2025.12.19
【財務省主計局法規課】オフィスリニューアル
「固定席×ABW」で明るくコミュニケーションが生まれる職場へ
Overview
概要
財務省 主計局
法規課では、書籍や書棚で窓が塞がれ、「暗く、狭く、コミュニケーションが取りづらい」という課題を解決するため、2023年にオフィスをリニューアル。固定席を維持しつつも、本格的なABW*オフィスの構築を目指しました。課題だった書籍や書類の整理を進めて書棚を大幅に削減し、行政文書の電子化などペーパーレスも進めました。リニューアルの経緯や具体的な取り組み、そしてリニューアル後の変化について、当時、主計局法規課1係に在籍し、中心となってリニューアルプロジェクトを推進した吉川佳孝さん(現在は主計局給与共済課
課長補佐)にお話を伺いました。
*ABW:Activity Based Workingの略。ワーカーが自律的に業務内容や気分に合わせて、働く時間や場所を自由に選択するワークスタイル。
Interview
インタビュー
海外で見た先進的なオフィスと部下の悩みがきっかけに
吉川さんがオフィス環境に関心をもつようになったのは、2020年に財務省の海外留学制度を利用してシンガポールに滞在していたときのこと。大学での学びに加えて半年間、現地の政府系投資ファンドでインターンをしていました。
「インターン先のオフィスがあまりに先進的で、衝撃を受けました。昇降式のデスクや各所に設置されたミーティングスポットをはじめ、スタイリッシュで機能的な家具や空間はもちろん、社員がリフレッシュできるようジムやカフェなどもありました。加えて、働き方の面でもスマートでした。コロナ禍で社会が混乱するなか、テレワークへの移行もスムーズで、会議も対面とオンラインのハイブリッド。ペーパーレスも進んでいました。それまで私が働いてきた環境との違いに驚き、自分たちもこういう環境で働きたい、と思うようになりました」
帰国後は、法規課第3係に勤務していた吉川さん。あるとき、部下に「何か困っていることはないか」と尋ねると、「椅子を後ろに引くと、背中合わせの席の人とぶつかるのが大きなストレスになっている」という答えが返ってきました。
「オフィスの動線の悪さ、通路の狭さは、私自身も課題に感じていました。シンガポールで見たオフィスのことは常に頭の片隅にあり、部下の悩みの声もあってなんとかしたいと思っていた矢先に、部屋全体を取りまとめる総括担当である法規課第1係に異動になりました。これはオフィスに手を入れるチャンスだと、上司に相談してリニューアルプロジェクトを立ち上げました」
「今のままでいい」という職員に意義を説明して理解・協力を得る
プロジェクト立ち上げ後、まず最初に予算を扱う会計課に相談。その頃、省全体でオフィス改革を含む「財務省再生プロジェクト」が始動していたこともあり、その取り組みの一環として進めることができたと言います。こうして、法規課のオフィスリニューアルプロジェクトが本格的に始動しました。
プロジェクトメンバーは、当時係長だった吉川さんを中心に、課長、課長補佐、係員の計4名。コクヨの霞ヶ関オフィスの見学などを通して、解決すべき課題を洗い出し、ありたいオフィス像を描いていきました。そこで挙がってきたのは以下のような課題でした。
・窓際に書棚が置かれているため自然光が遮られ、全体的にオフィスが薄暗い。
・室内が書棚とデスクでいっぱいで通路が狭く、動線が悪い。
・課長補佐席がブース化しており、係内のコミュニケーションがとりづらい。
・一つしかない会議室はいつも予約でいっぱいで、気軽に打ち合わせをする場所がない。
加えて、法規課のメンバー(当時は全35名)にアンケートをとり、現状のオフィスの課題やリニューアルプロジェクトへの意見を集めました。そこで見えてきたのが、一部の職員から「今のままでいい」「特に変える必要はない」という保守的な声でした。
「反対というよりは、なぜやるのかわからない、という意見も多く、庶務担当が勝手に進めていると思われている限り、理解も協力も得られないな…と気づかされました」
そこで吉川さんは、オフィスリニューアルの背景・経緯や理由、現状の課題などを書面にまとめ、説明会を開催。「どこに課題があってどう改善したいかを説明することで、課内での理解が進み、応援してもらえるようになった」と振り返ります。
書棚を半分以下に削減、課長補佐ブースを解体し、コミュニケーションを促すレイアウトに
吉川さんらは洗い出した課題を解決し、コミュニケーションが生まれる明るいオフィスにするべく、書棚の削減とレイアウト変更による明るさ・動線の確保、ミーティングスペースや集中ブースの設置によるABWの推進など、具体的な案を検討していきました。最初に課題となったのが、書棚を埋める書籍やファイリング書類の削減でした。特に書籍については、法令を扱う部署の特性上、「かなりたくさんあった」と言います。
