言葉を渡しても、意味は渡せない 〜方針が"自分たちの言葉"になるまで〜

  • 公開日:2026/9/28(月)
  • 株式会社キャリアクラフトコンサルティング 代表取締役 曽根原 士郎

「期初にせっかく方針を掲げたのに、数か月後には誰も口にしていない」
「朝礼で唱和はされているのに、日々の行動は変わらない」

リーダーや人事の皆さんから、こうした声をよく伺います。

言葉は、たしかに届いているのです。それなのに、なぜ意味は届かないのでしょうか。

前回は、チームが出来事を「意味づける」お話をしました。
今回は、同じチームの同じ出来事を、リーダーの側から見つめ直します。
鍵になるのは、「センス・ギビング」という考え方です。

言葉は届いたのに、意味が届かない

方針、スローガン、行動指針。

多くのチームに、掲げられた言葉があります。発表もした、掲示もした、会議で繰り返し伝えてもいる。それでも、言葉がどこか「言わされているもの」のままで止まってしまう。そんな感覚はないでしょうか。

これは、伝える努力が足りないからではありません。多くのリーダーは、十分すぎるほど伝えています。足りないのは努力の量ではなく、「意味の渡し方」の設計なのです。

実は、言葉が届くことと、意味が伝わることは、別のことです。言葉は発したその場で届きますが、意味は、受け取った一人ひとりが解釈し、それをチームで語り直して意味づけたときに、初めて伝わります。この違いを知ることが、出発点になります。

リーダーは、意味の「枠組み」を手渡す人

少しだけ、前回のおさらいをさせてください。

チームで出来事を語り直すことで、その出来事に共通の意味づけが生まれていきます(センス・メイキング)。前回ご紹介した営業チームも、仲間の退職という出来事を語り直す中で、「私たちは"個人商店の集まり"だった」という気づきを、チームの意味づけとして共有しました。

では、メンバーが意味を「作る」存在だとしたら、リーダーには何ができるのでしょうか。

経営学者のジオイアらは、その働きを「センス・ギビング」と呼びました。リーダーが、メンバーの意味づけを方向づける"解釈の枠組み"を差し出す働き、という考え方です。

たとえば、同じ組織変更でも、リーダーが「コスト削減のためです」と語るのと、「攻めに転じるための布陣です」と語るのとでは、メンバーの意味づけの出発点がまったく変わります。出来事は同じでも、差し出された枠組みが、その後の物語を方向づけるのです。

では、前回の営業チームのリーダーは、どんな枠組みを差し出したのでしょうか。同じ出来事を、今度はリーダーの目から見てみます。


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あのリーダーが、施策の前にしたこと

中堅メンバーの退職を、リーダーは誰よりも重く受け止めていました。けれど、正直に振り返れば、最初に頭を占めていたのは「補充をどうするか」「数字の穴をどう埋めるか」という、退職後の業務をどう進めていくかという悩みでした。出来事を、チームを回しつづけるための"実務実行の問題"として解釈していたのです。

転機は、チームの状態を映す診断の結果でした。個々の力量は高い、しかし連携は低い。その数字を前に、別の解釈が生まれます。今回の離職を招いたのは、「個人商店の集まり」という連携のあり方、つまりチームとして育つ力そのものに問題があったのではないか。

そこでリーダーは、チームを回しつづけるための施策から先に伝えるのではなく、まずこの出来事をチームで語り直すために、"解釈の枠組み"となる言葉を考えました。

辿り着いたのは、「顧客に信頼される営業」という言葉です。「数字を追う営業」に代わる、新たな目指す姿です。

大切にしたことは、ベテランにも若手にも、それぞれが自分の仕事に結び付けて解釈できる余地を残すことでした。細かく決めすぎない言葉だったからこそ、一人ひとりが自分の持ち場に置きかえて考えることができました。

この言葉を手渡されたチームで、前回ご紹介した語り直しが起きます。仲間の退職は「仕方のない出来事」ではなく、「私たちが個人商店の集まりだったことの表れ」ではないか。メンバーが出来事にチームとしての意味づけをしていったのは、この枠組みの上でのことでした。

さらに、リーダーは、チームの意味づけを行動に結びつけるために、評価の軸に「顧客への貢献」を加え、二人一組で案件に向き合う「バディ制」を採用しました。

当初、バディ制は作業分担の仕組みと受け取られましたが、リーダーが繰り返し「顧客に信頼される営業」「顧客への貢献」という言葉を重ね、二人の間で案件のたびに言葉が交わされるうちに、メンバーにとって「切磋琢磨できる相手がいる」という意味へと変わっていったのです。

