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【株式会社ミライロ代表 垣内氏】障害者雇用の先にある、多様な働き方を許容する場づくり

(第3回)ユニバーサルマナー検定導入の効果/「バリアバリュー」の視点が住民サービスの向上につながる

株式会社ミライロ 代表取締役社長 垣内俊哉氏
1989年に愛知県安城市で生まれ、岐阜県中津川市で育つ。生まれつき骨が脆く折れやすいため、車いすで生活を送る。自身の経験に基づくビジネスプランを考案し、国内で13の賞を獲得。障害を価値に変える「バリアバリュー」を提唱し、大学在学中に株式会社ミライロを設立した。
高齢者や障害者など誰もが快適なユニバーサルデザインの事業を開始、障害のある当事者視点を取り入れた設計監修・製品開発・教育研修を提供する。社会性と経済性を両立する取り組みの実積をもとに、国内のみならずアメリカ・フランス・エクアドル・オーストリアなど海外における登壇や、メディア出演も多数。テレビ東京「ガイアの夜明け」、NHK総合「おはよう日本」コメンテーター出演など。

※「障害」の表記について
視覚障害のある方に向けた音声ブラウザやスクリーンリーダーを使用した場合に正確な読み上げが行われるよう、「障がい/障碍」ではなく 従来の「障害」表記で統一しています。

御社では、多様な方々に向き合うためのマインドとアクションを体系的に学ぶ「ユニバーサルマナー検定」という研修を推進されてきました。これまで数々の自治体でユニバーサルマナー検定を実施されてきたとのことですが、各自治体が導入を決めた経緯は何でしょうか。

垣内氏:それに関してはいくつかの理由があると思いますが、まずひとつは社会全体の意識の変化が挙げられます。来年に迫るオリンピックとパラリンピック、2025年の大阪万博、そして障害者差別解消法といった国家的イベントや法律の施行によるものです。もうひとつはリスクマネジメントの観点が大きいでしょう。先ほどお話した、災害など有事の際のサポートをスムーズに行うだけでなく、訴訟リスクに備えるという側面もあるようです。というのも、障害者差別解消法が2016年4月からスタートし、早ければ来年の2月にはまた改正されます。自治体では法的義務になっていますし、その基準も年々上がっていくでしょう。アメリカでは、障害者から企業や自治体に対する訴訟は年間8万件起こっています。つまり、障害者から環境や対応の不備でいつ訴えられるか分からない。そうした訴訟リスクを踏まえて今のうちから対応しておくというところはあるでしょう。

では、垣内氏から見て、自治体がユニバーサルマナーの視点を持つことにどのようなメリットがあるでしょうか。

垣内氏:確実にコスト削減につながると言えます。先ほど障害者離職率の高さについてお話しましたが、障害者雇用ではせっかく採用コストをかけて雇用しても多くの人が1年を経たずして辞めていってしまうという状況があります。これは非常にもったいない話です。

障害者が辞める理由ーこれは障害者に限らずですが、人間関係、やりがい、お金を理由にして辞めていきます。このうち、障害者がお金を理由に辞めることは少なく、圧倒的に人間関係とやりがいに関する理由が多いのですが、実はこの二つは組織文化に大きく依存します。人間関係が成立していなければ周囲のワーカーも仕事を頼めず、その結果障害のある人がやりがいのある仕事に取り組めない。良好な人間関係が築くことができれば、仕事への意欲も高まるのです。

先にお話したように、障害のある方の雇用は理解と実績のある一部の企業に集中している状況です。自治体行政や中小企業のみならず、上場企業ですら採用が難航しています。障害者に働きたい企業を聞くといくつかは挙がってきますが、まだまだ選択肢は限られている。今後障害者の雇用争奪戦が見込まれるなか、彼らに働き続けてもらうことで採用コストを無駄にしないだけでなく、彼らと一緒に住民サービス向上に取り組むことで対応力が上がれば、それが現場負担の軽減にもつながっていくのではないかと考えています。

人間関係という理由、これは障害のある方が周囲の同僚にどれだけ理解してもらえているか、あるいは周囲の同僚がどれだけの情報を持っているか、という判断が難しいこともあるかと思います。

