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LIFE
2019.09.02

働き方を変えたのは、編集者としての
インプットを増やすため

Yahoo!ライフマガジン 編集長 秋吉健太さん

20代から編集者として活躍し、雑誌『九州ウォーカー』の立ち上げに参画、その後、『東京ウォーカー』編集長などを経て、現在はヤフー株式会社(以下、ヤフー)が運営するウェブメディア『Yahoo!ライフマガジン』の編集長を務める秋吉健太さん。今年で50歳を迎える秋吉さんですが20代の頃は徹夜が2〜3日連続するような「ちょっと不健康な働き方をしていた」と当時を振り返ります。しかし、40代半ば頃からそうしたワークスタイルを意識的に変えるようになり、現在は心身ともに健全な働き方を心がけているといいます。そんな秋吉さんに、お話をお伺いいたしました。

INTERVIEW

若い頃は気がついたら床の上で寝ていたことも(笑)

1990年代初頭から、つまり四半世紀以上、編集者として働いてきた秋吉さんですが、当時と今では世の中の働き方も大きく変わってきていますよね。
秋吉:そうですね。私自身も働き方は大きく変わったように思います。私の編集者としてのキャリアは地元・熊本の情報誌がスタート。そこで3年ほど営業と編集の仕事をした後、1996年に上京。東京に来てから半年ほどフリーランスでライターをした後、1997年に角川書店(現KADOKAWA)に入社となります。その後『九州ウォーカー』を創刊するため福岡に転勤したのですが、雑誌の創刊って本当に大変なんですね(笑)。当時はページ作りに不慣れなこともあって作業が終わらず夜中まで働くことも多く、気がついたら朝まで編集部の床で寝てしまっていたり(笑)。でも、当時は記事を作るのが楽しくてそれが辛いと思ったことはなかったですね。
The編集マン的な仕事の仕方だったんですね。
秋吉:まぁ、20代で体が健康だったってこともあります。それに半月なり1ヶ月なり働いた結果が「本」という形となって世に出せることで、その都度、高い満足感を得られていたことも大きかったと思います。もちろん、今はそういう働き方はしていませんが。
働き方を変えるようになった経緯について教えてください。
秋吉:自分のキャリアを紐解くと、福岡で『九州ウォーカー』創刊から7年間編集に携わった後、東京に戻り『東京 大人のウォーカー』副編集長を4年、その後、再び福岡で今度は編集長として『九州ウォーカー』を4年。それからまた東京に戻って『東京ウォーカー』編集長に就任して、2015年にKADOKAWAからヤフーに移り、現在は『Yahoo!ライフマガジン』の編集長をやっているのですが、やはり“KADOKAWA時代後期”くらいから働き方が変わってきていると思います。
ヤフー入社前からすでに働き方が変わってきていたということですか。
秋吉:はい。意識的に変えたのは『東京ウォーカー』の編集長になってから。朝型にシフトして、家を6時台には出て7時には出社して、18時を過ぎたら帰るようにしていました。夜はあらゆる職種の方と会う時間にあてるようにしましたね。日々企画を立てることを生業としている編集者って、いろんな人と会っていろんなことを吸収すべきと思っているので、夜中まで働くような仕事の仕方をしていると出会いのチャンスさえ得られない。それってすごい損失だと思うんですよ。私の場合は健康面もさることながら、インプットを増やすことを目的として、働き方を変えた感じですね。
インプットの質が高まれば、編集者としてのアウトプットもよくなってくると。
秋吉:そうですね。このワークスタイルはヤフーに移ってからも同じで、今も7〜8時くらいには出社して、18時過ぎには編集部を出るようにしています。それからまたいろんな方に会い、日々多くのことを学ばせていただいています。

多様なオフィス環境で仕事をすることで、気持ちのバランスが保てている

KADOKAWAとヤフーで職場環境に変化はありましたか?
秋吉:ひとつはセキュリティ面。もう20年以上前ですが私が入社した頃の、まだ社名が変わる前の角川書店は割と出入りが自由で、いま思えばいい意味で風通しがよかった。たとえばライターやカメラマンが「近くに寄ったから」と差し入れ持って遊びにきてくれて、ちょっとした雑談から企画が生まれるなんてこともよくありました。雑談も重要な企画会議みたいなものですから。それから時代も変わり、どこもやはりセキュリティが厳しくなりましたよね。2015年から私が所属しているヤフーもやはりセキュリティがしっかりしているので、社外スタッフが社内にフラッとやってきて「あのアーティストの個展には行きました?」というような雑談をする機会はやっぱり減りましたね。
その状況は変わらずですか?
秋吉:2年前にヤフーの本社が今の場所(東京・紀尾井町)に引っ越しをしてから、社外の方でもYahoo! JAPAN IDを持っていれば、自由に出入りできるフロアが設置され、そうした問題はだいぶ解消されました。編集部内の座席もフリーアドレスとなり固定席がなくなったので、最初は慣れるまで少し戸惑いましたけど、その結果他の部署の方々と必然的に話すようになったのは良かったですね。他部署ではどういうことをやっているのかが会話で聞こえてくるし、刺激にもなります。ただ、編集部メンバー全員で取り組む特集などをやる場合は、締め切り前などでメンバーがバラバラにいるとコミュニケーションが取りづらい時があるので編集部メンバーは時期によってはなんとなく近くに固まるようになっていますね。
直接的にコミュニケーションをしたいときは、すぐ近くにいた方が便利ですよね。
秋吉:ええ。ただ総じて、フリーアドレスのメリットはすごくあって、やはり様々な場所で仕事ができるので気分転換になるんですよ。弊社の場合は、場所によって机などのオフィス家具のデザインが違いますし、人工芝のスペースがあったりして、多様な環境で仕事に打ち込むことができる。そういう働き方をしていることで、気持ちのバランスが取れているなと感じることはあります。
オフィスに縛られない働き方をしている、という感じでしょうか。
秋吉:そうですね。ちなみにヤフーでは、申請すれば月5回までならどこで働いても構わない「どこでもオフィス」という制度も設けられています。カフェとか、それこそ自宅でも構わない。子どもが熱を出したときに面倒をみたり、いろんな事情で自宅にいなければいけない場合にも使えます。私の場合はごくたまにですが集中して原稿を書くときに利用しています。