リーダーが手渡したのは、意味そのものではありません。仲間の退職という出来事に対して、チーム自身が「個人商店化」に気づき、それを解消するために切磋琢磨しあう関係性を築く、という意味にたどり着くための「枠組み」を提示したのです。

言葉が「自分たちのもの」になる三つの条件

このリーダーの動きを、センス・ギビングの視点で振り返ってみます。条件は三つあります。

一つ目は、意味は誰かから一方的につけられるものではない、と知ることです。

リーダーの言葉は完成品ではありません。メンバー一人ひとりが解釈し、チームで意味づけられて、初めて完成します。ギビング(手渡す)とメイキング(意味づける)は一方通行ではなく、往復です。手渡した言葉が、メンバーの解釈をまとって返ってくる。その往復を通じて、言葉は「自分たちのもの」になります。この往復が続くことが、チームが育っていく入口です。

二つ目は、決めすぎない言葉のほうが、自分の仕事に置きかえやすい、ということです。

「顧客に信頼される営業」には、一人ひとりが自分の持ち場で考える余地がありました。逆に、精緻すぎる定義や、数値だけの目標は、その余地を奪います。決めすぎた言葉は、覚えることはできても、自分の言葉にはなりません。

三つ目は、言葉は日々の仕組みと対話の中でチームに根付く、ということです。

あのチームでは、言葉と同時に、評価軸とバディ制という仕組みが用意され、その中で対話が繰り返されました。もし言葉と仕組みが矛盾していたら、どうなっていたでしょう。「挑戦しよう」と言いながら、失敗が減点される仕組みであれば。メンバーは必ず、言葉ではなく仕組みのほうを信じます。

同時に、注意したいこともあります。ギビングが強すぎれば、それは押し付けになります。リーダーの解釈を押し付けられたと感じた瞬間に、メンバーの意味づけは静かに止まります。この「強すぎる声」の問題は、とても大切な論点なので、回を改めて正面から扱いたいと思います。

まずは、いま掲げている言葉を一つ、振り返ってみる

いま、ご自身のチームに掲げている方針や目標、合言葉を、一つ思い浮かべてください。そして、ご自身に、こんな問いを向けてみてください。

「この言葉を、メンバーは"自分の言葉"で言い換えられるだろうか」
「この言葉が本当になる仕組みを、私は用意できているだろうか」
「日々の評価や判断は、この言葉と矛盾していないだろうか」
「最近この言葉が、私以外の誰かの口から出たのは、いつだろう」

大切なのは、最後の問いです。手渡した言葉がメンバーの口から返ってくること。
それが、意味が届き、意味づけに沿った成長が始まっている証拠です。

すべての問いに、すぐ答えられなくても大丈夫です。
むしろ、答えに詰まった問いこそ、いまのチームの伸び代を教えてくれています。手帳の隅に、答えに詰まった問いを一行だけ書き留めておく。それだけで、明日のメンバーとの会話を、少し変えていけるはずです。

そして、言葉がどこまで浸透しているかは、渡した側からは最も見えにくいものです。
うなずきは見えても、腹落ちは見えません。TEAMUSという「鏡」が映す目的理解や理想共有の状態は、いわば、手渡した言葉の腹落ちの度合いを映すものです。振り返りの問いに、鏡が映すチームの現在地を添えてみてください。

リーダーは枠組みを手渡し、メンバーは意味を作り込んでいく。
この成長が始まったチームでは、方針が「自分たちの言葉」で語られはじめます。
今できることと、これからできそうなこと。その両方から、始めてみませんか。

次回は、この成長の質を左右するもう一つの技術、「問いの技術」を取り上げます。
どうぞお楽しみに。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参照ソース
センス・ギビング(Sensegiving)
D.A.ジオイアとK.チッティペディが戦略変革の研究から提示。変革は、リーダーによる意味の提示(センス・ギビング)と、組織メンバーによる意味形成(センス・メイキング)の反復によって進むとした。(Source: Gioia, D. A., & Chittipeddi, K. (1991). Sensemaking and Sensegiving in Strategic Change Initiation. Strategic Management Journal, 12(6).)
センス・メイキング(Sensemaking) 
前回参照。(Source: Weick (1995). Sensemaking in Organizations. Sage Publications.)

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