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さまざまな"学びのカタチ"にふれて"教える力"を身につける。教員養成のためのアクティブラーニング教室〜「東京理科大学AL教室」事例レポート

1881年に設立された「東京物理学講習所(後の東京物理学校)」を前身とし、日本を代表する理工系総合私立大学として数多くの人材を輩出してきた「東京理科大学」。同校神楽坂キャンパスの852教室が「アクティブラーニング教室」として生まれ変わったのは2018年4月のことでした。理数教員養成に力を入れる同校が、日本でも数少ない“教員養成のための”アクティブラーニング教室を作った理由とは? 今回のレポートでは、その背景に迫ります。

 

これからの時代に求められる“教える力”を育むために

過去10年間で1,442人もの教員就職者を世に送り出し、2017年度には106名の中学・高校教員採用者を輩出した東京理科大学。国内トップクラスの“教員養成力”で知られる同校にこの春登場したのが、日本でも前例のない“教員養成のための”アクティブラーニング空間です。70名〜80名ほどを収容する広々とした空間に足を踏み入れると、そこには長方形、三角形、勾玉型など、さまざまな形状の可動式テーブルや可動式チェアがずらりと並びます。また、教室の周囲を見渡すと、電子黒板としても使用できる5台のプロジェクターや黒板、可動式ホワイトボードなどの教育設備が常設されています。

 

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「現在、中学校・高校の教育現場ではICTを活用したアクティブラーニング型授業を展開できる人材が求められています。アクティブラーニング教室設置の大きな目的は、将来、教育実習生や教員として教壇に立つ学生たちが、アクティブラーニング型授業を行うための“教える力“を育むこと。理学部のある神楽坂キャンパスには、教職課程を履修する学生が1学年あたり350名以上います。彼らはこの教室での授業を通じてこれからの時代に求められる“学び”を自ら体験し、さらに模擬授業などを通じて“教える力”を身につけていく。そのためには、実際の教育現場を想定した教育家具や設備を備えた空間が必要だったのです」と、同校教職教育センター長の眞田克典教授(下写真左)、事務局の山﨑美紀係長(下写真右)は話します。

 

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アップテンポな授業で、さまざまな“学びのカタチ”を体験

この日、アクティブラーニング教室で行われていたのは理学部第一部応用数学科3年生約40人を対象とした「数学科教育論1」の授業でした。教職教育センターの渡辺雄貴准教授が展開する授業では、3人〜6人ずつのグループに分かれた学生たちが、高校の数学で学ぶ「標本平均の期待値と標準偏差」をテーマに、さまざまなグループワークを行っています。授業の序盤では、2人のバスケットボール選手の得点記録を比較しながら“数学的に妥当性のある選手の評価尺度”を考察。その結果を隣のグループに対してプレゼンテーションしていきます。また、続く中盤のワークでは隣のグループの発表内容について“数学的な妥当性に疑義がある点”を検証。その内容について再び発表を行いました。

 

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いずれのワークも10分、20分と時間を区切りながら行うため、とてもアップテンポな展開。学生たちは椅子やテーブルを移動させながらホワイトボードやレポート用紙を使って議論を重ね、それぞれの答えを導き出していきます。落ち着いた表情で授業を受ける学生たちですが、おそらく頭の中は常にフル回転。知的好奇心が刺激されていく様子が、ひしひしと伝わってきます。また、プレゼンテーション時に、投げても平気なワイヤレスマイクを使ってランダムに発表者を決めるなど、学生の能動性を引き出すような遊び心があることも印象的でした。では、今回の授業はどのような狙いのもとで設計されたものなのでしょうか?

「ひと言で数学の授業といっても、教授法はひとつではありません。学習目標や学習内容,対象とする学習者の経験や学力などによって、授業方法は変化します。今回の授業では,シンガポールの実践を参考に、教科書の内容をそのまま教える従来型の講義スタイルによる座学『Direct Instraction(ダイレクト・インストラクション:以下DI)』はもちろん、生産的な失敗を伴う問題解決形の教授法『Productive Failure(プロダクティブ・フェイリャー:以下PF)』、他者の失敗を検証することで学びを深める教授法『Vicarious Failure(ヴァイカリアス・フェイリャー:以下VF)』など、数学にはさまざまな教授法があります。今回の授業では最初に“数学的な妥当性の検証”を行いましたが、これは『PF』。続いて行った“疑義の検証”は『VF』にあたります。教育や授業方法は、再生産されがちなものなので、自分が習ったことのない方法で教えることは難しい。だからこそ、将来教員になる学生には、まず自分自身が学習者としてさまざまな教授法にふれてほしい。その経験こそが、いざ教える立場になったときの“引き出しの多さ”につながるからです」と、教育工学を専門とする渡辺准教授は教えてくれました。

