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変革期こそチャンス! ICTを活用し、学びをアップデート ~「市川学園 市川中学校・高等学校」事例レポート~

千葉県市川市に位置する「市川学園 市川中学校・高等学校(以下:市川学園)」は、中高一貫教育を行う男女共学の私立学校。千葉県屈指の進学校として知られてきた同校は、2020年の高校・大学・大学入試の一体改革に向けて学びのカタチを大きく変えようとしています。1937年の建学以来揺るぎのない教育思想と、最新のツールを駆使したアクティブラーニング。絶妙なバランスで質の高い学びを実現する同校の事例をレポートします。

発表、議論、グループワーク......。スピーディーで熱気あふれる中学校の授業風景

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教室に入ってなによりも驚いたのは、授業のテンポの速さと、そこに飛び交う"言葉"の多さでした。たとえば、中学3年生の英語の授業。2人1組に向き合った生徒たちは、ひとりがインドネシアの森林消失を題材に英語のスピーチを行い、もうひとりがその様子をタブレットで熱心に撮影しています(写真左上)。中学2年生の地理の授業では、電子黒板に映し出された北米地図のなかから、気候などの条件をもとに、特定の都市を探し出しています(写真右上)。

 

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先生が板書し、生徒がノートに写す―――――。一斉講義型授業では当たり前だった風景は、ここにはありません。授業後、中学2年生の生徒に感想を訊ねると「普通の授業より、ずっと面白い!全部こういうのがいいです」という元気な答えが返ってきました。

 

これらの学びが行われているのは、市川学園に2016年4月に新設された「ALICEマルチルーム」。既存の特別教室(3室)をリフォームしたこの空間には、2つのプロジェクターと3つの大きなホワイトボード、42台のタブレット端末、さらに持ち運び可能なミニホワイトボードなどが備えられています。既存の椅子や机を利用するため、教室の見た目は一見シンプル。しかし、随所に新たな教育ツールが過不足なく配置されています。ALICEマルチルームを実際に使用する地理の笹尾先生は「ICTを活用することでプリントの配布や地図の掲出、板書などの時間が短縮できるため、その分の時間を議論や発表に充てることができます。生徒たちも、ただ黒板を写すのではなく、質問したり、メモを取ったりと、常に判断力が問われる授業となるので、とても集中していますね。中2は気が緩みがちな時期ですが、積極的に授業に参加しています」と、早くも手ごたえを感じている様子でした。

 

さて、市川学園のALICEマルチルームは、どのような思想のもとで構築された空間なのでしょうか。

教育の変革期こそ、既存の"学び"を問い直す好機

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写真左から、鈴木省二法人本部長、宮崎章校長、古賀正一理事長・学園長、守脇竜彦教育研究部長

 

「市川学園は来年、創立80周年の節目を迎えます。その記念事業のひとつとして進めているのが、『ALICE(Active Learning For Ichikawa Creative Education)プロジェクト』です。いわゆる"高大接続システム改革"として示されている通り、現在の教育は大きな変革期にあります。市川学園には、判断力や思考力、自主性、協働性を培う21世紀型の教育に先行して取り組みたいという強い想いがあります。それが、今回のプロジェクトの出発点です」と、市川学園の古賀正一理事長は熱く語られます。

 

ALICEプロジェクトでは、今年導入した「マルチルーム」3室を皮切りに、今後は最新機器を導入したフラッグシップ教室「メインルーム」2室、さらに中学校の「ホームルーム」すべてにプロジェクターの導入を計画しているといいます。しかし、「アクティブラーニング=ICTと考え、立派な設備だけ導入するのでは意味がない」と古賀理事長は付け加えます。

 

「本学の建学の精神のひとつに"第三教育"があります。第一の教育は家庭、第二の教育は学校、そして第三の教育は、自分で自身を教育すること。つまり、能動的な学びこそが建学以来変わらない教育の原点であり、本質だと私たちは考えています。だからこそ、ICTだけをアクティブラーニングの前提とするのではなく、生徒の能動性を引き出すための教育のあり方をあらためて問い直すことが大切なのです。そこで今回は、まず 『教育研究部』という部署を設立し、これからの時代に目指すべき教育空間や教育手法についての戦略を模索しました。その中で、ALICEプロジェクトを具現化する様々なアイデアが出てきました。結果として、既存の教育コンテンツを含む"学び"を見つめ直すチャンスになったとも考えています」

ICTに使われるのではなく、ICTを使う教育を

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創立80周年事業として行われる市川学園の「ALICEプロジェクト」。しかし市川学園では、プロジェクト発足以前からアクティブラーニングを取り入れた"学び"について、さまざまな試みが行われていました。たとえば、2013年に宮崎章校長が自ら手がけた少人数型のゼミナールもそのひとつです。

 

