2022.05.13

「フェーズフリー発想」の空間づくりによる日常時の生産性向上を検証
豊島区人事課会議室における実証実験<最終報告>

行政デジタル化による住民サービス向上と並行して、多くの自治体が取り組んでいる職員の働き方改革。先進自治体でテレワークやサテライトオフィスといった働き方の選択肢が広がりつつある一方で、過渡期である現在はそうした働き方が全庁的な導入にまで至っていない、あるいは業務特性上そうした働き方が難しいといった状況も多くあります。
そのため執務室の環境改善は現在でも重要であり、執務室において検証または検証を通じた意識醸成を行うことは、働き方改革を促す上で非常に有効な手段です。
コクヨは豊島区との共同研究として、豊島区総務部人事課執務室内の会議室における実証実験を2021年10月に開始しました。
2022年3月末に半年間の検証期間を終え、最終的な会議室の利用実態調査と職員へのアンケート調査を実施。人事課の業務特性や業務実態を定量・定性データの両面から分析するとともに、将来像も含めた執務環境の最適化における仮説検証を報告書にまとめました。

今回は、上記の最終報告書から一部内容を抜粋し、当実証実験の担当者である豊島区人事課高井氏(現豊島区国際文化プロジェクト推進室)からの概評と併せてご紹介します。

>中間報告はこちら

<調査概要>

実施時期
2021年10月~2022年3月
検証内容

豊島区人事課(職員数36名)執務室に隣接する定員10名の会議室において、家具の入れ替えと2分割運用を実施。利用目的や人数、時間等の定量データと職員アンケートによる定性データから、利用実態や意識の変化を把握する。
※職員アンケートはR3年12月、R4年3月の計2回実施。今回のレポートではR4年3月実施分の結果を紹介

導入家具 コンパクトテーブル MULTIS<マルティス>10台、ホワイトボード機能付きパネル GRABIS<グラビス>4台 他

目次

2分割運用による空間効率化

【算出方法】
・各月の業務日数に定時内利用可能時間(昼休憩時間含む8時間)をかけ最大利用時間を算出
・2021(実証実験中)においては、左右で異なる利用の場合は利用時間を合計し、 同時利用の場合は1つの予約として算出
例:左右で異なる予約(1時間)の場合は1時間×2=2時間、左右同時予約の場合は1時間としてカウント

会議室の月別利用時間を昨年同時期と比較すると、全体的に昨年よりも増加傾向にあります(図1)。これは実証実験において2分割運用を行い、複数の目的での同時(並行)利用が可能になったため、空間の効率化が進んだ結果だと考えられます。

図1に示した赤い破線は、1部屋運用時のひと月の最大利用時間を示しています。昨年10月~12月の3ヶ月の利用時間は、このボーダーラインに非常に近い状態にありました。これは言い換えると予約が詰まった状態であり、予約したくともできない状況、あるいは定時時間外(始業前または終業後)に予約せざるを得ない状況であったことが伺えます。実証実験では2分割運用を行うことでそうした状況が改善し、必要な予約が出来るようになった結果、利用時間が増加したと推察できます。

定時外利用の減少と職員意識の変化による業務効率化への影響

定時外利用時間を昨年同時期と比較すると、多くの月で昨年より大幅に減少しており、状況の改善が伺えます(図2)。また3月に実施した職員向けアンケートでは、「以前と比べて予約が取りやすくなったか」という問いに対して93%の職員が「とてもそう思う/そう思う」と回答しており、予約に関する調整業務にかかる時間や手間の削減にもつながっていることが分かりました。

また、予約1件当たりの平均利用時間からも効率化を確認しました(図3)。実証実験中は多くの月で平均利用時間の減少が見られており、全体平均では2020の2.2h/件から、2021では1.9h/件に減少。職員向けアンケートでも、82%の職員が「以前に比べ予約時間の適正化を意識している」と回答しており、今回の実証実験は職員の意識改革や、それに伴う業務効率化にも一定の効果を上げていると言えるでしょう。

会議室の稼働率適性化

【算出方法】
・各月の業務日数に定時内利用可能時間(昼休憩時間含む8時間)をかけ最大利用時間を算出
・各月の最大利用時間における実際の定時内利用時間※を稼働率として表記
※定時外利用時間をのぞく

実証実験中は2分割運用を実施したため、会議室の予約枠は1部屋運用に比べ単純に2倍になります。多人数利用や情報機密の理由から左右同時利用をした場合も含め、定時内における会議室稼働率を算出した結果を示したものが図4です。

