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「学習の質」を高めるための「教室のデザイン」の考え方 -カリフォルニア大学バークレー校-

「教室デザイン」と「学習の質」は、切っても切れない関係にあります。なぜなら教室デザインにより、そこで実施される教授・学習活動は制限され、あるいは方向付けられるなどし、学習の質に少なからず影響を与えると言えるからです。学習の質を向上させるために教室デザインに求められることは、学習者の安全性・快適性・利便性を考慮して、教材・教具・メディア・什器などを配置することです*0


今回は、「いま求められる学び」を踏まえたうえで、理想のアクティブラーニング教室の在り方を考察したいと思います。

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渡辺雄貴(わたなべゆうき)



 1979年生まれ。東京理科大学理学部卒業。東京工業大学大学院社会理工学研究科修了。博士(学術)。東京理科大学教育支援機構教職教育センター准教授。理学部第一部教養学科、大学院理学研究科科学教育専攻所属。専門は教育工学、インストラクショナルデザイン(授業設計)、学習環境デザイン。著書に『学習設計マニュアル: 「おとな」になるためのインストラクショナルデザイン』(北大路書房、共著)、『学生を自己調整学習者に育てる:アクティブラー二ングのその先へ』(北大路書房、共訳)など。

 

アクティブラーニングを本質的なものとするために

 今日では、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力を備え、自らを律しつつ他人と協調し、他人を思いやる心や感動する心を持ち、豊かな人間性を備える、「21世紀型スキル*1」を身につけることが求められています。日本においても2012年の答申*2により、大学教育には「能動的な学習であるアクティブラーニングへの転換」という、質的転換を行うことが求められています。また、初等中等教育における学習指導要領の改訂により、「何を学んだか」だけではなく、「どのように学んだか」が重視されつつあります。今後、この主体的・対話的で深い学びとしてのアクティブラーニング型授業世代の学生を、大学はどのような空間で迎えれば良いのでしょうか。

 

 日本においてしばしば登場するアクティブラーニングの定義・要件*3には、以下のものがあります。

(a) 学生は、授業を聴く以上の関わりをしていること

(b) 情報の伝達より学生のスキルの育成に重きが置かれていること

(c) 学生は高次の思考(分析、総合、評価)に関わっていること

(d) 学生は活動(読む、議論する、書くなど)に関与していること

(e) 学生が自分自身の態度や価値観を探究することに重きが置かれていること

(f) 認知プロセスの外化を伴うこと

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 アクティブラーニングでは学生に対して、スキルの育成(何ができるようになるのか)に重点を置き、学生は高次の思考(深く考えさせる)課題を行い、活動を行い、自分自身の探求をし、その認知プロセス(考えた過程)が外化する(表に出てくる)ことが重要だとされています。アクティブラーニングは、ただ議論(ディスカッション)をするだけでは成立しません。知識を得た上で、よく考えて、その考えた過程を外に出すことで、友人との差に気づきます。そして、グループでの議論や書くことによって、また考える、という循環が行われることが必要でしょう。ですから、アクティブラーニングを捉える際は、2軸で考えるのが良いかもしれません。これは、マルチメディアラーニングの学習理論で用いられるモデルを援用したものですが*4、一方は、物理(身体)的な能動性(右図縦軸)、他方は認知的な能動性(右図横軸)です。物理(身体)的な能動性が高く、認知的な能動性が低い学びとして頻繁に目にするものとして、例えば、ディスカッションしているように見えるが、実際はあまり考えていない状態や、特に考えずとも書ける課題などが挙げられます。これらは、もはやアクティブラーニングとは言えないのでしょう。アクティブラーニングでは、認知的な能動性をどう高めていくかが重要です。

 

 

 こういった学びを実現する、理想のアクティブラーニング教室をどのようにデザインするかは、そこで行われる授業や学習によって異なるはずです。例えば、専門科目と教養科目という科目の特性が挙げられます。前者は、専門内容の学習目標があり、授業方法の一部がアクティブラーニングになります。後者は、そのパターンもあればアクティブラーニングをすること自体が学習目標になっていたりすることもあるでしょう。また、学部、大学院などの段階によっても異なります。このように、「アクティブラーニング」と一言で言っても、その様相は様々あり、どのような教室がよりその授業で行われるべきアクティブラーニングに適しているかは、授業設計にも関係します。先ほどご紹介した、アクティブラーニングの定義と要件は、1991年にアメリカで出版された雑誌に登場するものです。アメリカの大学では1960年代後半には、ユニバーサル化段階(いわゆる大衆化)に入り、たくさんの学生を高等教育機関に受け入れ、教育を行ってきた経緯があります。しかしながら、未だにアメリカ国内の大学教育を議論する学協会*5では、「どのようにアクティブラーニング授業を設計するか」などのテーマに多くの人が集まり、熱心に議論されています。このことからもわかるように、アクティブラーニングに正解はなく、どのようにより良くしていくかということを考え続けていく必要があると言えるでしょう。

カリフォルニア大学バークレー校×アクティブラーニング

 ここからは、アメリカ合衆国にある、カリフォルニア大学バークレー校で、実際にどのような学習空間をデザインし運用しているかを参考にしながら、理想のアクティブラーニング教室を考えてみたいと思います。

 

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 こちらの教室は、アクティブラーニング教室として新しく設置された空間の1つです。テーブルは4~6人でグループ学習を行うことに最適化されていて、人数増減によりテーブルサイズを変更できる設えです。メンバーの誰かが持参したPCの映像を大型ディスプレイに映しながら議論をしたり、成果物を作成しまとめたりすることが可能です。さらにホワイトボードは、壁面固定タイプと、取り外しが可能なタイプの2種類があり、PCで調べながらホワイトボードにまとめるなどの学習活動を支援しています。