仕事のストレスは、“別の仕事”で解消するようにしている

今現在、心身ともに健康的な働き方ができていると実感されていますでしょうか。
秋吉:健康的かどうかは別として、健康的であろうとはしています。多くの方がそうかもしれませんが、40代に入ったあたりから体力も落ち始め、45歳頃(KADOKAWAからヤフーに転職する頃)に本格的に体力の衰えを実感するようになりました。こう言うと元も子もないですが、若い頃のような体力は望めないのだから、そこは自覚して、いかに調子を落とさないようにするか、“普通の状態”をキープするかを心がけることが重要かなと思っています。日々の食生活を見直してみたりアルコールの量をセーブしてみたり。また睡眠時の心拍数なども図るなどして、自己管理するようにしています。まぁ、それでも無理はあまりできないですけどね(笑)。
精神的なストレスについては、なにか対策は取られていますか?
秋吉:それは昔からやっていますね。ただ若い時とはやり方が変わってきています。昔は休日にサーフィンをするとかアウトドアに行くとか、遊びで解消しようとしていましたが、今は別の仕事をすることで発散するようにしています。僕の場合は、ローカルラジオ番組のパーソナリティやイベントスペースのプロデュースなどですね。これまで培った編集力を別の形で使うことで、精神的な満足感を得ているんだと思います。
若い人の働き方を見ていて思うことはありますか?
秋吉:私が仕事で出会う若いスタッフの皆さんはよく働くし、頑張ってるなぁと思います。一方で、働き方というより生き方そのものなのかもしれませんが、少し焦りすぎかも? と思うことはたまにあります。
焦りすぎ、ですか?
秋吉:これはあくまで私見ですが、例えば今の時代、SNSで同世代の成功者の投稿を毎日のように目の当たりにするじゃないですか。そういうのを見ていると、やっぱり焦っちゃうと思うんです。私も20代の頃は仕事で作家やミュージシャンを取材する度に「なんで自分にはこの才能がなかったんだろう…」みたいに思ってました(笑)。
才能ある方を前にすると、たしかにそう思ってしまうかもしれませんね。
秋吉:でも、自分より年上、年下関係なくその才能を世の中に認められた方々に取材で話を聞いていると「この人たちはここまで来るのに途方もない努力をされているんだ」ということに何度も気づかされたんです。要は何事も時間はかかるということなんじゃないかと。アウトプットって「いまからアウトプットしよう」と思ってできるのではなく、いつの間にか溢れ出しているものなんじゃないかと思います。
SNSでの成功者のつぶやきに急かされてアウトプットをするんじゃなくて、しっかり学ぶべきことをインプットしていけば、いつか溢れ出るだろうと。
秋吉:もちろんSNSを否定しているわけではないですよ。むしろ仕事やプライベートでSNSとは上手く付き合うのは当然。それとは別にこれからのキャリア、よりよい働き方を示す指針となるものはリアルな場の方が見つかるんじゃないかなと思います。私の場合だと、若い頃は酒場詩人の吉田類さんやイラストレーターで作家の安西水丸さんのような大先輩たちと仕事以外の時間で会話する機会をいただき、間近でその生き方や考え方に触れて、たくさんのことを学び、自分のアウトプットの幅を広げてきました。それと同じように、50歳となったいまは若い世代からいろんなことを学ばせてもらってます。私は月に一度渋谷でDJをやっているんですが、音楽を通して出会った若い子たちの中には20歳以上年が離れている子たちも多いです。彼らと渋谷あたりの居酒屋に一緒に行って、レモンサワーで乾杯しながら音楽の話や、面白かった映画、まだ読んでない本の話など、いろんなことを学んでいます。それが企画のヒントになることも。最近のヒップホップ事情を聴いてもさっぱりわからないというようなこともありますが(笑)。
そうした職場から離れた場所でのコミュニケーションが、仕事にもつながると。
秋吉:ええ。実際に人に会って直接的な刺激をもらったほうが健全だし、結果として自分のキャリアにもいかせるはずです。その中で、自分なりのストレス解消法を見つけてできるだけ余計なストレスを抱え込まずに、自分がやるべきことを見据えて仕事に励んでもえらえたらと思います。

PROFILE

秋吉健太さん
『Yahoo!ライフマガジン』編集長
1969年、熊本県生まれ。大学卒業後、92年より『月刊タウン情報クマモト』編集部で
編集者人生をスタート。96年に上京し、マガジンハウスなどで
フリーランスライターとして活動した後、97年に角川書店入社。
同年、『九州ウォーカー』創刊メンバーとなり、その後は『東京 大人のウォーカー』副編集長、
『九州ウォーカー』編集長、『東京ウォーカー』編集長などを歴任し、ヤフー株式会社入社。
2016年より現職。
STAFF
取材・文/ 田中元 撮影/ 牧野慎吾
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