シェアド・リーダーシップが切り開く、新時代の組織成長~全員がリーダー体験を積む仕組み~

  • 公開日2025/10/7(火)
  • TEAMUSコラム編集部

皆さんは「リーダーシップ」と聞くと、どのような姿を思い浮かべるでしょうか。組織上の役職者あるいはカリスマ性のある1人の人物が、チーム全体を牽引している姿を思い浮かべがちです。

今回ご紹介する「シェアド・リーダーシップ」は、そんな従来の常識を覆す新しいリーダーシップの考え方です。

シェアド・リーダーシップとは何か

シェアド・リーダーシップの定義

シェアド・リーダーシップとは、「チームメンバー同士が、チームの目的・目標達成に向けてお互いをリードし合っていく、動的で相互作用的な影響力を生み出す仕掛け」として定義されています。

つまり、特定の1人がリーダーとして君臨するのではなく、チームメンバー全員がそれぞれの強みや専門性を活かして、状況に応じてリーダーシップを発揮し合っていく状態を指します。

研究の背景と発展

この概念を最初に体系化したのは、クレイグ・ピアース(Craig L. Pearce)とジェイ・コンガー(Jay A. Conger)の両研究者で、2003年に『Shared Leadership: Reframing the Hows and Whys of Leadership』という著書を発表しました。

日本では、立教大学の石川淳教授と中原淳教授が代表的な研究者として知られています。特に石川教授は日本におけるシェアド・リーダーシップ研究の第一人者として、多くの企業での実践研究に取り組んでおられます。

なぜ今、シェアド・リーダーシップが注目されるのか

従来の組織では、ヒエラルキー型リーダーシップ(階層型・垂直型リーダーシップ)が主流でした。これは、組織の上位者が意思決定を行い、下位者がその指示を待つ・指示に従って行動するという、まさにピラミッド型の構造です。


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しかし、このアプローチだけでは解決しづらい、令和時代のチームが直面している状況や特性として、以下のような点が顕著になってきていると感じられています。

 ・変化の速さ   :1人のリーダーがすべてを把握するのは困難

 ・ 専門性の高度化 :各分野の専門家がチーム内に分散している

 ・ 働き方の多様化 :リモートワークなど、物理的に離れた環境での協働

 ・ メンバーの主体性:指示待ちではなく、自律的な行動が求められる

このような状況において、全てを1人のリーダーに任せてしまうのではなく、メンバー1人ひとりが自分の専門性と判断力を活かし、状況に応じてリーダーシップを発揮することでチームの力を最大化していく方法が、シェアド・リーダーシップだといえるでしょう。

ケーススタディ:「名刺管理システムの刷新業務」

理論だけでは分かりにくいシェアド・リーダーシップの本質を、具体的な業務を通じて見てみましょう。

従来型のアプローチ

ヒエラルキー型リーダーシップの場合、このような進め方になるでしょう。


 1. 上司からの指示  「名刺管理システムを3ヶ月で刷新してください」

 2. 上司による要件決定上司が必要機能や予算を決定

 3. 上司に役割分担  リーダーが各メンバーに具体的作業を割り振り

 4. メンバーによる実行・報告メンバーは割り当てられた作業を実行し、定期報告

この方式では、メンバーは「言われたことをきちんとやる」ことが求められ、業務完了後に得られるのは「作業スキル」程度に留まります。


シェアド・リーダーシップでのアプローチ

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一方、シェアド・リーダーシップでは、リーダーは担当してほしいメンバー(任命リーダー)を決定し「なぜ、この業務に取り組む必要があるのか」「どんな価値を実現すべきか」から考えることを任せる、任命リーダーは必要に応じて他のメンバーを巻き込みながら以下のようなポイントを押さえ進めていくことになると言えます。


 1. 任命リーダーがメンバー招集

  ・ 「名刺管理の課題を解決したい。みんなで考えよう」

 2. Whyからの議論

  ・ なぜ名刺管理システムの刷新が必要なのか?

  ・ 現在の課題は何か?

  ・ 解決することで何を実現したいのか?

 3. Whatの設計

  ・ どんな機能が必要か?

  ・ どの程度の投資が妥当か?

  ・ 成功の指標は何か?

 4. Howの検討

  ・ 誰がどの領域をリードするか?

  ・ ITに詳しいAさんがシステム選定をリード

  ・ 営業経験豊富なBさんが現場ニーズ把握をリード

  ・ 財務知識のあるCさんが予算管理をリード

 5. 都度合意を取りながら実行

  ・ 各段階で上層部への報告・合意を取得

  ・ メンバー間で進捗と学びを共有

  ・ 必要に応じてリーダーシップの役割を交代

いかがですか?シェアド・リーダーシップアプローチでは、任命リーダーだけではなく、チームの1人ひとりが強みを活かしながら作業を完了させると同時に、全員で「価値」を考える・創る過程を「リーダー体験」として得られることが理解いただけたと思います。

なぜシェアド・リーダーシップが新時代の組織成長につながるのか

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具体的に先ほどの名刺管理システム刷新の例で考えてみると、プロジェクト終了時、メンバーが獲得するのは以下のような「リーダー体験」だと言えるでしょう。

 ・Aさん(システム選定リーダー):

  技術的な検討プロセスを設計し、ベンダーと主体的に交渉していく「システム担当リーダー」体験

 ・Bさん(ニーズ把握リーダー):

  現場の課題を構造化し、ステークホルダーとの対話から提供価値と実現方法を具体化していく「マーケティング担当リーダー」体験

 ・Cさん(予実管理リーダー):

  投資対効果の検証計画を立て、経営層への報告ポイントを定量的に示していく「投資対効果検証担当リーダー」体験


つまり、単に名刺管理システムが新しくなっただけでなく、チーム内に3人のミニリーダーが育っているのです。この経験はメンバー1人ひとりにとって、またそれ以上にチームにとって、この先も必ず直面するであろう様々な問題・課題に対峙していくための貴重な「財産・人的資本」となります。

これこそが、シェアド・リーダーシップの最大の特徴です。「今の業務を確実に進めながら、同時に未来のリーダーも育てる」という、一石二鳥の効果が期待できるのです。


改めて強調したいのは、シェアド・リーダーシップは「単なる業務分担ではない」という点です。従来の業務分担では、作業を効率的に進めることが主目的でしたが、シェアド・リーダーシップでは、業務を通じてメンバー全員がリーダー体験を積むことそのものも重要な目的となります。

前回のコラムでお話しした「令和の新しい組織開発」において、私たちは「業務設計」と「チームとメンバーの持続的・統合的成長設計」の2軸アプローチをご提案しました。シェアド・リーダーシップは、まさにこの統合アプローチの実践手法の一つなのです。

まとめ:新しい時代のリーダー育成

シェアド・リーダーシップは、単なる業務効率化の手法ではありません。メンバー1人ひとりが主体的にリーダーシップを発揮し、組織全体が持続的に成長していくための、新しい組織開発手法です。

『TEAMUS』では、シェアド・リーダーシップを通じて「業務も発展し、チームもメンバーも成長し続ける」という理想的な組織開発・組織成長の新しい可能性・現場でスムーズに展開していくための整えるべき前提条件や方法・注意点などを、引き続き皆さんと一緒に考えていければと思います。次回もぜひお楽しみに。

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参照ソース

Pearce, C. L., & Conger, J. A. (2003). Shared Leadership: Reframing the Hows and Whys of Leadership. Sage Publications.

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