に出向していた宮本さん。DXの最前線で柔軟な働き方を経験した視点から、「今いる職員が働きやすくなるという面だけでなく、リクルートの面でも、双方向でメリットを感じてもらえる事業にしたい」と考えたと言います。
その想いを形にするため、財政課長や総務部長といったトップ層をコクヨの品川オフィスや埼玉県庁などの視察へ案内し、「柔軟に働くリアルな姿」を見てもらいました。「職員が自分の業務や都合に応じて働きやすい場所で働くことが、生産性向上につながる」というABWの考え方を肌で感じてもらうことができ、予算を獲得することができました。
「ここに来る理由」を詰め込んだワークラウンジ「いちよん」
新たに誕生したワークラウンジは、職員からの公募により「いちよん」と名付けられました。「14階にあること」に加え、「四方に視野を広げ、場所を変えて視点や発想を広げてほしい」という願いが込められています。
空間づくりにおいてこだわったのは、「ここに来る理由」を作ることでした。最新のハイスペック家具や、大型の湾曲モニター、Web会議などで使用できる個室用ブースなどを惜しみなく配置しています。
ハイスペック集中ブース
個室用ブース1人用
さらに「窓際の席」がポイントです。通常、役所の窓際は役職者の席や書類棚で埋まりがちですが、あえてそこを「景色を眺めながら仕事ができる執務スペース」として解放し、誰もが使いたくなる環境を整えました。
窓際ハイカウンター席
「リクルートの面でも、職場環境の良さはパッと見て伝わる重要な要素です。職員にとっても、人生の中で長い時間を過ごす職場の環境を良くすることは、長期的には非常に投資効果が高いと考えています」と宮本さんは言います。
部署の壁を越える仕掛けづくりと、「やってOK」が後押しした柔軟な働き方
「いちよん」には、行政特有のセクショナリズムを打破する仕掛けも施されています。情報統制が強く、他部署との関わりを避けがちな文化を変えるため、あえて部屋の中央に大型モニターを配置。他の部署の人が何をしているかが見える、オープンな雰囲気を作ることで、偶発的なコミュニケーションを生み出す狙いがあります。
部屋の中央に配置された大型モニター
さらに、これらの空間整備と並行して「モバイルワーク」の推進も強化しました。「フレキシブルワーク推進月間」を設け、職員にモバイルルーターを配布して「まずは一度、自宅でもどこでも職場と同じ環境で仕事ができることを体感してほしい」と呼びかけました。
その結果、職員からは「(モバイルワークが)やりやすくなった」という声をもらいました。 組織として「やって欲しい」「やってOK」という方針を出したことで、ハードルが下がったようです。 今では、土木の技術職の人たちなどが現場から直帰したり自宅で仕事をしたりと、効率化できているという声も出ています。
「いちよん」のオープンと時を同じくして、食堂も23年ぶりの全面リニューアルを遂げました。一人ひとりのスペースにゆとりを持たせたことで、ゆっくりと食事ができるようになりました。また、ランチタイム以外の時間は、誰もが利用でき、打ち合わせなどができるスペースとして、働き方改革の推進への寄与にも期待しています。
食堂
「目の前の職員のために」——批判を恐れず、改革をやり抜く
最後に、同様の改革を検討されている担当者の方へメッセージをいただきました。
宮本さん:「我々の最終的な『お客さん』は県民ですが、私たち県庁デジタル推進課にとっての直接のお客さんは『県職員』です。県職員が働きやすくなり、生産性が上がれば、巡り巡って行政サービスが向上し、結果的に県民もハッピーになる。だからこそ、目の前のお客さん(職員)のためになることを信じ抜いてやり抜くことが大事だと思っています。」
森本さん:「何事も新しいことを始めると、反対されることはあります。ビジネスチャットを導入した際も、当初は『メールがあるからいらない』と言われましたが、今では『これがないと仕事ができない』という人が増えました。やり遂げた後に『ありがとう』『働きやすくなった』と言ってくれる人は必ずいます。批判の声はつきものと自分に言い聞かせ、今後も働きやすい環境づくりを続けていきます。」
左から宮本氏、森本氏
前例のない改革には批判がつきものです。それでも職員のため、県民の幸せのためと信じてやり抜いたこの「いちよん」と新しい食堂は、これからも多くの交流を生み出し、これからの石川県政を牽引する力強い原動力となっていくはずです。
コクヨ担当者
「家具を変えただけでは、新しい働き方や文化を浸透させることは難しい」。そのような強い課題感に基づくご相談を受け、石川県庁様のオフィス環境整備をご支援させていただきました。
取り組みの第一歩として、まずは「柔軟に働くリアルな姿」をトップ層の方々に体感していただくため、弊社の品川オフィスや先進自治体への視察をご案内しました。そこでABW(Activity Based Working)が生産性向上につながるという考え方に深く共感していただいたことが、予算獲得やプロジェクト推進の大きな原動力となりました。
空間づくりにおいては、職員の皆様に日常的に使っていただける場所となるよう、細かな仕様やレイアウトに至るまで伴走しながら支援させていただきました。限られたスペースの中で多様な働き方を実現すべく、高集中作業用のブースやミーティングスペースなど、各エリアに明確な特徴を持たせたご提案を行っております。さらに、ご担当者様の熱意のもと、空間という「ハード」面だけでなく、導入後の運用といった「ソフト」面に至るまでをしっかりと見据えて整備を進められたからこそ、ワークラウンジ「いちよん」は職員の皆様に長く有効活用される場所になると確信しております。
現在、石川県庁様では「いちよん」の開設にとどまらず、23年ぶりとなる食堂の全面リニューアルも実施され、次々と新しい働き方に対応した環境整備が進められています。批判を恐れず「目の前の職員のために」と信念を持って改革をやり抜かれたこの取り組みは、オフィス改革を検討されている他の自治体様にとって、大変参考になる先進事例となるはずです。
私たちの今回の支援が、石川県庁で働く職員の方々のウェルビーイングの向上、そして巡り巡って、石川県民の皆様への行政サービス向上に寄与することを心より願っております。
コクヨ
岩崎 佑哉