働き方改革オフィスのつくり方

(後編) 生産性向上を目指すオフィスのあり方

前編では、働き方改革に向けた生産性の向上を実現するオフィスのつくり方について、簡単にまとめました。後編では、高度経済成長期からこれまでのオフィスはどのように形成されてきたのかについて振り返ると共に、働き方改革に対応するオフィスとして、最近官公庁のオフィスでも導入され始めているABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)型のオフィスが目指す方向性についてご紹介します。

縦割り組織、上意下達の働き方に最適だった島型対向式レイアウト

abw2_colum_image1.jpg 島型対向レイアウトのイメージ図

グループごとに各自のデスクを向かい合わせに配置し、端部にグループのリーダー席を配置する、いわゆる「島型対向式レイアウト」は、官公庁のオフィスにおいて今でも根強く採用され続けています。このレイアウトは高度経済成長期には非常に有効なレイアウトであり、管理職の号令一下、全員が同じ時間に同じ場所で働き、喫茶も喫煙も自席、という働き方には非常に適していました。このレイアウトでは、リーダー席からはグループのメンバー全員を見渡すことができ、作業の進捗状況が把握しやすく、リーダーを頂点としたグループ内のコミュニケーションは取りやすくなります。また、当時の仕事は文書とハンコで動くため、大量の文書を保管するための書庫が必要になり、グループごとの島と島の間は収納庫で仕切られてしまうことも多かったのですが、上意下達式の縦割り組織では縦方向のコミュニケーションが最優先となるため、グループをまたぐ横方向のコミュニケーションがとりづらくても特に問題とされることはありませんでした。高度経済成長期の人口は増加傾向にあり、毎年新人が大量に採用されて組織もどんどん拡大していくことが当然だったため、オフィスワークについても生産性の向上というより人海戦術で成果を上げることが一般的でした。

インターネット導入後に効果を発揮したフリーアドレスとユニバーサルプラン

拡大基調だった日本のオフィス環境は、バブル崩壊後に一変しました。オフィスのムダを省き、従来よりも小さな面積にしてコストを削減する、という方向性でオフィス改革が行われるようになったのです。民間企業ではオフィスの賃貸料削減を目的に、自席を持たずに共有することで限られた面積を有効活用する、という初期のフリーアドレスが採用されるようになりました。しかし当時の業務はまだ紙ベースであり、情報通信インフラは固定電話と大きなデスクトップパソコンだったためにドラスティックな削減は難しく、結局は電話やパソコンの操作のために席の固定化を招き、効果的な解決には至りませんでした。当時官公庁では賃貸ビルに入居しているケースが相対的に少なかったため、この時点ではコスト削減のためにフリーアドレスが導入されることはほとんどありませんでした。

その後、オフィスレイアウトに大きな影響を及ぼしたのはインターネットの導入です。インターネットの導入で、それまで紙ベースで進められてきた仕事がネットワーク上で共有できるようになり、時間と場所の制限が大幅に緩和されました。ネットワーク接続によってどこでも同じ環境で業務が遂行できるようになると、ユニバーサルプランと呼ばれる新しいレイアウトの形が採り入れられるようになりました。ユニバーサルプランとは、標準のレイアウトモジュールを設定してデスクやイス等の執務環境を標準化し、どの席からもネットワークに接続できるようにしておくことで、組織や人員の変更があった場合もレイアウト自体を変更することなく、人だけが動くことで対応するレイアウトプランのことを指します。

abw2_colum_image2.jpg つくば市のユニバーサルプラン(2010年)

