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【株式会社ミライロ代表 垣内氏】障害者雇用の先にある、多様な働き方を許容する場づくり

(第2回)環境整備は難しいことではない/多様な働き方を許容する場づくり

株式会社ミライロ 代表取締役社長 垣内俊哉氏
1989年に愛知県安城市で生まれ、岐阜県中津川市で育つ。生まれつき骨が脆く折れやすいため、車いすで生活を送る。自身の経験に基づくビジネスプランを考案し、国内で13の賞を獲得。障害を価値に変える「バリアバリュー」を提唱し、大学在学中に株式会社ミライロを設立した。
高齢者や障害者など誰もが快適なユニバーサルデザインの事業を開始、障害のある当事者視点を取り入れた設計監修・製品開発・教育研修を提供する。社会性と経済性を両立する取り組みの実積をもとに、国内のみならずアメリカ・フランス・エクアドル・オーストリアなど海外における登壇や、メディア出演も多数。テレビ東京「ガイアの夜明け」、NHK総合「おはよう日本」コメンテーター出演など。

※「障害」の表記について
視覚障害のある方に向けた音声ブラウザやスクリーンリーダーを使用した場合に正確な読み上げが行われるよう、「障がい/障碍」ではなく 従来の「障害」表記で統一しています。

続いて、働く場の環境整備に関して具体的にお聞かせください。肢体不自由の方、聴覚障害のある方など、それぞれの障害で配慮すべきことは異なるかと思いますが、そうした方々が働きやすい環境とはどのようなものでしょうか。

垣内氏:肢体不自由、杖や車いすのユーザーに関しては、テーブルなりイスなりオフィスレイアウトの工夫が必要になってきます。家具であれば、キャスターがついていて動かしやすいもの、あるいは軽いものであって欲しいと思います。例えば車いすのユーザーが移動する際、動線をふさぐように家具があると両手で持ち上げて移動することは難しい。自分で何とかできなければ他の人の手を借りざるを得なくなってしまう。それは必ずしも悪いことではないですが、遠慮が出てしまうのであれば、誰もがどんなものも使える状態にしておいた方がよいと考えます。

視覚障害者が働く際は、文章読み上げソフトが入ったパソコンが1台あれば、パソコン作業も難なくできてしまいます。同様に、聴覚障害者とのコミュニケーションもツール1つで工夫ができます。これもアプリですが、話している内容を書き起こしてくれるものがあります。多拠点で会議をつないだ時も、誰が何を話しているかまで表示されます。視覚障害や聴覚障害に関しては、基本的には情報バリアという障害ですが、それぞれに合わせた工夫次第で働きやすい環境は用意できます。 もうひとつ、人工肛門などの内部障害のある方に関しては、オストメイト対応のトイレが必要です。

公共機関である自治体庁舎はバリアフリー化が進んでいます。多目的トイレ、また駐車場の整備も進んでいるのは障害者雇用推進におけるメリットに感じます。重ねてお聞きしたいのですが、2018年の法改正で、障害者雇用義務の対象に精神障害者が加わりました。今後は精神障害を持つ方を含めた環境整備をより一層注力する必要であると考えますが、こうした方にはどのような配慮が必要なのでしょうか。

垣内氏:一般的に知られていることではありますが、やはり明るい光が直接目に入ってくる直接照明よりも、壁や天井に跳ね返す形の間接照明の方が落ち着けます。また音に関しても、できるだけ跳ね返さず吸収するような工夫が必要です。あとはパーソナルな空間の確保です。落ち着きたいと思った時に、一人で落ち着けるようなスペースが必要です。

しかし、精神障害があっても、特別な配慮が必要だと思われたくない場合や軽度な場合では、周囲にオープンにしていない方も多くいます。照明や音に配慮した場所や、1人で落ち着いて過ごせるスペースを精神障害者専用にしてしまうと、そのスペースを使った瞬間に「あの人はそういう人なのだ」と周囲から認識されることにつながります。オープンにしていない人は、それを恐れて利用を躊躇してしまう可能性があります。