「もちろん過去にもアクティブラーニングのような授業はありましたが、全体として見るとやはり講義型の授業が主流。大学教育におけるゼミや実験室のように、少人数で生徒が活発に学べる授業を取り入れることで、学力のさらなる向上につながるのではないか。そんな思いから当時の中学校3年生を対象に、放課後の少人数ゼミナールを行いました。ゼミナールの内容は、当時の修学旅行先だったシンガポールの歴史や文化について、現地の教科書を使いながら学ぶというもの。生徒たち自身がテーマについて調べ、発表し、質疑する......。一人ひとりが活き活きと学ぶ様子を目の当たりにし、アクティブラーニングの可能性を改めて実感しました。その後、東京大学の『KALS(駒場アクティブラーニングスタジオ)』の視察などを行う機会もあり、『学びの場を変えれば、授業も変わる』という想いが強くなりました。現在の『ALICEプロジェクト』の土台には、こうした経験や試みの積み重ねがあるのです」と宮崎校長は話します。

 

「創立80周年の節目に向けて、生徒の"知"、"徳"、"体"に資する施設を作る。その一環として始まったのが、ALICEプロジェクトです」と鈴木省二法人本部長。そして、同プロジェクトの大きな推進力となったのが、2015年に設立された「教育研究部」なのだといいます。

 

「教育研究部は現在、各教科2名ずつの教員からなる10名で構成されています。昨年度の主な活動はALICEプロジェクトの第一弾となるマルチルームの設備仕様を決めていくことでした。ただ、いくつもの先行事例を視察・研究するうちにわかってきたのは、『どんなに充実した設備があっても、使いこなせなければ意味がない』ということでした。そこで、まずアンケートや討議を通じて教員たちが、今後取り組みたい授業のあり方を整理。そのためにどのような教育ツールが必要なのかを議論しました」とは、守脇竜彦教育研究部長。

 

空間ありきで"学びのカタチ"を考えるのではなく、目指す教育手法から空間に必要な要件を積み上げていく。その点がALICEプロジェクトの成功のポイントだと守脇先生は話します。そして、「ICTに使われるのではなく、ICTを使うという意識も大切」とも。ただICTを取り入れるだけが、アクティブラーニングではない。その考えを象徴しているツールが、グループワーク用に導入したミニホワイトボードです。

 

「たとえば、シンプルなホワイトボードがあるだけで、生徒たちの議論やグループワークは、飛躍的に加速する。必ずしもICTを活用する必要はないと思うのです。ただし、ホワイトボードには情報を保存できないという短所があります。それを補うためにタブレットやプロジェクターがあるというイメージですね。もちろん電子黒板やプロジェクターは、とても強力な教育ツールになり得ます。ただ、使いこなせなければ意味がありませんから、やはり『どう使うか』が最も大切なポイントなのだと思います」

知見や経験をシェアすることで、"新たな学び"が伝播する

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教育研究部の特徴的な活動のひとつに、教員同士が授業手法や新たな教室の使い方について意見交換する『チャットルーム』があります。昨年度は年間6回開催。アクティブラーニングのあり方や、授業で起こったことについてフランクに話し合える場を設けることで、ICTを使った授業に積極的に取り組む教員の知見や体験を、他の教員に伝播させる狙いがあるといいます。

 

「教育研究部には、率先してアクティブラーニングに取り込む各教科の教員がおり、私たちは彼らを『エバンジェリスト(伝道師)』と呼んでいます。チャットルームでは、エバンジェリストを中心に、プレゼンテーションや模擬授業を行っています。"ICTを使ったアクティブラーニング"というと、どうしても構えてしまう教員もいるものですが、チャットルームへの参加を通じて『面白いし、自分もやってみたい』という声も増えています。そして、実際に自分の授業で使用してみると、生徒の顔が輝いているのが見える。こうなると、教員はうれしいものですから、当初は敬遠していたICTを使ったアクティブラーニングにハマるわけです(笑)」

 

せっかく新たな教室を作っても、特定の教員だけが使用するのではもったいない。多くの教員に"新たな学び"の手法を伝播させていくことも、教育研究部が取り組む大切なテーマです。

 

「マルチルームの導入を機に"教員同士が互いの授業を見合う文化"が生まれたことも、教育の質を高める上での大きな収穫だったと思います。多くの教員が使用できるようにするためには、できるだけシンプルで操作性の良い設備仕様にすることも重要ですね」と、守脇先生。

 

「既存の教育手法を見直し、生徒の能動性を引き出す仕掛けを考えることは、とても大変な仕事です。ただ、一度良い教育コンテンツを作ることさえできれば、それが翌年以降の共有資産になりますし、みんなで協力してブラッシュアップしていくこともできます。ALICEプロジェクトを通じて得た経験は、今後の市川学園の学びのあり方の可能性を広げてくれたと思います」

 

新たな高大接続の実現に向けた一体改革――――。今、中高における教育は、大きな変革期にあります。市川学園が取り組むALICEプロジェクトは、今後の"学びのカタチ"を方向付け、牽引していく事例のひとつとなるでしょう。

 

2016.02.25
第2回 原西保育園 (保育園)
2016.06.30
アクティブラーニング空間構築 4つのポイント

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