垣内氏:本人がどれだけ周囲に対してオープンにしているのかにもよりますが、大きくは相手の器の深さに左右されます。仮にユニバーサルマナーをみんなが身に着けている職場環境で自身についてオープンにすることと、そういった理解が1ミリもない環境でオープンにすることは全く条件が違う。理解無き所でオープンにした場合、攻撃される、ないしは周囲と協調できなくなる可能性があります。働きやすさは、その職場にどれだけ理解があるかに大きく影響を受けます。

周囲に知識が十分にあったら、当事者の開示度合いも変わってくると。

垣内氏:そうです。周囲も気づくし、また本人も進んでオープンになりますね。例えば発達障害に関して言えば、知識があれば言動から判断できることも多くあります。口には出さないまでも、発達障害のある人との向き合い方を意識したコミュニケーションが自然とできるようになります。

ユニバーサルマナー検定の導入をCSR等で公開している企業もあるそうですね。

垣内氏:就労意欲のある障害者は企業のCSRをよく調べていますよ。働きやすい職場かどうかの指標になりますから。重要なのは最初の1人なのです。「その組織で、こういった形で活躍ができました」というモデルとなる1人が現れて、その状態を外に開示するということが重要です。働く環境や働いている障害者について見えるようにすること。そうすれば徐々に良いスパイラルに乗ってくるのではと思っています。

先ほど、やりがいというお話もされていましたが、障害者雇用では間接業務が多くなってしまうという課題もあります。立ち返って自治体と障害者雇用という組み合わせでやりがいというものを捉えたときに、自治体の仕事とは住民サービスの向上であり、住民の中には障害のある方や高齢者の方も勿論含まれます。障害のある方自身の立場や経験が、住民サービスを形にする際に必ず役に立つのではないでしょうか。これは、垣内氏が提唱しているバリアバリューという考えに通じるところがあると思うのですが。

垣内氏:全くその通りだと思います。私が現在住んでいる区の障害者福祉課には、車いすユーザーの職員の方が1人いらっしゃいますが、この方に相談をするとコミュニケーションが非常にスムーズです。同じ車いすユーザーなので、公共交通機関を利用する際の補助や車の改造、または障害者割引を適用したETC車載機についての相談等々、健常者の職員の方であればマニュアルをめくらなければ話せないことがスラスラと出てきます。健常者の職員の方では30分かかっていたことが、住民と同じ立場の職員の方では10分かそこらで終わってしまう。これは非常に効率的です。彼らの視点や経験、感性を活かすことが、地域住民の満足度向上につながっている。こういった雇用を進めていった方がよいというのは明らかです。


(あとがき)
今回垣内氏のお話をお伺いすることで、障害者雇用推進におけるアクションを特別視する必要はないのだと感じました。国家機関も地方自治体も、働き方を見直す『オフィス改革』という動きが活性化しています。そのオフィス改革では「コミュニケーションの活性化」、「メリハリをつけた働き方」、そして「効率化」の実現のためにABWというアプローチによってサービスの向上を目指していますが、そうした場の実現は既に働いている職員のみならず、今後増えていくであろう障害を持つ方、さらに広い視点で言えば育児中や介護中などで多様な働き方を望む人材にとっても働きやすい環境となるのでしょう。

(コクヨ)


■株式会社ミライロ(https://www.mirairo.co.jp/
ミライロの企業理念は障害を価値に変える「バリアバリュー」です。年齢や性別、国籍、身体特性や能力など、それぞれ違う個性を持つ社員が集まっています。ユニバーサルデザインのコンサルティング事業を展開し、多様な方々が不安・不自由なく過ごせる社会を創造します。2014年に「ダイバーシティー経営企業100選」を受賞、2018年に「Japan Venture Awards 2018」経済産業大臣賞と「関西財界セミナー2018」特別賞を受賞しました。

■ユニバーサルマナー検定(https://www.universal-manners.jp/
ユニバーサルマナー検定は、ユニバーサルマナーの実践に必要な「マインド」と「アクション」を体系的に学び、身につけるための検定です。声がけやコミュニケーションを行うには、多様な人々の特徴や心理状況を知ることから始めます。その上で、ケースバイケースの適切なサポート方法を学ぶことができます。2019年3月時点で、企業研修として600社に実施しており、受講者数は、3級7万人2級2万人です。

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