ユニバーサルプランはフリーアドレスとは別の概念ですが、ちょうどこの頃には携帯電話やノートパソコンの普及が進んでおり、ユニバーサルプランの導入によってどこでも仕事ができる環境が整備されると、初期のフリーアドレスの問題点が解消されるため、ユニバーサルプランと併せてフリーアドレスが導入されるケースも見られるようになりました。ネットワークの導入によって官公庁でも文書の電子化やペーパレスへの取り組みが始まりました。2000年代以降に建設された自治体の新庁舎では、新庁舎への移転を契機に新しいオフィスレイアウトに取り組む事例が増えた結果、ユニバーサルプランを採用されることが多くなりました。ただしインターネット導入当初はネットワークへの接続はまだ有線接続だったため接続できるポイントは限定されており、さらに通信速度やデータ量の制限も大きかったことから、業務は基本的にオフィスの自席で行う、という前提は覆らないままでした。

新しい働き方とABW型オフィス

abw2_colum_image3.jpg ABW型オフィスではその時の業務に最も適した場所を自分で選ぶ

タブレット端末やスマートフォンがもはや当たり前となり、5G実装も目前に迫る無線環境下となった現在では、ネットワークを活用したサイバー空間での働き方も進化しています。情報インフラを整備し、ICTツールを活用すれば、業務はオフィスの自席でなくても行えるようになり、時間と場所の制約がさらに緩和されるため、ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)と呼ばれる新しい働き方とそれに適したオフィスが採用されるようになりました。これは、オフィス内に集中ブースや協業スペース、リフレッシュスペース等、チームワークや個人作業、議論や意思決定等の用途に適したさまざまな場を設けておき、その時々の業務に最も適した場所に移動して働くワークスタイルのことで、オランダの保険会社Interpolisなどが導入して以来、世界的な広がりを見せています。

abw2_colum_image4.jpg 西予市役所のABW型オフィス(詳細はこちらのコラムを参照

官公庁でも、2019年4月から総務省行政管理局がコクヨ株式会社と行政管理研究センターの三者で行政向けABW型オフィスの実証実験を行い、自治体では2016年に愛媛県の西予市役所の4階フロアで導入される等これからのオフィスのあり方として注目を集めています。

ABW型オフィスではその時その時の働き方にあった場所を自分で選んで働くことになるので、フリーアドレスの新しい形として捉えることができます。しかし、ABW型オフィスでの働き方が目指すところは、面積削減によるコストダウンが目的だった初期のフリーアドレスとは大きく異なります。今では行政改革によって職員数が削減される一方で、多様化するニーズに対応した行政サービスを提供することが求められている、つまりこれまで以上に職員ひとりひとりの生産性の向上が求められている、ということに他なりません。インプット(労働投入量)のムダを省くだけでなく、アウトプット(成果)の最大化も併せて実現することがABW型オフィスの目的なのです。最近は官公庁でも組織横断型のプロジェクト型組織が立ち上がり、組織の人数や形態が頻繁に変わるようになると縦割り組織からの脱却が図られ、組織をまたぐ横のコミュニケーションの重要性が増大しています。ABW型のオフィスではすべての場が共有されているため、場を移動する途中で他部門の動きを目にしたり、期間限定のプロジェクトの利用に適した協働スペース(コラボレーションスペース)でさまざまな所属の職員が協働したり、リフレッシュスペースを利用する際に偶発的なコミュニケ―ションが発生する等、島型対向式レイアウトでは困難だった組織を跨ぐコミュニケーションにも容易に対応できるという大きなメリットがあります。

おわりに

ここまで書いてきたように、働き方改革に向けたオフィスをつくるには、「足りないから増やす」「狭いから広げる」といったような目の前の問題を解決するのではなく、生産性向上の視点から、インプットのムダを省いてアウトプットを最大化する、という視点が必要です。それを実現するオフィスとして、新しいフリーアドレス、ABW型のオフィスが注目を集めています。時代と共に働き方や組織のあり方が変わっていく中で、官公庁のオフィスづくりも従来の島型対向式レイアウトをただ踏襲するのではなく、まずはグループ単位のモデルオフィスなどで積極的に新しい考え方を試してみて、少しずつ成功体験を積み上げながら、創り上げていくことが重要です。

(作成/官公庁ソリューション部 チーフコンサルタント 八上)

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