仕事のプロ

2021.01.06

今こそ知りたい『ビジネスモデル・キャンバス』〈後編〉

ビジネスモデル・キャンバスを有効活用するには?

前編では、9つの要素でビジネスモデルを1枚のキャンバスに描き出す『ビジネスモデル・キャンバス』の概要や特徴について、事例を交えながら解説した。後編では、『ビジネスモデル・キャンバス』の作成にあたっての具体的なポイントや注意点について、自身の実践経験をふまえて、コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタントの曽根原士郎氏が解説する。

ビジネスモデル・キャンバスの使い方
9つの要素と5つのメリット

具体的な作成ポイントや手法の解説の前に、ビジネスモデル・キャンバスの9つの要素と5つのメリットを振り返っておきましょう。

〈9つの要素〉

1 顧客セグメント(CS:Customer Segments)・・・顧客は誰?
2 価値提案(VP:Value Propositions)・・・コアとなる提供価値は?
3 チャネル(CH:Channels)・・・どう売る?
4 顧客との関係(CR:Customer Relationships)・・・顧客にどう思われたい?
5 収益の流れ(RS:Revenue Streams)・・・どんな収入になる?
6 リソース(KR:Key Resources)・・・どんな資産が必要?
7 主要活動(KA:Key Activities)・・・そのための主要な業務は?
8 パートナー(KP:Key Partners)・・・パートナーは誰?
9 コスト構造(CS:Cost Structure)・・・どんな支出になる?


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〈5つのメリット〉

1 共通言語で議論できる。
2 複数のモデルを比較できる。
3 全体が直感的に理解できる。
4 足りない部分が見えてくる。
5 全員に同じ"世界"が見えてくる。

2_bus_094_02.png ビジネスモデル・キャンバスの最大のメリットとも言えるのが、「共通言語で議論できる」ことです。ビジネスモデル・キャンバスというフォーマットを共有することで、異なる領域のさまざまな人たちとの共通言語ができるため、多様なメンバーが混じり合いながらビジネスモデルを構築していくことができます。

商品企画、製造、技術開発、設計、営業、経営、マーケティング...など、いろんな役割を担う人が、9つの要素のうちそれぞれ得意なものからキャンバスを埋めていくと、自分たちが創り出そうとしている世界観が自ずと見えてきます。

似たり寄ったりの同質な人たちだけで議論するよりも創造性が高まり、イノベーティブなビジネスが生まれる可能性も高くなるでしょう。

一方、多様なステークホルダーがいるからこそ、最初にしっかりと議論して固めておくべきなのが、「顧客セグメント」と「価値提案」です。「誰に何を(提供するか)」は必ずセットになるので、この2つを反復しながら深めていくことが、まずやるべきことです

ビジネスモデル・キャンバスというフォーマットを使えば、多様なメンバーのそれぞれの視点から「顧客セグメント」と「価値提案」のアイデアを出すことができます。これぞ、ビジネスモデル・キャンバスの強みと言えます。



作成のポイント1:「顧客セグメント」と「価値提案」を決める

9つの要素のうちカギとなるのが、「顧客セグメント」、「価値提案」の2つです。これらはもっとも社会的な変化が速い要素で、ここがビジネスの"震源地"になります。

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社会がめまぐるしく変わるなか、既存の提供価値がどう変わったのか、折に触れ、振り返りと見直しが必要になります。2020年下期の今であれば、コロナ禍により何がどう変わったか、台頭した価値は何かを考えてみる必要があります。

誰にどういう価値を提供できるかを震源地の変化に合わせて議論していくことで、既存のビジネスのちょっとした転換がブレイクにつながる可能性も出てきます。

まずは「顧客セグメント」と「価値提案」、つまり「誰に何を(提供するか)」を決めましょう。ビジネスの「可能性」を考える部分なので、とっかかりやすく、楽しく取り組めるはずです。

「顧客セグメント」と「価値提案」の設定のコツは、「顧客をできる限り具体的に絞ること」です。

「価値提案」は顧客が喜ぶわかりやすいものにする必要があり、そのためにも? 顧客像を具体的に絞ってシャープにすることから始めると良いでしょう。顧客像が具体的でシャープでないと、価値提案やチャネルがぼんやりとしたものになってしまいます。

例えば、「30代女性」ではなく、「あのテレビドラマに出演しているあの俳優が好きな30代女性」というように焦点を絞りペルソナを設定します。

これはデザイン思考のアプローチになりますが、絞ったら実際にペルソナの行動観察を行います。多角的な視点で観察するなかで新しい気づきがあり、その人の別の属性も見えてきます。すると、こういう顧客層にも広げられるかも...、と新たな顧客像が見えてきます。

シャープにすることで可能性の幅を狭めてしまうようにも思えますが、最終的には顧客の幅を広げることができるのです。

〈顧客セグメントの例〉

■ 誰のために何を創出するのか?
■ 最も重要な顧客は誰なのか?
ポイント:人物像は"超"具体的に。一人称で書けるぐらい。
例:いつもスーパーで「美味しい水」を買って持ち帰るのが大変そうな、マンションの4階に住むおばあちゃん。

〈価値提案の例〉

■ どんな価値を提供するのか?
■ どんなモノ/コト、強みを実現するのか?
ポイント:比較対象や数字を含む表現で、「◯◯を、△△ぐらい、□□にする、"◇◇"」
例:徹底的に安全処理した「美味しい水」を、18リットル大型ボトルに詰めて自宅内のウォーターサーバーに取り付けにきてくれるサービス。

「ということは、各家庭の室内・暮らし方の様子が分かるので、他の食品の受発注・お届けサービスやお掃除代行サービスにも展開できるかも! 」という具合に、提供価値や顧客との関係を、他社にないより分厚く高い顧客満足につなげていける可能性に気付けるかもしれませんね。


曽根原 士郎(Sonehara Shiro)

コクヨ株式会社 ファニチャー事業本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
1989年の入社後すぐに新規事業(OA・ICT)営業・企画の部署に配属。2001年より研究開発部で、新規事業・新領域商材担当。結果、6本上市。2014年より企画部門で新たなコラボレーションクラウドサービスの開発・立上げに従事。2016年からはコンサルティング部門で「働き方改革」コンサルと同時に新規ITサービス開発に携わる。2017年より同部隊にて、さらに新たな「働き方改革」ITサービスを立ち上げ中。

文/笹原風花