お昼を含めた1日8時間の業務時間を分母として各部屋稼働率を算出すると、利用時間が多い10月・3月でも70%台に収まっています。一般的に、会議室の適正稼働率は65%~70%程度とされ、それを超えると業務効率低下につながると言われています。この一般的な適正稼働率と比較すると若干の上振れが見られる月もありますが、70%台を維持できたことが、「予約のとりやすさ」に関する職員満足度に繋がったのだと推察できます。

運用への適応や空間活用の状況変化

続いて、時間経過に伴う職員の適応状況や空間活用度変化についてご紹介します。3月時点では、「会議室の空間」及び「会議室の運用方法」について回答者全員が「慣れた」と回答。半年間あれば多くの職員が新しい働き方に移行・適応できることが分かりました。

家具の使われ方に関する結果を見てみると、今回導入したコンパクトテーブル MULTIS<マルティス>に関して、46%の職員が「実証実験中にレイアウト変更を行った事がある」と回答。そして、86%の職員が「会議室に1人用テーブルを導入することで、会議室の用途が広がった」と感じていることが分かりました。

また、ホワイトボード機能付きパネル GRABIS<グラビス>に関しては回答者の約3人に1人が多目的に活用しており、「仕切る」以外にもホワイトボードや掲示板として使われた機会があったことが分かりました(図5)。空間に限りがある中小会議室において、このように多目的に活用できる家具の導入・活用は効果的であり、推進していくべきであると言えます。

利用実態からみる会議室の可変性ニーズ

続いて、会議室の可変性ニーズを定量データから把握しました。利用人数ごとの頻度を目的別に比較すると、作業は1人〜2人、面談は2〜4人の頻度が高い一方で、会議に関しては6人以上での開催も週に数回発生していることが分かりました(図6)。全体的に頻度の面では少人数が多く、また利用目的が多目的化していることから、大人数用の会議室1部屋を固定レイアウトで使う運用では業務効率や快適性に大きな制約を及ぼすと考えられます。一方で大人数での利用も週に数回の頻度で行われているため、単純に小さい会議室を増やすだけではそうした場面に対応しきれなくなります。これらを踏まえると、今回のようにある程度広い会議スペースを小さい単位で区切りフレキシブルに活用していくといった運用は利用実態の面でも、空間効率的の面でも適した方法だと考えられます。会議室だけでなく、部門を超えたオープンミーティングスペース等にも応用できる考え方であり、今後更にこうした空間機能や運用方法が求められるのではないでしょうか。

テレワークや行政デジタル化を見据えた空間機能ニーズの現れ

今後の働き方の変化を踏まえた空間機能ニーズについての職員アンケートでは、面接などこれまでと同じ使われ方のニーズも根強い一方で、ウェブ会議や分散勤務スペースなど働き方の変化を見据えた活用に関するニーズの高まりが見て取れます(図7)。テレワーク推進や行政デジタル化へのシフトには、システム導入に遅れることなく庁舎空間機能を見直すことが重要であると言えるでしょう。

実証実験概評

豊島区国際文化プロジェクト推進室
国際アート・カルチャー都市推進係長
(元 豊島区総務部人事課人事制度係長)
高井 淳氏

豊島区人事課では以前から会議室不足に対する課題感が大きく、どうにかしなければいけないと職員全員が感じていました。今回の実証実験では会議室内の家具を全て入れ替えたり、従来の予約管理表に手を加えたりなど環境・運用面での変化も大きかったのですが、課の職員がこの取り組みに非常に協力的だったため、すぐに効果を感じることができました。

家具に関しては、職員が皆率先して工夫し活用してくれたと感じています。広い会議室ではないため、レイアウト変更に関してはどうしても制約が多かったように思います。ただ、必要に応じて左右を区切る、またはつなげるなどの切り替えをすぐにできるフレキシブル性を備えることは、人事課が抱える課題解決に非常に適したアプローチだと感じました。

予約表に関しては、これまで予約者と予約時間のみ入力していましたが、定量調査のため利用目的と人数も入力するフォーマットに変更しました。入力の手間は少し増えたかもしれませんが、それよりも利用目的と人数を把握できるようになったメリットを感じています。「会議なら難しいけれど、作業ならば声をかけられるかもしれない」と、周囲が会議室の利用状況を判断しやすくなったので、「見える化」の重要性を感じました。

人事課では実証実験より以前から、マインドアップ(意識向上)に関する取り組みを続けてきました。若手に声をかけて受付のレイアウトを変更したり、倉庫を片付けたりといった地道な改善活動を行っていたおかげか、そうした活動の一環としてこの実証実験に取り組むことができました。そういう意味では、実証実験を含めこうした改善活動を日常的に継続していくことが、職員の意識改革や組織としての柔軟性を維持することに良い効果があると思っています。

(作成/コクヨ)

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