「書棚の整理については、課のメンバー総動員で分担して進めました。書籍については、可能な限り財務省内の文庫(図書館)に寄贈することにしました。寄贈すれば検索も閲覧もできるようになり、他部署にとっても便利になります。ファイリング資料については、重複するものは1冊だけ残して破棄し、専用の書庫(資料室)に移動させました。また、行政文書等の電子化も同時並行で進め、約200冊分をスキャンして共有フォルダに保存しました」
その結果、書棚が占めるスペースは半分以下になり、室内はぐんと明るくなりました。加えて、レイアウトを大きく変更。窓際の課長補佐ブースを解体し、他の職員とデスクを並べるレイアウトに変更しました。また、デスクはまっすぐではなくジグザグになるように並べ、コミュニケーションがとりやすいよう工夫しました。
「実務を担う係長が係員とも課長補佐ともコミュニケーションを取りやすく、課長補佐同士が隣り合うことで上長間のコミュニケーションもスムーズになるレイアウトです」
業務形態に馴染む固定席を維持しつつ、ABWエリアを導入
職員のデスクは固定席を維持しつつ、一部エリアでABWを導入したことについて、吉川さんは次のように説明します。
「検討段階ではフリーアドレスという案も出たのですが、現状の働き方には馴染まないということで、固定席のままとしました。というのも、多くの省庁では職員一人に一つ固定電話の内線番号が付与されており、フリーアドレスには向かないんです。オフィスリニューアルを機に内線を廃止する案も出たのですが、反対意見が多く、実現しませんでした。フリーアドレスを導入するためには、システムも一緒に変えていかないといけないことを実感しました」
固定席ではあるものの、今後の職員数の増減を見越して、レイアウトを変更しやすい什器を選定。キャスター付きの可動式のデスクを採用し、一人二つずつあった袖机も一つに減らしました。さらに、文具類などは共有化し、複合機の側に作業台を設けて、資料作りなどの作業は自分のデスクではなく作業台で行うようにしました。また、一人一台あった大型ロッカーも小型のものに変更しました。
「書棚の削減と課長補佐ブースの解体に加え、袖机の削減、文具類の共有化、ロッカーの小型化など、職員が私物を置くスペースをカットすることで生まれたスペースには、落ち着いた環境で打ち合わせできるソファー席や気軽に打ち合わせできる立ちミーティングスペースを設けたり、自席から離れた場所で集中して作業ができる個人用ブース席を設置しました」
打ち合わせスペースと個人用ブース
立ちミーティングスペース
コミュニケーションが生まれる明るいオフィスで、意識も変わる
オフィスのリニューアル後は、「書棚が減って全体として明るくなり、動線も整理されて、窮屈だった空間が開放的になった」と吉川さん。「雰囲気が変わったことで気分も明るくなり、職員の意識にも変化が見られた」と笑顔を見せます。
「コミュニケーションについても、かなり取りやすくなったと感じています。職員からも好意的な意見が多く、新しいあり方にすぐに馴染んだようでした。ソファー席や立ちミーティングスペースもよく使われていて、デスクからパッと移動してサクッと会議をするというのもすぐに定着しました。また、オフィスリニューアルを機にペーパーレスへの意識が高まり、新規で作成する行政文書については電子で保存することになりました。その後、オフィス見学も含めて、各課が視察に来てくれています」
一方、個人用ブースについては、リニューアル後1年くらいは稼働率が良くなかったと言います。
「アンケートをとったところ、離席すると自分の内線を他の職員が取らなければならず、申し訳ない…といった意見が多くありました。一方で、オンライン会議に参加している場合、自席にいながら内線に出られないこともしばしばあります。その方がむしろ申し訳ない気持ちになりませんか、と…。用途を示しながらブースの使用を呼びかけつつ、1係のメンバーが率先して使ったところ、次第に使う人が増えていきました。私の異動後も、オンライン会議や研修などの際に広く使用されていると聞いています」
現在は、主計局給与共済課に所属する吉川さん。「新しい部署でもオフィス改革に取り組みたい」と言います。
「財務省には古典的で保守的な文化があり、なかでも主計局はその色が濃い部署でした。その主計局がボトムアップで実現した取り組みなので、ぜひ財務省内の他課室、更には他省庁へも含めて発信していきたいと思います。民間企業に比べて官公庁のオフィスや働き方は遅れがちですが、国家の機関だからこそ、先進的なオフィスで先進的な働き方をしていくべきであると考えています。そしてシンガポールなどの他国にも引けを取らない、むしろ引っ張っていけるような日本の行政機関のオフィスや働き方となっていけたら…と思っています。まだまだ改革は途中だと考えていますので、周りを巻き込みつつ色々なアイディアを吸収しながら私自身も楽しみたいと思っています」