さまざまな学びのカタチを体験することで、教員としての能力を向上させる。それがこの日に行われていた授業の狙いでした。

 

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参考資料:
Manu Kapur(2014) Productive Failure in Learning Math, Cognitive Science, 38:5, 1008-1022

 

目指したのは“教習所”!? 教室に散りばめられた工夫とは

さまざまな学びのカタチを体験してほしい−−−−−−。その思いは、アクティブラーニング教室の空間設計にも活かされています。設計を手がけた渡辺准教授は「ひと言でいうと、先生になるための“教習所”です」と新教室のコンセプトを表現します。

「自動車教習所には、S字カーブがあり、クランクがあり、信号がある。それは、実際に町で運転するときに遭遇するであろうシーンを意図的に再現するためです。アクティブラーニング教室の設計思想も全く同じで、学生たちが教員になったときに直面する可能性のある状況を、なるべくたくさん作りたかったのです。学生が大学に入学し、教育実習などで高校に戻る場合、最低でも4年の年月が必要です。ところが、教育の現場は刻々と変わっていますから、『アクティブラーニングをやってほしい』と頼まれることもありますし、教室の設備が大きく変わっている可能性もある。だからこそ、あえてアクティブラーニングに使われる教育家具や設備を、できるだけ幅広く揃えることを意識しました。たとえば、テーブルの形はあえて長方形、三角形、勾玉型などバラバラにしていますし、最新の電子黒板だけでなく昔ながらの黒板も設けています。学生自身が授業を通じてさまざまな教育設備を使っておくことで、教える立場になったときに効果的に設備を使用できるようにするためです」(渡辺准教授)

 

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前期は授業を通じてさまざまな教授法や設備にふれる学生たちですが、後期にはこのアクティブラーニング教室を使った模擬授業も行われるといいます。

「常設のプロジェクター5台と可動式のプロジェクター2台を使い、空間をホワイトボードのパーティションで区切ることで、この教室内に小さなアクティブラーニングスペースが7つ出現する計算になっています。各スペースでは、学生たちが模擬授業を行い“教える力”を身につけていく。もちろん教室の中央からは、四方で展開される学生たちの模擬授業が確認できるようになっているので、教員が必要なタイミングでアドバイスすることもできます。講義を通じて教え方を“学ぶ”前期と、模擬授業で教え方を“実践する”後期。変容する授業内容に対応できることも、アクティブラーニング教室の重要な要素ですね」(渡辺准教授)

 

誰に何を教えるのか。その問いこそが空間設計の出発点

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日本でも数少ない“教員養成のためのアクティブラーニング教室”には、生徒の“教える力”を育むためのさまざまな仕掛けが施されていました。最後に教育工学を専門とする渡辺准教授(上写真)に、効果的な学習空間を設計するためのポイントをお聞きしました。

「最も大切なのは、どのような学習者にどのような学びをしてほしいのかをしっかり見定めることだと思います。具体的な学習者の姿を把握し、彼らが到達すべきゴールを設定できたなら、あとはその間にどのような道筋が必要なのかを考えればいい。それは、授業内容を設計するときも、教育空間を設計するときも同じなのだと思います。今回、東京理科大学に新しく生まれたアクティブラーニングスペースは、“教員養成”という目的のために最適された空間です。この教室を使って “教える力”を身につけた学生たちが、将来は教育現場でリーダーとして活躍するようになることを祈っています。」(渡辺准教授)

東京理科大学の神楽坂キャンパスに誕生した“教員養成のためのアクティブラーニング教室”ですが、今後は、他キャンパスにも展開していく計画があるといいます。教員養成分野で日本トップクラスの実績を持つ東京理科大学の取り組みは、今後の日本の教育にとっても大きな一歩になってゆくでしょう。

 

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