障害のある方専用スペースの確保が難しい組織にとっても、上記の考え方であれば組織全体のオフィス改革を進めていくプロセスでうまく取り入れて行くということが可能なのではと感じます。

垣内氏:別の見方をすれば、彼らのために特別な配慮を一生懸命しなければならないかというと、必ずしもそうではありません。彼らにとっては一歩会社の外に出ると特別な配慮がない場所ばかりなので、特別な配慮が完璧に施された空間に慣れてしまうと、今度は社会性を失ってしまいます。一歩外へ出れば、街は階段だらけでバリアフリーではありません。ですから一定の配慮はしておいたほうがよい、しかし完璧にする必要はないと考えています。

今回お話いただいた環境整備手法は非常に明確であり、また同時に難しくないように感じます。

垣内氏:おっしゃる通り決して難しいことではありません。例え一度に全て対応することができなくとも、徐々に対応していければよいと思います。単年で1,000万の投資が難しいとしても、複数年で2~300万に分けて対応していくという考え方もあります。障害者雇用を躊躇してしまう理由は、結局はナレッジの不足、そして成功体験の不足に尽きます。事例が広がっていけば、障害者の働きやすいオフィス環境整備はもっともっと広がっていくのではないかと思っています。

お伺いしていると、こうした配慮は先進的な取り組みをしている自治体のオフィス改革で採用されているABW(=Activity Based Working:業務内容に応じて働く場を選択できる)という考え方と非常に親和性が高いと感じました。例えば間接照明やパーソナルな空間を持つということは、精神障害のある方に限らず、健常者にとっても働きやすい環境とされています。

垣内氏:そうですね、ただでさえストレス社会ですから。重要なのは、メリハリのついた働き方ではないでしょうか。自席でイヤホンを聞くような中途半端にパーソナルな状態では本人もリフレッシュできませんし、周囲のワーカーにとってもコミュニケーションに不満が生じてしまう可能性がある。リフレッシュならリフレッシュと、きちんと切り替えられるような環境が好ましいと思っています。

ABWの考え方には、リモートワークの選択肢も含まれます。障害のある方の中には、在宅勤務を行っている方も多いかと思います。

垣内氏:障害の状態や業務内容によって、リモートワークで働く方もいます。ただし人は同じ空間に居て顔を合わせて話したり、一緒に過ごしたりすることで、お互いの理解が深まるものです。したがってこれからは、障害のある方が「オフィスに行っても良いかな、むしろ行きたいな」と思えるくらいの場をつくる必要があるでしょうね。

来年のオリンピック・パラリンピック開催期間は通勤が大変になるので、弊社もリモートワークの検討は進めなければならないと思っています。今後は5Gの整備も進みますし、リモートワークはより一般的になっていくでしょう。働く場の選択肢が広がることは、障害のない人に限らず障害のある人にとっても非常に働きやすく、メリハリのある働き方の実現に近づく有効な手段であると思います。


【解説:ABW(Activity Based Working)とは】

ABWは元々オランダから始まったワークスタイルで、グローバル企業で採用するケースが増えています。ノートパソコンなどのモバイルツールを駆使しながら、働く人がいまやるべき仕事に対して、いつ・どの場所でやるのが最も効率がいいかを自分で決めることができます。

日本にも場所を選べる働き方として「フリーアドレス」という概念がありますが、固定席をもたずに、モバイルツールを活用して自分の好きな席で働けるオフィスに限ったスタイルのことです。ABWの場合は、オフィスの内外を問わず働く時間を自由に選べるので、時間をかけてオフィスに行かずとも、自宅やカフェなどを働く場所にすることができます。

会社のメリットのひとつは、ずばりコスト削減。オランダの電力会社エッセントは、ABWを採り入れて自宅勤務を推奨。その結果、オランダ国内にある13ヵ所のオフィスを4ヵ所にまで集約し、不動産とオペレーションコストの削減を実現しました。また、自由な働き方に惹かれて人材が集まりやすいというメリットもあります。社員にとっては、仕事と生活のバランスが取りやすくなるというメリットがあるようです。通勤時間の削減による生産性の向上や、病欠の減少などの効果も期待できます。

<出典:WORKSIGHT 07>

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