こちらの写真にもあるグループテーブル、ディスプレイ、ホワイトボード(インタラクティブホワイトボードの場合もあります)の組み合わせは、近年アメリカで、多くの大学が導入しています。これはまさに、21世紀型スキルを養成するための学びに必要なツールであると考えられます。

 

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 また、授業が変われば、授業外の学びも変わります。こちらの写真は、キャンパスのほぼ中央に位置する図書館です。多くの学生がPCを持参し、あちらこちらでディスカッションをしています。ホワイトボードも使いながら、自分たちの意見をまとめ、いきいきと活発な議論をしていました。また、図書館に常備されたPCもあり、必要に応じて使っていました。

 このように昔と比べて図書館の使われ方が変化してきているわけですが、それに応じてゾーニングのルール(ここは話して良いエリア、ここは静かにするエリアなど)が徹底されており、皆が快適に使えるような工夫が随所にされていることがわかります。

 授業外学習として、カリフォルニア大学バークレー校にも、FabLab.*6があり、そちらも多くの学生が集まっていました。

 

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 そして3つ目の空間は、Academic Innovation Studio(アカデミックイノベーションスタジオ:ATS)と呼ばれるエリアです。バークレーの教育学習支援組織である、Center for Teaching and Learning(教授学習センター:CTL)*7とEducational Technology Service(教育技術支援センター:ETS)*8が共同で運営している、教員、スタッフ向けの教育支援施設です。ここで行われている支援は多岐にわたります。例えば、FDの一環のような、セミナーの開催や、教室のAV環境を再現したラックの使用説明、簡易的な反転授業用の動画収録スタジオ、編集機材、その使用方法の説明ワークショップなどがあります。またCTLには、高等教育学やマネージメント、教育評価、アクティブラーニングなどを専門とするスタッフ*9が常駐し、包括的な教育支援を行っています。ETSも同様に、教育工学などを専門とするスタッフが常駐し、学生の要望に応えられる体制を整えています。

理想のアクティブラーニング空間構築のポイント

 以上より、アメリカの大学では、21世紀型スキルの育成を前提とした、新たなアクティブラーニング空間の整備がされていることをご覧いただけたかと思います。当然、座学中心の授業におけるアクティブラーニングも行われています。例えば、前述の学協会に、EducauseやNext Generation Learning Spacesというものがあります。この年次会議では、様々な大学の実践例を報告し、ディスカッションが行われています。その内容は、大学が置かれている環境やミッション、授業で扱う様々な専門科目の中で、どのようにアクティブラーニングを位置づけるかなど、多岐に渡ります。こうした実践例をも参考にしながら、教室のデザインをしていくことで、学習者中心設計の理想のアクティブラーニング教室や支援体制が構築できるのでしょう。

 学びの場を構築する上で重要なことは、どのような科目に対してどのような学習目標を立て、どのような授業方法を取るかを考えることです。さらにアクティブラーニングの効果や効率、魅力、つまりは「学びの質」*9が、「教室のデザイン」によってどのように高まっていくかを考える必要があると言えます。理想のアクティブラーニング教室を構築するために、まずは、授業に参加する学生の特性や、その授業の学習目標を知ることからはじめるのが良いのではないでしょうか。

 

 

*0 「学習空間」の定義はいろいろありますが、ここでは教育工学事典において坂本昴氏がまとめた「学習空間」によるものです。

*1 21世紀型スキル(Assessment and Teaching of 21st Century Skills)

  国際団体ATC21sによって定められた、デジタル時代である21世紀以降に必要とされるリテラシー的スキル。具体的には、思考の方法(想像力、批判的思考力、課題解決力、学び方を知る)、仕事の方法(コミニケーション、コラボレーション)、仕事のツール(ICTリテラシーなど)、地域と国際社会での市民性(地域と国際社会での市民性、人生とキャリア設計など)などが紹介されている。

*2 新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて(中央教育審議会 2012)

*3 Active Learning: Creating Excitement in the Classroom (Bonwell & Eison、 1991) をもとに、松下佳代氏が著書『ディープ・アクティブラーニング 大学授業を深化させるために』のなかで訳、紹介したものを引用しています。

*4 Mayer氏が著書”Multimedia Learning”の中でまとめている「有意義な学習」の定義によります。 

*5 アメリカの高等教育、授業改善、ICT活用教育に関する学協会として、The Professional and Organizational Development (POD) Network in Higher Education、The Teaching Professor Annual Conference、Educause、Next Generation Learning Spacesなどがある。

*6 Fabrication Laboratoryは、 デジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた、実験的な市民工房のネットワークです。 個人による自由なものづくりの可能性を拡げ、「自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化」を醸成することを目指しています。(FabLab Japan Network)

*7 Center for Teaching and Learningは、CTLと呼ばれ、アメリカの多くの大学に同様のセンターがあり、教育、学習支援や教室のデザイン、FD(Faculty Development)活動などを行っています。

*8 本文中では、Educational Technology Serviceを教育技術支援センターと翻訳していますが、正式には、「教育工学サービス」となります。Technologyをどのように感がえるかが重要なのですが、ここは「技術」かなと考えています。

*9 アメリカの高等教育機関において、専門的に働くスタッフは、専門とする分野や関連分野で大学院を修了し、博士号を持ち、研究活動も行っている。日本の大学システムにおいては、教員と同じ。

*10 私の専門とするインストラクショナルデザイン(授業設計)では、教育活動の効果、効率、魅力を高めるための手法を集大成したモデルや、研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセスとしています。

 

参考資料:稲垣忠、 鈴木克明編著(2015)授業設計マニュアルVer。2 [第2版] : 教師のためのインストラクショナルデザイン、北大路書房

 

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2018.06.27
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